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M&Aの表明保証とは?契約時の重要項目、判例、表明保証保険を解説
監修者:伏江 亜矢(株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長)

M&Aの契約時に、当事者や会社についての事実関係や法律関係が真実かつ正確であることを表明する表明保証。本記事では、表明保証の目的や主な内容、違反した場合、裁判事例、表明保証を規定する際の留意点、表明保証保険等、実務に精通する専門家が解説します。

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表明保証とは

表明保証とは、契約締結時に、契約対象の事実関係や法律関係が真実かつ正確であることを表明し、それを保証することを言います。M&Aにおいては、株式譲渡契約または事業譲渡契約の締結時や、株式譲渡契約または事業譲渡契約の実行時に表明保証を行います。

表明保証が重要な理由

表明保証にもかかわらず内容に虚偽があれば、表明保証をした側の当事者は、表明保証の違反によって相手方が受けた損害を賠償しなければなりません。

表明保証があれば、万が一の場合には損害賠償を請求できるため、当事者としては安心して契約手続を進められるのです。

M&Aの手続きにおいて、買主は、デューデリジェンスを実施しますが、それでも全ての情報を把握できるわけではありません。そのため、真実性や正確性が担保されていない事実によって損害を負うリスクを抱えています。買主としては、売主が表明保証をしてくれることで、このリスクを回避できるため、表明保証は重要な意味を持ちます。

一方、売主にとっても、買主がリスクを恐れるあまりに価格の減額を要求してきたり、契約の締結を拒んだりする事態は避けたいところです。この場合、売主にとっての表明保証は、買主を説得し適正価格での契約を成立させるためのツールになります。

このように、表明保証は、M&Aにおける買主・売主の両者にとって重要な意味を持つのです。

▼以下の記事では、財務デューデリジェンスについて解説しています。

表明保証の主な内容

表明保証の主な内容は、契約当事者についての事実関係・法律関係を内容とするものと、株式の所有やM&Aの対象会社についての事実関係・法律関係を内容とするものに分けられます。

契約当事者についての内容は、買主と売主双方が表明保証し、株式の所有・対象会社についての内容は売主が表明保証するのが通常です。

表明保証の具体的な内容としては、次のものを挙げられます。

契約当事者についての内容

○契約当事者が契約の締結能力と締結権限を有していること

○契約の締結に際し、法令や社内規則等の違反がないこと

○契約締結に必要な許認可等の手続きを履践していること

○反社会的勢力またはそれに関連する者でないこと

株式の所有・対象会社についての内容

○売主が株式を所有していること、ストックオプションや新株予約権、担保権が設定されていないこと

○財務諸表、計算書類が適正であること

○簿外債務、偶発債務が存在しないこと

○労組問題、社会保険料の未払い、残業代の未払いなど人事問題が存在しないこと

○取引先との契約における債務不履行が存在しないこと

○法令違反、訴訟係属など紛争に関する事項のないこと

表明保証に違反した場合

表明保証に違反があった場合は、表明保証に伴う契約内容によって、損害賠償請求または補償請求ができます。違反の程度によっては、契約解除やクロージングを成立させないなど、契約そのものが無くなる可能性もあります。

損害賠償請求と補償請求のいずれにおいても、表明保証に違反したことへの故意・過失は問われません。表明保証の効力を高めるため、表明保証を行った側の無過失責任とする例が多いです。

どちらの請求も、表明保証に違反したことで、相手方が負った損害を補填するものです。それぞれの請求は、損害賠償が違法な行為によって生じた損害を補填するもの、補償が法律に違反しない行為によって生じた損害を補填するものという点に違いがあります。

表明保証違反の裁判事例

表明保証については、表明保証に違反するか否かの判断や損害額の算定が難しいため、裁判によって争われるケースも少なくありません。

表明保証違反に対する買主の主観的要件が問題となった事例

東京地裁平成18年1月17日判決(判タ1230号206頁)では、売主の表明保証違反について、買主が契約締結時に悪意または重過失によって知らなかった場合、売主は表明保証責任を負うか否かが問題となりました。

東京地裁は、本件の買主については、そもそも重過失が認められないと判断しましたが、「原告(買主)が被告(売主)らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることについて善意であることが原告の重大な過失に基づくと認められる場合には、公平の見地に照らし、悪意の場合と同視し、被告らは本件表明保証責任を免れると解する余地があるというべきである。」として、買主に重過失が認められる場合には、売主は表明保証責任を免れるとの判断を示しました。

さらに、東京地裁平成27年9月2日判決(LEX/DB 25531197)においても、「表明保証条項違反について、株式の譲渡人が責任を負うための要件として、譲受人が善意無重過失であることが必要となると解する余地があることは、被告らが主張するとおりである。」との判断が示されています。

つまり、買主が売主に対して表明保証責任を追及するには、主観的要件として善意無重過失が要求されるのです。

表明保証における損害額の認定が問題となった事例

東京地裁平成24年1月27日判決(判例時報2156号71頁)では、売主の所有する工場に消防法違反が存在していたとして、売主に表明保証違反が認められました。この事例では、消防法違反の状態を是正するための工事費用が損害額として認定されました。

表明保証の損害額をめぐる裁判では、表明保証違反の状態を是正するために必要な費用が損害額として認定される事例が多いです。

たとえば、簿外債務が存在した場合は、その支払いに必要な金額が損害額となります。表明保証の状態を是正するために買主が費用を投じたとしても、表明保証の内容を上回るような過度な投資であった場合には、全ての費用が損害額として認定されるとは限りません。

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表明保証を規定する場合の留意点

契約を急ぐあまりに安易な表明保証をしてしまうと、損害賠償や契約解除などのリスクを負うことになります。ここでは、売り手・買い手それぞれが表明保証を規定する際に、最低限押さえておくべきポイントを解説します。

売り手にとっての留意点

表明保証において売り手が押さえておくべきポイントは、正確な情報開示を行うことと虚偽申告を行わないことです。

売り手としては、情報開示の際に自社に不利益な点があれば、それを曖昧な表現でごまかしたいと考えるかもしれません。

しかし、買い手の誤解を招くような情報開示を行うと、表明保証違反による損害賠償責任を負う危険性が高くなってしまいます。後のトラブルを防止するために、表明保証を伴う情報開示では、ひとつひとつの情報を明確に誤解のない表現で開示するように心がけて頂きたいところです。

虚偽申告を行わないのは当然のことです。虚偽申告によって契約を進めても、それが発覚すれば、契約解除や損害賠償によって、大きな負債を抱える結果となってしまいます。

買い手にとっての留意点

買い手としての留意点は、デューデリジェンスを徹底して行うことです。表明保証違反をめぐる裁判例からすると、買い手としては、表明保証の際に重過失で知らなかった事実については表明保証責任を問うことができなくなる可能性があります。

そのため、買い手としては、デューデリジェンスを徹底し、調査できる情報については確実に調査を終えておく必要があるでしょう。

▼以下の記事では、人事労務デューデリジェンスについて解説しています。

表明保証の限定方法

表明保証の内容は、契約文言によって定めます。売り手としては、自社の側でも調査を行いきれずに、表明保証が難しい事項が出てくることもあるでしょう。

その場合、「~の事項を除き」、「売主の調査の限りにおいて」などの文言を入れることで、表明保証の範囲を限定することも可能です。

表明保証保険について

表明保証違反が認められても、損害額や売り手の経済的状況によっては、損害額の補填が十分に行われないケースも少なくありません。そのような場合に備えるものとして、表明保証保険があります。

ここでは、表明保証保険とは何か、大手損害保険会社が表明保証保険を販売開始した背景などを解説していきます。

表明保証保険とは

表明保証保険とは、表明保証違反による損害を補填するための保険です。表明保証保険は、売り手・買い手それぞれにとって、経済的な損失を補填するための重要な保険です。

売り手側としては、表明保証違反が認められて、損害賠償請求や補填請求を受けた際に、自社で大きな損害を負うリスクを軽減できます。買い手側としては、表明保証違反が認められても、売り手の経済状況などによって損害の補填を受けられないリスクを回避できます。

2020年に国内の大手損害保険会社が販売開始

日本の中小企業は、深刻な後継者問題を抱えています。そのような中で、後継者不在による廃業を回避する手段として、M&Aによる事業承継の活用が増えています。M&Aの活用が増加するのに伴い、2020年以降、大手損害保険会社が、M&A取引向けの表明保証保険の販売を開始しました。

保険の加入によって、表明保証違反によるリスクを軽減し、M&A市場がますます活発になることが期待されるでしょう。

中小M&A向けの表明保証保険も

中小M&A向けの表明保証保険では、保険金の上限は売り手企業の企業価値の1割~2割程度で、保険料は、保険金の上限の1~3%程度の商品が多いです。表明保証保険によっても、全ての損害がカバーできる訳ではない点には注意が必要です。

従来の表明保証保険は、保険料の最低額が1000万円を超えるものなど、中小企業が活用するには難しいものでした。そのような状況の中で、東京海上日動火災保険は、2022年5月から、最低保険料を50万円に設定した中小企業向けの表明保証保険の販売を開始しました。 [1]

今後、中小企業のM&Aにおいても、表明保証保険の活用が期待されます。

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[1] 東京海上日動火災保険株式会社「中小 M&A 向け表明保証保険(国内 M&A 保険 Light)の販売開始」

まとめ

表明保証は、M&Aを成立するうえで欠かせないものです。表明保証がなければ、買い手は安心して契約を締結することができません。

表明保証の正確性が担保され、万が一違反した場合の賠償手段も確保されていれば、M&Aが成立する可能性は高くなるでしょう。

表明保証の正確性を担保するには、買い手・売り手それぞれが表明保証の意味を正しく理解し、留意点を守って表明保証を行う必要があります。さらに、表明保証保険を活用すれば、万が一の賠償手段も確保できます。

▼以下の記事では、M&Aにおける契約書の種類・基本構成・留意点について解説しています。

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伏江亜矢
監修者:伏江亜矢
株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長
金融機関で法人営業を担当後、2012年にコーポレート・アドバイザーズ入社。M&Aの事前準備から、候補先のソーシング、企業価値評価、条件交渉、クロージングまで一気通貫した支援を行っている。 ヘルスケア・ライフサイエンス(医療・介護・メーカー・卸商社)、IT・ソフトウエア(Webサービス、システム開発)、人材サービス(派遣、警備、ビルメンテナンス)などのM&A支援経験が豊富。 M&A成功のために必要な情報をわかりやすく解説するコラムサイト「よくわかるM&A」の運営責任者。
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