監修者:伏江 亜矢(株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長) |
情報セキュリティ業界では、どのようなM&Aが行われているのか?本記事では、当該業界の動向(市場規模推移や、サイバーセキュリティに関する技術者不足の課題など)に基づき、主なプレーヤーやM&A事例を、実務に精通した専門家が解説します。
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情報セキュリティ業界とは
情報セキュリティ業界の定義
IT専門調査会社IDC Japanでは、国内情報セキュリティ市場について、「セキュリティソフトウェア市場」「セキュリティアプライアンス市場」「セキュリティサービス市場」に分類して市場を定義しています。このうち、「セキュリティソフトウェア市場」「セキュリティアプライアンス市場」を合算した市場を「情報セキュリティ製品市場」として分類しています。
情報セキュリティ業界の現状・市場規模
「令和4年版 情報通信白書」によりますと、世界のサイバーセキュリティの市場は、ランサムウェアなどの標的型サイバー攻撃の急増などにより、2020年には5兆6,591億円となり、2021年には6兆6,072億円(前年比16.8%増)になるとの予測が出ています。
サイバーセキュリティ市場の主要事業者としては、シスコ、パロアルトネットワークス、チェックポイント、シマンテック、フォーティネットの5社が2017年から市場シェアの上位を占めています。ただ、業界トップのシスコのシェアは10%前後に過ぎず(同白書より)、世界のサイバーセキュリティ市場は群雄割拠の状態にあります。
一方で、日本のサイバーセキュリティ市場は、2019年度時点で約1.1兆円規模と推計されています(NPO日本ネットワークセキュリティ協会調べ)。このうち6割程度が製品・ツールの需要で、残りの4割がサービスの需要であるとされます。
産業のデジタル化や、新型コロナウイルス感染症により急拡大したリモートワークなどを背景に、サイバー空間上での経済活動が広がり、セキュリティ需要が増加しています。同業界の課題は、サイバーセキュリティに関する専門技術者が不足していることで、人材の育成や確保が課題となっています。
情報セキュリティ業界の主なプレーヤー
国内セキュリティ業界では、米国で創業したトレンドマイクロが首位で、頭一つ飛び抜けており、2位以下にはいずれも上場企業が並びます。世界市場と同様に、国内市場も大手による寡占状況になっているわけではなく、大手SIerのグループ会社や一部門として事業展開しているものまで含めると、情報セキュリティ会社は乱立しています。
トレンドマイクロは、アンチウィルス製品「ウイルスバスター」で知られます。最近ではM&Aによる事業拡大も進めており、ソフトからハード、オンプレミスからクラウドまで手広く手がけています。日本ではコロナ禍でのリモートワークの普及などを追い風として、増収を維持しています。
ソリトンシステムズは、1990年代後半からセキュリティ分野に進出しており、最近では認証領域を中心に、事業展開を勧めています。2021年度のITセキュリティ事業部門の売上高は、対前年比5.6%増、同営業利益16.2%増と好調です。
また、国内発の”和製情報セキュリティ会社”としては、ソリトンシステムズなどがあります。同社は米インテル社に在籍した鎌田信夫氏(現社長)が、その関連業務や研究活動で知り合ったジャーナリスト、大学教授、メーカーの研究員など、11人の博士を含む37人が出資し設立した会社です。
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主な国内の情報セキュリティ企業 (専業または情報セキュリティを主力事業とする会社、いずれも上場企業) |
1.トレンドマイクロ |
2.ラック |
3.ソリトンシステムズ |
4.GMOグローバルサイン・GMOホールディングス |
5.セグエグループ |
6.ソースネクスト |
7.デジタルアーツ |
8.サイバートラスト |
9.HENNGE |
10.アズジェント |
11.バリオセキュア |
12.FFRIセキュリティ |
情報セキュリティ業界のM&A・売却事例8選
GMOインターネット、イエラエセキュリティを子会社化【ITインフラ×サイバーセキュリティ】
譲渡・譲受企業の概要
【譲渡側】イエラエセキュリティ:Web アプリ、スマートフォンアプリ及び IoT 機器を対象にしたセキュリティ脆弱性診断サービスなどのサイバーセキュリティ事業を展開しています。
【譲受側】GMOインターネット:「すべての人にインターネット」をコーポレートキャッチに掲げ、インターネットインフラ事業を中核として、インターネット広告・メディア事業、インターネット金融事業、暗号資産事業及びインキュベーション事業を展開しています。
M&Aの目的
【譲受側】GMOインターネット:サイバーセキュリティ事業へ本格参入し、電子証明書発行サービス、電子契約サービス「電子印鑑 GMO サイン」を中核とした電子認証・印鑑事業に加え、セキュリティ領域での事業展開を図っています。
M&Aの手法 [1]
実行時期:2022 年 2 月 28 日
手法:株式譲渡(イエラエセキュリティの株式の50%取得)
譲渡金額:9,262 百万円
FFRIセキュリティ、シャインテックを子会社化【セキュリティ×セキュリティ】
譲渡企業の概要
【譲渡側】シャインテック:ソフトウェアの第三者評価業務を中心に、プロジェクトマネジメント支援業務やソフトウェア開発業務を行っています。
譲受企業の概要
【譲受側】FFRIセキュリティ:セキュリティ技術の基礎研究、自社セキュリティソフトウェアの研究開発、ペネトレーションテストやマルウェア解析などを行うセキュリティ・サービス事業など、サイバーセキュリティに関する事業を展開しています。
M&Aの目的
【譲受側】FFRIセキュリティ:FFRIセキュリティが持つサイバー・セキュリティ技術をシャインテックに提供することにより、サイバー・セキュリティ関連サービスを含む幅広いサービスの展開を図ります。
M&Aの手法 [2]
実行時期:2021年5月25日
手法:株式譲渡
譲渡金額:214百万円
FFRIセキュリティは2021年5月、シャインテック(神奈川県川崎市)の株式を取得し、子会社化することを決めました。本M&Aにより、FFRIセキュリティは自社のサイバーセキュリティ技術をシャインテックに提供し、相乗効果を発揮するとしています。
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サイバーセキュリティクラウド、ソフテックを子会社化【サイバーセキュリティ×サイバーセキュリティ】
譲渡企業の概要
【譲渡側】ソフテック:脆弱性情報提供サービス「SIDfm™」事業と、Web セキュリティ診断事業を展開しています。
譲受企業の概要
【譲受側】サイバーセキュリティクラウド:クラウド型 WAF「攻撃遮断くん」及びパブリッククラウドにおける WAF 自動運用サービス「WafCharm」を中心とした Web セキュリティ事業を展開しています。
M&Aの目的
【譲受側】サイバーセキュリティクラウド:ノウハウ共有による両社の技術力強化とともに、当ビッグデータ活用や販売チャネルの拡大も展開していく。両社のシナジーを活用したさらなるサービス体制の向上、より強固な会社基盤の構築を図っていく。
M&Aの手法 [3]
実行時期:2020年12月18日
手法:株式譲渡
譲渡金額:432百万円
イー・ガーディアン、ジェイピー・セキュアを買収【サイバーセキュリティ×サイバーセキュリティ】
譲渡企業の概要
【譲渡側】ソフトウェア型 Web Application Firewall (以下、WAF)製品「SiteGuard シリーズ」の開発、販売、サポートを手がけています。ウェブサイトの脆弱性を悪用した攻撃を防御するソリューションとして、官公庁や金融機関をはじめとした大企業から個人向けレンタルサーバーまで導入実績をもちます。
譲受企業の概要
【譲受側】イー・ガーディアン:ブログ・SNS・掲示板企画コンサルティング業務や、リアルタイム投稿監視業務、ユーザーサポート業務、オンラインゲームカスタマーサポート業務、コンプライアンス対策・風評・トレンド調査業務等を展開しています。
M&Aの目的
【譲受側】イー・ガーディアン:グループが提供するソフトウェア型 Web Application Firewall製品は、グレスアベイルのコンテナ型・SaaS 型に、ホスト型・ゲートウェイ型が加わった計 4 種となります。様々なサイトの環境に適合できるソリューション提供を目指しています。
M&Aの手法 [4]
実行時期:2020年10月12日
手法:株式譲渡
譲渡金額:946百万円
トレンドマイクロ、Cloud Conformity社を買収【サイバーセキュリティ×サイバーセキュリティ】
譲渡企業の概要
【譲渡側】Cloud Conformity:オーストラリアのクラウド型セキュリティ企業であり、クラウドセキュリティの状態管理(Cloud Security Posture Management:CSPM)を提供しています。
譲受企業の概要
【譲受側】トレンドマイクロ:ウイルスバスターなどウイルス対策ソフトを提供し、 スマホやタブレット用製品の開発・販売も行っています。 データセンター、クラウド、ネットワーク、エンドポイントにおける多層的なセキュリティを提供しています。
M&Aの目的
【譲受側】トレンドマイクロ:クラウドセキュリティソリューションの強化。本件買収により、クラウドインフラストラクチャの設定における様々な問題を自動的に特定して修正する機能を提供可能とし、また、コストを最適化し、PCI、GDPR、HIPAA、NISTなどの主要な業界規制基準への準拠を支援します。
M&Aの手法 [5]
買収に関する発表日:2019年10月23日
譲渡金額:約7000万米ドル
セグエグループ、タイISS Resolution社を子会社化【ITインフラ×サイバーセキュリティ】
譲渡企業の概要
【譲渡側】ISS Resolution, Ltd:タイ王国でセキュリティ・IT インフラの販売、メンテナンス、サポート事業を展開しています。
譲受企業の概要
【譲受側】セグエグループ:「IT 技術を駆使して価値を創造し、お客様とともに成長を続け、豊かな社会の実現に貢献する」ことを理念とし、セキュリティ・IT インフラのトータルソリューションを提供しています。
M&Aの目的
【譲受側】セグエグループ:海外進出の第一歩を踏み出し、両社の強みを活かしたビジネスシナジーの創出を図るとともに、ASEAN 市場での事業展開を進めます。
M&Aの手法 [6]
実行時期:2022年12月(目途)※2022年8月25日契約締結済
手法:株式譲渡(議決権割合48%分の株式取得)
サイバートラスト、リネオソリューションズを完全子会社化【サイバーセキュリティ×ソフトウェア開発】
譲渡企業の概要
【譲渡側】リネオソリューションズ:組込み Linux 開発の先駆的な存在として、組込みエンジニアリングサービスの提供をしています。コンシューマ、業務、医療機器などさまざまな機器への搭載実績があり、独自開発した「LINEO Warp!!」、Yoctoの知見を活かした技術コンサルテーションなどを通して、お客様の製品開発を支援してきました。
譲受企業の概要
【譲受側】サイバートラスト:認証・セキュリティ技術と Linux/OSS 技術を核とした IT インフラに関わる技術を持ちます。特に IoT 事業については、 IoT 化が進む組込み機器の開発に向けた長期サポート対応の Linux や、IoT セキュリティソリューションによって長期間の製品ライフサイクルをサポートする「EM+PLS」の提供等を行います。市場の課題や顧客ニーズの多様化に対応すべく取り組んでいます。
M&Aの目的
【譲受側】サイバートラスト:2019 年 7 月 26 日付で行った資本業務提携の発表後、両社のビジネス協業をスタートし、両社の既存事業・エンジニアリソースを活用し、共同提案やマーケティング活動も含めて相互強化と付加価値の高い Linux 関連技術の提供をしていました。完全子会社化により。両社が有する組込み Linux の知見、技術およびノウハウを融合し、これまで以上に開発力や体制を強化します。
M&Aの手法 [7]
実行時期:2020年5月29日
手法:株式譲渡
M&Aを活用した“警備事業におけるDX領域への本格進出” ~「伝統的な警備会社」と「デジタルテクノロジー会社」の融合~【IT×警備会社】
右:株式会社エルテス 代表取締役 菅原貴弘 氏
左:株式会社アサヒ安全業務社 代表取締役 鈴木一法 氏
譲渡企業の概要
株式会社アサヒ安全業務社(以下、「アサヒ安全業務社」)は1973年に設立。鉄道関連工事での列車監視業務を中心に雑踏、交通誘導、常駐保安警備などを提供しています。鈴木社長は2009年に4代目として社長に就任し、社内改革、業容拡大を推進してきました。
警備業界のなかでもデジタル化が進んでいないといわれる2号警備の領域にデジタルテクノロジーを融合させたい、という株式会社エルテス(以下、「エルテス」)の構想に共感し、ともに挑戦をすることを決断したM&A。
下記本インタビューでは、いかにしてその決断にいたったのか。幹部メンバーの反応はどうだったのか。M&Aを通じて何を実現させたいのか。アサヒ安全業務社の鈴木社長とエルテスの菅原社長にご登場いただき、お話を伺いました。
>>「M&Aを活用した”警備事業におけるDX領域への本格進出”~「伝統的な警備会社」と「デジタルテクノロジー会社」の融合~」の続きをみる
[1] GMOインターネット<9449>、イエラエセキュリティを子会社化 サイバーセキュリティ事業に本格参入
[2] FFRIセキュリティ<3692>、ソフトウェア第三者評価業務などのシャインテックを買収
[3] サイバーセキュリティクラウド<4493>、ソフトウェア開発のソフテックを買収
[4] イー・ガーディアン<6050>、セキュリティ製品「SiteGuard シリーズ」開発のジェイピー・セキュアを買収
[5] トレンドマイクロ<4704>、クラウドセキュリティの状態管理を提供するCloud Conformity社を買収
[6] セグエグループ<3968>、セキュリティ・ITインフラ製品販売やメンテナンスサービス事業展開のタイISS Resolution社を子会社化
[7] サイバートラスト、組込みソフト開発のリネオソリューションズを完全子会社化
まとめ
情報セキュリティ業界は、米国系の大手や国内発の上場企業、大手SIer、ベンチャーなどが入り交じり、プレーヤーの顔ぶれが多彩です。大手は事業領域の拡大や人材確保を目的に、M&Aを活発化しています。今後はITサービス会社などが情報セキュリティ部門を切り出す一方で、独立系の専業会社が大手の傘下に入るなど、M&Aが活発化すると予想されます。
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▼以下の記事では、ソフトウェア開発(受託システム開発)の業界動向とM&A事例について解説しています。
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株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A
株式会社えびすサポート
株式会社結い財産サポート
日本クレアス行政書士法人
■事業内容
会計・税務
M&A(仲介・コンサルティング)
FAS(株価算定/財務調査/企業再編)
人事労務 / 給与計算
相続・事業承継
企業法務・法律顧問
IFRS(国際財務報告基準)・決算開示(ディスクローズ)支援
内部統制(J-SOX)・内部監査
海外現地法人サポート
非上場株式売却コンサルティング(非上場株式サポートセンター)
■社員数
417名(グループ全体 / 2023年10月現在)
税理士(試験合格者含む)56名
公認会計士(試験合格者含む)15名
特定社会保険労務士2名
社会保険労務士(試験合格者含む)12名
弁護士 2名
相続診断士41名
中小企業診断士1名
行政書士4名
■関与先
法人 3,240社(うち上場企業85社)
社会福祉法人 133件
クリニック・医療法人・介護福祉等 593件
個人 4,015名
合計 7,981件
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