監修者:伏江 亜矢(株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長) |
M&Aにおける資金調達方法にはいくつか種類があります。本記事では、M&A実施において必要となる資金の種類や、資金調達方法の種類、補助金制度の活用ポイント、資金調達に関わるM&A契約の条項について、実務に精通する専門家が解説します。
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M&Aによりシナジー(相乗効果)のある事業や会社を取得し、事業の拡大を検討する会社が増えています。M&Aを行うことによって、他社が持っている技術やサービスを手に入れることができ、自社単独での成長(オ―ガニックな成長)では実現することのできないスピードでの事業成長が可能となることもあります。
M&A実施の際には、相手先(売却希望案件探し)と並行して、資金調達も重要なタスクになります。
本記事では、M&A実施時の必要資金の種類や資金調達方法について説明をします。
M&A実施において必要な資金
M&Aを実施するうえで必要な資金は主に4つです。
◆ 買収資金
◆ M&A専門家の手数料(仲介手数料、DD費用など)
◆ 税金(消費税など)
◆PMI(M&A後の統合)のコスト(人材投資、IT投資、体制整備など)
買収資金
買収資金とは
M&Aを実施する際、買い手は、売り手から株式や事業を譲り受ける対価として、譲渡代金を支払います。買い手としては、取得金額相当のキャッシュ(=買収資金)を準備する必要があります。
取得金額の決め方と主な評価手法
取得金額(譲渡代金)は、売り手と買い手の交渉によって決まります。非上場企業(中小・中堅企業)のM&Aにおいては、主に次の3つのいずれか、またはいくつかの手法を用いて価値評価が行われます。この価値評価の結果を参考に、売り手と買い手が交渉のうえ、売却価格/買収価格を決定します。
● DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法) |
⇒ 将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて計算する方法 |
● EBITDAマルチプル法 |
⇒ 類似会社の株価とEBITDA(営業利益+減価償却費)をベースに計算する方法 |
● 純資産プラス営業権法 |
⇒ 純資産をベースに計算する方法 |
▼以下の記事では、M&Aの価格の決め方について解説しています。
M&A専門家の手数料(仲介手数料、DD費用など)
M&A専門家の業務内容と役割
M&Aの専門家には、次のような種類があります。
種類 | 主な業務内容 |
M&A仲介会社 | M&A推進のトータルアドバイザーとして、買い手と売り手の間に立ち、M&A準備・マッチング・条件調整・各種手続き支援を行う。 |
公認会計士 税理士 | 財務・税務・会計の専門家として、財務・税務デューデリジェンス、株価算定、ストラクチャー設計、税金計算の支援をする。 |
弁護士 | 法務の専門家として、法務デューデリジェンス、契約書のドラフト作成・レビューを行う。 |
社会保険労務士 | 人事労務デューデリジェンス、M&A後(PMI)の各種規定改定や人事コンサルティングを行う。 |
金融機関 | 案件紹介やFA(フィナンシャルアドバイザリー)業務、買収資金の融資などを行う。 |
マッチングサイト事業者 | プラットフォーム上で、売り手と買い手のマッチングを行うサービスを提供する。 |
M&Aを実施する際は、M&Aの専門家に依頼するのが一般的です。なぜならM&Aの実務は多岐に渡っており、専門家が入らないとスムーズに行うことができないからです。
まずは、M&A推進のトータルアドバイザーであるM&A仲介会社に、自社のM&A戦略・ターゲット領域・買収ニーズなどを説明し、対象となるM&A市場の状況(売却案件の状況、価格相場など)を確認するところから開始するのが一般的です。売却情報の入り口は多いほうがよいため、複数のM&A仲介会社のほか、取引銀行などにも相談することをお勧めします。
▼以下の記事では、M&A手数料の相場について解説しています。
税金
M&Aによって事業や会社を売却した側と取得した側にはそれぞれ、様々な税金がかかります。
例えば株式譲渡を行うM&Aの場合、売り手には譲渡所得に対して20.315%の税金がかかります。
譲渡所得は、会社の売却代金から株式の取得費と譲渡費用を引いた金額です。
一方、事業譲渡を行った場合は、売り手には法人税などがかかり、買い手には消費税がかかります。
PMI(M&A後の統合)のコスト
M&Aを行う際、買収資金に注目されがちですが、PMI(M&A後の統合)にもコストがかかります。
M&Aの後、シナジーを出すためには、PMIが重要です。PMIとは、Post Merger Integrationの略で、M&Aの統合効果を最大化するための統合プロセスのことです。PMIの対象範囲は、経営や業務など統合に関わるすべてのプロセスになります。
PMIを有効なものにするためには、人材投資や、IT設備、体制整備などに資金を投入する必要がありますので、買収後のコストも、M&Aを行う際に把握しておくことが大切です。
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▼以下の記事では、PMIについて解説しています。
資金調達の種類
M&Aの資金を調達するための主な方法は5つです。
◆デットファイナンス(銀行借入など)
◆エクイティファイナンス(増資など)
◆アセットファイナンス(債権流動化など)
◆補助金・助成金(事業承継・引き継ぎ補助金など)
デットファイナンス(銀行借入など)
デットファイナンスとは銀行借り入れや社債の発行などによって資金を調達する方法です。
概要と主な種類
シニアローン(一般借入)、メザニンローン(劣後ローンなど)、社債の発行などがあります。
デットファイナンス |
○ シニアローン(一般借入) ○ メザニンローン(劣後ローンなど) ○ 社債の発行 |
シニアローンとは、他の債権と比べると返済順位が高く、金融機関から見てリスクが低いローンです。
銀行からの一般的な借り入れはシニアローンの一種です。シニアローンは担保を提供するのが一般的で、万が一返済できない場合、金融機関は担保を処分し資金回収を行います。
メザニンローンとは、シニアローンと比べて返済の優先度が低いローンです。金融機関から見ると貸し倒れのリスクがシニアローンに比べて高いため、金利は高い傾向にあります。
金利が高い分、審査の難易度はシニアローンに比べ柔軟な傾向にありますが、金利負担が重くなるため、極力シニアローンの利用が好ましいです。
メリット
デットファイナンスのメリットとしては、返済計画が立てやすく、金利が低いのが一般的なため利用しやすい点です。
また、利息分については経費計上できるため節税効果もあります。返済実績を積むことによって、今後の借り入れがしやすくなるのもメリットでしょう。
デメリット
デットファイナンスのデメリットは、ある程度の信用力がないとシニアローンの利用ができないことです。メザニンローンの場合は、シニアローンに比べて利用しやすいですが、金利が高いです。
エクイティファイナンス(増資など)
エクイティファイナンスとは、企業が新しく株を発行して資金調達する方法です。
概要と主な種類
エクイティファイナンスには主に3つの種類があります。
エクイティファイナンス |
○ 株主割当増資 ○ 第三者割当増資 ○ 公募増資 |
エクイティファイナンスの代表的なものについて説明をします。
株主割当増資とは、新株発行をする際に、保有株式数に応じて既存株主に割り振る方法です。
株主は、割り当てられた新株の申し込みをする義務は特になく、既存株主からの申し込みがなければその権利は執行するだけになります。
第三者割当増資とは、特定の第三者に新株を引き受ける権利を与え、増資をする方法です。
第三者割当増資は取引先との関係を安定させたい場合や、株価が低くて株主割当増資などができない場合などに使われます。
公募増資とは、不特定多数の出資者を募るものです。新たな株主が増えるメリットがありますが多額のコストがかかってしまう可能性があります。
株主割当増資:既存株主に新株を割り当てる |
メリット:手続きをスムーズに進めやすい デメリット:既存株主に資金余力に左右される |
第三者割当増資:特定の第三者に向けて新株を発行する |
メリット:意欲の高い出資者に新株を発行できる デメリット:株主構成が変化する恐れがある |
公募増資:不特定多数の出資者に新株を発行する |
メリット:多額の資金を調達できることも デメリット:コストや手間がかかる |
メリット
エクイティファイナンスのメリットは、返済期限のない資金を調達できることです。デットファイナンスの場合、返済期限があり、利息がつくのが一般的です。
デメリット
エクイティファイナンスのデメリットは、発行株式数が増えるため既存株主の価値が薄まってしまうことです。また、多くの株式を特定の株主が保有することになった場合経営に口出しをされるリスクもあるので注意が必要です。
アセットファイナンス
概要と主な種類
アセットファイナンスとは、会社の保有資産(アセット)を売却することで資金を調達する方法です。
会社の保有資産とは、不動産や売掛債権などのことであり、その資産価値を資金に換金することを、アセットファイナンスといいます。一般的に利用されているサービスとして、ファクタリングと呼ばれるものがあります。これは、売掛債権をファクタリング業者へ売却することで、その債権の本来の期日よりも早期に資金調達ができるというサービスです。
メリット
アセットファイナンスのメリットは会社の信用力が低くても資金調達が可能な点です。
ファクタリングについては、取引先の信用力が高ければ自社の信用力が低くても資金調達できますし、不動産や債券の売却についても不動産や債券に価値があれば売却が可能です。
デメリット
アセットファイナンスでは、売却できる資産がなければ資金調達できません。またファクタリングについても、銀行融資やカードローンでの資金調達に比べかなり手数料が高いので注意が必要です。
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補助金・助成金
資金調達の方法として、補助金や助成金を活用することもできます。
2023年3月末現在で利用できる補助金としては、「事業承継・引継ぎ補助金」があります。
事業承継・引き継ぎ補助金
事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継をきっかけとして新しい取り組みを行う中小企業等を支援する制度です。本補助金は、中小企業で後継者が不在となっている状況の中で、費用負担の軽減や事業承継後の積極的な投資を促進するために、中小企業者の事業承継・経営資源引継ぎに要する費用を、一部補助することを目的としています。
スケジュール
公募要領等の申請時に確認すべき資料は、事業承継・引継ぎ補助金WEBサイトにて掲載されます。
M&A仲介手数料等に対する経費に利用できる専門家活用事業の第5次公募のスケジュールは以下の通りとなっています。
申請受付期間 | 2023年3月30日(木)~2023年5月12日(金)17:00まで |
---|---|
交付決定日 | 2023年6月中~下旬(予定) |
事業実施期間 | 交付決定日~2024年1月22日(月)(補助事業完了期限日) |
実績報告期間 | 2023年9月中旬(予定)~2024年2月10日(土) |
補助金交付手続き | 2024年2月上旬以降(予定) |
令和4年度の募集については、全5回あり、5次公募が募集開始しました。
申請期間、公募決定までのスケジュールと、M&Aの進行スケジュールを鑑みて公募時期について決定する必要がある点について、留意が必要です。
なお、例えば1次公募において交付決定した場合、当初予定よりもM&Aの進行スケジュールが後ろ倒しになり、補助対象期間後にM&Aが成立する見込みの場合には、交付決定を取り消し後、5次公募に再応募することも可能です。具体的な手続きや所要時間については、補助金事務局に問い合わせて確認することをお勧めします。
経営革新(買収後の事業再構築など)
事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)には【Ⅰ型】創業支援型、【Ⅱ型】経営者交代型、【Ⅲ型】M&A型の3種類があります。M&Aにおいては、買い手がM&A後の経営統合(PMI)に経費の一部に利用できる可能性があります。
専門家活用(M&A仲介手数料、DD手数料など)
事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用)には、【Ⅰ型】買い手支援型、【Ⅱ型】売り手交代型の2種類があります。仲介会社の手数料、プラットフォーム利用料、デューデリジェンス費用などでの利用が可能です。
経営革新と専門家活用の併用は可能
事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)と事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用)は併用ができます。
▼以下記事にて「M&A補助金/事業承継・引継ぎ補助金」について詳しく解説しています。
資金調達ができないケースを想定して
M&Aを行うためには一般的に大きな資金が必要です。全て自己資金で補える会社は少ないでしょう。
銀行融資や増資、資産の売却など資金調達方法はたくさんありますが、確実に必要な時期までに資金調達できるとは限りません。資金調達ができない場合に備えることを重要です。
ファイナンスアウト条項とリバース・ブレークアップ・フィー条項
資金調達できなかった場合の備えとして一般的なのが、M&Aの契約の際にファイナンスアウト条項とリバース・ブレークアップ・フィー条項を入れることです。
ファイナンスアウト条項とは、銀行などの金融機関から資金調達できない場合は、買収を行わないという条項です。
借り入れができなければ買収を行わないので、売り手側にとっては不利な条項になります。
リバース・ブレークアップ・フィー条項はM&Aが何らかの理由で実行できなかった場合、買い手側が売り手側に違約金を支払う条項です。こちらは売り手側に有利な条項になります。
まとめ
本記事では、M&Aを行う際の資金調達の種類・手法や補助金の活用方法について解説をしました。
M&Aを行うためには買収資金などが必要です。資金調達方法には様々な方法がありますので、自社に合った方法で資金調達を進めていくことになります。
資金調達できなかった場合に備えて準備することも大切です。ぜひ今回の記事を参考にしていただき、M&Aに必要な資金調達の準備を進めていただければ幸いです。
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