監修者:伏江 亜矢(株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携部 部長) 食品・化学・バイオ関連業界の卸売商社・メーカーなど担当 |
業界再編が加速する食品卸・商社業界の売却事例・動向・相場・M&A戦略(売却・買収の目的やメリット)などについて、実務に精通した専門家が解説します。
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食品卸・商社のM&A売却・事業承継案件一覧
強み・特徴
主な販売先は水産物メーカーで当社は加工受託を行っている。一部直販もあり。
小ロットから対応可能。品質管理に自信あり。
加工工場の敷地は約600坪。倉庫保有。
設備は乾燥機、加工用切断機など水産加工に必要な設備一式
国内漁獲した品質の良い水産物の仕入れルートあり。
従業員の半数以上は勤続20年以上の熟練の正社員・パートスタッフ(引継ぎ対象)。
関東)観光農園の運営及び農産加工品の製造・販売
強み・特徴
関東エリアで観光農園の運営、農産物加工品の製造販売を行う。経営資源を本業に集中させるため株式譲渡希望。
食品卸業界とは
食品卸業の定義・役割
食品卸業界は、レストランや居酒屋などの外食店や、惣菜などのいわゆる中食、ホテルや病院・高齢者施設などの給食向けに食品・食材の卸売を手がける業態です。一般的な卸売業としての機能に加え、食材を扱うことから、賞味期限や温度管理などの高度な品質管理が求められるのが特徴です。
食品卸の役割は、大きく3つに分けられます。1つ目は「代理機能」。メーカーや生産者の代わりにお店に食品を販売したり、小売店や外食店の代わりに食品を仕入れることです。2つ目は「物流機能の安定化」。食品を運ぶ際に生じる運搬費用を集約し、効率的かつローコストに運び、全国に食品を安定的に供給します。3つ目は「情報提供」です。様々なメーカーや小売店などから仕入れた情報やデータから食のトレンドを予測しお客様に提供します。このように、食品卸は多方面から人々の食に関わっているのです。[1]
食品卸業界の現状
経済産業省の商業動態統計(参考表)によると、2022年の食料・飲料卸売業の販売額は、前年比7.0%増の57兆1850億円でした。日本経済新聞社の2022年度日本の卸売業調査(23年9月6日公表)によると22年度の食品卸の売上高は前年度比6.2%増でした。新型コロナ行動制限が緩和され、外食需要拡大で飲食店やコンビニ向け販売が伸びた。原料コストの価格転嫁も売上高増につながりました。[2]
総合食品卸の主要販路は、総合スーパー(GMS)やコンビニエンスストア、ドラッグストアです。日本チェーンストア協会がまとめた2023年の全国スーパー売上高(既存店ベース)は前年比2.4%増の13兆5585億円。全体の約7割を占める食料品は同3.1%の増収。食料品を中心に値上げが進み、売上高を押し上げました。また業務用食品卸の主要販路は外食業界ですが、日本フードサービス協会によると、外食企業の2023年の売上高は、前年比14.1%増となりました。[2]
食品卸業界は、仕入れ先である食品・食材の生産者と、納入先である外食産業の規模がどちらも比較的小さいという事情があります。(例えば、飲食店は個人経営の小規模事業者などが多い。)このため、地場の二次卸、さらには三次卸といったように、業界が多層構造になっています。
同業界は、商品の在庫管理や輸送代行や金融卸など卸売業としての機能を発揮するだけでは差別化が難しいため、外食産業向けにプライベートブランドを開発したり、独自に商品を展開するといった動きにも乗り出しています。例えば、日本外食流通サービス協会(JFSA)や全日本流通サービス協会(JFDA)といった、地域の中小食品卸業者による協業団体が立ちあがり、差別化を狙います。JFSAは1980年に設立され、2022年4月現在で、31会員と賛助会員(取引メーカー)112社を抱えています。
食品卸業界の業界再編と主なプレーヤー
食品卸業界は大手の総合食品卸を中心に再編が進んでいます。独立系として3位の座を保ってきた国分は2015年秋、丸紅と卸事業での業務提携をしました。
また、地方の食品卸の再編も加速しています。2013年1月には旭食品(高知市)、カナカン(金沢市)、丸大堀内(青森市)の地方大手3社が経営統合し、トモシアホールディングスが発足。取扱商品を強化するほか、全国配送網を確立。トモシアホールディングスの23年3月期連結売上高は7755億円でした。
食品卸業界は、地域ごとに専業の有力企業が存在するほか、総合食品卸大手も参入しています。専業では関西圏を地盤とするトーホー、関東地盤の久世や東亜商事、東北・北海道ではサトー商会が代表格です。この他に、先ほども触れたような中小事業者が全国にいます。
食品卸業界のプレーヤーを個別にご紹介しますと、トーホーは業務用食品卸専業ではトップ企業です。全社の売り上げのうち、外食向け卸売事業が7割弱となっています。同社は2010年頃から、関東の業務用食品卸を次々と買収し、M&Aによる規模の拡大を進めています。関西だけでなく、関東や九州にも商圏を広げています。
正栄食品工業は、製菓・製パン業界向けを中心に、原料乳製品、油脂類、製菓原材料類、乾燥果実・ナッツ類など食品原材料の輸入・仕入・販売をしています。グループに製造会社も抱えています。足元では、国内での乾果実類や製菓原材料類の販売が好調です。
尾家産業は小売と外販からスタートしましたが、1961年の法人化をきっかけに、外食産業向けの業務用卸売業に専業化しました。その後は全国に販売拠点を展開し、独自のプライベートブランド商品を展開し、販路も外食、中食、産業給食、宿泊施設、病院や高齢者施設などに広げています。
食品卸の主なプレーヤーとしては、次の通りです。
○ 伊藤忠食品 ○ 三菱食品 ○ 国分グループ本社 ○ トーホー ○ 正栄食品工業 ○ 尾家産業 ○ 東亜商事 ○ 久世 ○ 西原商会 ○ 大光 ○ 三久食品 ○ ジーエフシー ○ 高瀬物産 ○ サトー商会 |
[2] 日経コンパス 食品卸(総合)
食品卸業界のM&A・売却事例13選
オイシックス・ラ・大地、旬八青果店運営のアグリゲートを子会社化【食品サブスク×青果店】
食品のサブスクリプションサービスを提供するオイシックス・ラ・大地は、アグリゲートの新株予約権の行使、および既存株主からの株式取得により、2024年3月に連結子会社化したことを発表しました。
アグリゲートが運営する旬八青果店は、契約生産者や全国の市場とのリレーションを持ち、ストーリーのある農産品を数多く開発し販売、東京都内に地域密着型の店舗を展開しています。2023年5月にアグリゲートがオイシックスの関連会社となってからは、ふぞろい野菜や商品開発、販売などの連携をすすめてきました。オイシックスが旬八青果店の実店舗を活用することでのフードロス削減や、当社グループ間での商品流通に取り組み、両社にとってプラスとなる効果が今後も期待できることと、連携を強化することで事業成長につながると考えています。[16]
ヤマタネ、弁当給食向け業務用食品卸売事業のショクカイを買収【倉庫業・米卸×食品卸】
倉庫業準大手、米の卸売大手企業であるヤマタネは、2023年8月29日開催の臨時取締役会において、ショクカイの全株式を取得し、子会社化することについて決議しました。ショクカイは冷凍食品を中心とした弁当給食向け業務用食品の卸売事業では業界トップシェアを誇り、食品メーカー等との強固な仕入基盤、顧客ニーズに対応した商品開発力に加え、効率的な物流の実現により価格競争力のある商品を北海道から九州・沖縄まで多くの取引先へ安定的に供給しています。ヤマタネは本買収により、ヤマタネの取引先である量販店等の事業の強化、拡大に資するサービスを提供できるものと期待している。[17]
双日、ベトナム最大手業務用食品卸のDaiTanViet Joint Stock Companyを買収【総合商社×食品卸】
2023年11月、双日は、双日アジア会社および双日ベトナム会社と共同で、ベトナムの業務用食品卸で最大手のDaiTanVietダイタンビエット Jointジョイント Stockストック Companyカンパニー(以下「NEW VIET DAIRY」)の全株式を取得しました。 NEW VIET DAIRYは、業務用食品とフードサービス事業、乳原料の3領域で事業を展開する輸入卸業事業者で、2022年の売上高は約370億円です。
双日は本買収により、食品業界から小売、中高級ホテルや飲食店を網羅する総合食品卸の形成を目指します。[3]
尾家産業、業務用食品卸売事業の壽屋商事を買収【食品卸×冷凍食品卸】
壽屋商事は、1957年4月に設立、徳島県で病院や福祉施設などのヘルスケアフード業態向けに冷凍食品を中心とした業務用食品卸売事業を営む会社です。同社は、外食・中食・給食業態に加え、ヘルスケアフード業態向けに業務用食品卸売事業を全国に 展開しています。尾家産業は、同社をグループ化することにより、事業拠点の無い徳島県での対応力を強化でき、 また尾家産業が取扱う業務用食材などの販路拡大、ヘルスケアフード業態でのノウハウの共有や強化にも つながると判断しました。[4]
トーホー、エフ・エム・アイに追加出資し完全子会社化【食品卸×調理機器商社】
トーホーは2020年5月25日開催の取締役会にて、連結子会社である株式会社エフ・エム・アイの株式の追加取得し、完全子会社化することを決議した。元々、2018年2月に業務用調理機器やコーヒーマシン、製菓機器等を輸入・製造・販売をおこなうエフ・エム・アイを連結子会社している。本件出資によって、より効率的な経営資源の活用と、サービスの向上をねらう。[5]
トーホー、関東食品に追加出資し子会社化【食品卸×食品卸】
トーホーは2019年2月開催の取締役会で、同社の持分法適用関連会社である関東食品(群馬県高崎市)の株式を取得し、関東食品をトーホーの連結子会社とすることを決議した。関東食品は、群馬県と埼玉県が地盤とし、学校や病院などの給食事業者を主な得意先として業務用食品卸売事業を手がける会社。トーホーはカント食品を連結子会社化することにより、グループの業務用食品卸売事業とのさらなる相乗効果の発揮を図り、関東地区においてシェア拡大を目指す。[6]
久世、国分グループ本社と資本業務提携【食材卸×酒類食品卸】
久世は2022年3月18日開催の取締役会にて、国分グループ本社株式会社との間において、資本業務提携契約を締結すること及び株式総数引受契約(第三者割当の方法による普通株式の発行及び自己株式の処分)を締結することを決議した。本契約により、提携先である国分グループ本社は久世の発行済み株式総数の19.99%を保有することとなる。当該資本業務提携により、緊密な関係を構築し、経営資源の相互活用を通じて企業価値向上を狙う。[7]
西原商会、信成物産より事業譲受【食品卸×野菜製造販売】
西原商会は2021年12月31日、鹿児島県伊佐市にて主にもやしの製造販売を行う信成物産株式会社の九州事業所の事業を譲受した。本件譲受によって、業務用食材の取り扱い強化をおこなう。[8]
西原商会、龍屋物産の株式取得【食品卸×嗜好食品製造販売】
西原商会は2020年7月1日、神奈川県伊勢原市にて嗜好食品の企画・製造・卸売業務を行う龍屋物産の株式をすべて取得し、子会社化した。本件買収を通じて、グループ内連携を行い、シナジー効果の獲得を狙う。[9]
ジーエフシー、インタークレストを買収【食品加工卸×水産物輸入商社】
ジーエフシーは2019年2月15日開催の取締役会にて、株式会社インタークレストの株式をすべて取得し、子会社化することを決議した。インタークレストは海産物の輸出入販売をおこなう。本件買収によって、ジーエフシーの主要販売品目である水産加工品の商品ラインナップの拡充を図る。[10]
伊藤忠食品、FiNC Technologiesに出資【食品商社×ヘルステックベンチャー】
伊藤忠食品株式会社は2019年10月31日、東京都千代田区のヘルステックベンチャー、株式会社FiNC Technologiesの第三者割当増資を引き受け、株式を取得した。本件出資を通じて、FiNCの持つ健康関連データの相互利活用や商品の共同開発などに取り組む。[11]
伊藤忠食品とヤマエ久野の合弁会社、コンフェックスHDに出資【食品商社×菓子卸】
伊藤忠食品株式会社とヤマエ久野株式会社との合弁会社であるワイ&アイホールディングス合同会社は2019年1月15日、菓子総合卸売業のコンフェックスホールディングス株式会社への資本参加を実施した。本件出資を通じ、物流の効率化による売り上げ拡大を図る。[12]
三菱食品、ケー・シー・エスを買収【総合食品卸売×食品物流センター】
三菱食品株式会社は2022年2月22日、株式会社明治が保有する株式会社ケー・シー・エスの株式をすべて取得し、子会社化することを決議した。ケー・シー・エスは明治の子会社。関西地域を中心としたコンビニエンスストア向けの食品物流センターを運営する。本件買収によって、経営資源の効率的な活用をし、更なる物流サービス品質の向上を図る。[13]
国分ロジスティクス、中島運送を買収【食品物流×物流運送】
国分グループ本社株式会社の子会社である国分ロジスティックス株式会社は2021年9月29日、株式会社中島運送の株式をすべて取得し、子会社化することを決議した。本件買収によって、首都圏エリアにおける配送機能の強化による物流事業の拡大を図る。[14]
佐藤、燈尚物産を子会社【食品卸×日配品・チルド食品卸】
佐藤は2019年7月、燈尚物産の発行済株式を全て取得し、子会社化した。燈尚物産は福島県内を中心に長年営業している。本件買収によって、福島県内における和洋日配・チルド商品の販売基盤強化を狙う。[15]
【M&A事例インタビュー】高級食品輸入商社・オーディオ商社のオーナー経営者
株式会社ノア/株式会社アーク 元代表取締役 野田 頴克 様
譲渡企業の概要
株式会社ノア/株式会社アーク:1978年5月に創業した高級オーディオの輸入事業と、食材の輸入事業を展開しています。代表は、後継者問題を抱えていました。下記インタビューでは、「両社の事業承継を成し遂げるために、M&Aを2回も経験された。」という貴重な体験談をお話しいただいています。
>>「【M&A事例インタビュー】業務用食品商社・オーディオ商社のオーナー経営者」の続きをみる
【M&A事例インタビュー】業務用食品卸×システム開発業のオーナー経営者
株式会社システムズコンサルタント(現 トーホー グループ) 代表取締役 尾﨑 行隆 様
異業種の上場会社に対する事業承継を勇断され、双方にとっても有効的なM&Aとなった、株式会社システムズコンサルタント(現トーホーグループ) 代表取締役 尾﨑 行隆 様にご経験を通じた『事業承継・M&Aを成功に導くためのポイント』 についてお話いただきました。
>>「【M&A事例インタビュー】業務用食品卸×システム開発業のオーナー経営者」の続きをみる
[3] 双日、ベトナム最大手の業務用食品卸の全株式を取得
[4] 壽屋商事株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ
[5] トーホー<8142>、子会社で業務用調理機器製造のエフ・エム・アイに追加出資し完全子会社化
[6] トーホー<8142>、持ち分法適用関連会社の関東食品に追加出資し子会社化
[7] 久世<2708>、国分グループ本社と資本業務提携 同社は19.99%の筆頭株主に
[8] 業務用総合食品卸の西原商会グループ、信成物産からもやし製造販売を行う九州事業所の事業を譲り受け
[10] ジーエフシー<7559>、食料品輸出入・販売のインタークレストを買収
[11] 伊藤忠食品<2692>、ヘルステックベンチャーFiNC Technologiesに出資
[12] 伊藤忠食品<2692>とヤマエ久野<8108>の合弁会社、菓子総合卸のコンフェックスHDに出資
[13] 三菱食品<7451>、明治子会社で関西地区を中心としたコンビニ向け食品物流センター運営のケー・シー・エスを買収
[14] 国分グループ本社の子会社の国分ロジスティクス、中島運送を買収
[15] 食料品卸のボーキ佐藤、福島県で食品・飲料品類仕入れ販売の燈尚物産を買収
[16] オイシックス・ラ・大地 旬八青果店を運営するアグリゲート社を連結子会社化
[17] 株式会社ショクカイの株式取得(子会社化)に関するお知らせ
食品卸業の売却相場
M&Aの売却価格は、企業価値評価をもとにして当事者間の協議により決定します。
企業価値評価には様々な手法がありますが、中小企業の売却のような比較的小規模なM&Aでは、年買法(年倍法)という簡易的な手法がしばしば用いられます。
▼以下の記事では、M&Aの価格の決め方について解説しています。
年買法(年倍法)による企業価値評価
年買法では以下の式で企業価値を評価します。
企業価値=時価純資産+直近年度の利益(または数年分の平均値)の2~5倍程度 |
純資産(=資産総額-負債総額)は過去から現在にいたる事業活動の結果を金額で表したものです。帳簿上の資産・負債の額は現在の価値と乖離している場合があるため、資産・負債を時価で評価し直した上で差し引きして時価純資産を求めます。
経営破綻状態で、今後利益が発生することが見込めない(収益力がゼロの)ケースでは、純資産額が企業価値と見なされます。
売り手企業に収益力があり、将来的に利益が発生すると見込まれる場合には、その分の価値を見積もって純資産額に加える必要があります。
将来の収益力を合理的に評価するためには、詳細な事業計画をもとに利益の値を具体的に予測した上で、リスクを加味して現在の価値に引き直す、という複雑な計算手続きが必要です。規模の大きいM&Aや上場企業が買い手となるM&Aではそうした計算を用いた手法(DCF法)で企業価値評価が行われます。
これは一般的な中小企業には難しいことなので、年買法では「現状の利益の数年分」として将来の収益力を簡易的に見積もります。利益にかける年数は一般的には「2~5倍」が相場とされますが、業種や地域などにより相場は異なります。
相場よりも高く評価される食品卸売業の例
以下のような様々な要因を総合的に考慮して決定され、相場を超えることもあれば下回ることもあります。
◆海外の取引先や国内の大手企業など算入障壁の高い顧客・販売網を多く有している ◆メーカーや小売業者など、サプライチェーンの川上・川下企業との結びつきが強い ◆優れた営業担当や商品開発力、希少性や収益性が高い商材等の経営資源を有している ◆商標権や独占販売権などの事業を有利に行える権利を保有している ◆利益を安定的に稼いでいる |
現体制のもとでは将来的に十分な利益が見込める事業であっても、売却後に経営者が抜けることで取引先が離脱してしまうようであれば、事業の価値を十分に引き継ぐことができないということになり、買い手から見た企業価値が下がります。
こういったケースでは、利益にかける年数が大きく下がることもありえます。経営者が売却後も一定期間在籍して事業引継ぎに協力するといった取り決めを契約に含めることで、企業価値の下落を防ぐことが可能なケースもあります。
企業価値評価をもとにした売却価格の決定
譲渡企業が売却を行わずこのまま単独で存続すると仮定した場合の企業価値(単独価値)と、譲り受け企業に売却してその子会社や一部門となったと仮定した場合の企業価値は、異なるのが通例です。
譲り受け企業との統合により相乗効果(シナジー)が生まれ、収益力が増すのであれば、企業価値はシナジーの分だけ単独価値よりも大きくなります。
シナジーはM&A後に達成される価値で、失敗のリスクもあるため、買い手としてはシナジー評価額の全額を含む企業価値を売却価格とするのは割に合いません。買い手側はシナジー全額を含む企業価値を上限として、それよりもなるべく低い金額を求めて交渉することになります。
一方、売り手としては、単独価値を下回る金額では明らかに損をすることになりますし、経営権を譲り渡す以上は単独価値にある程度の額を上乗せした(プレミアムを含んだ)価格を求めるのが当然です。
結局、シナジー全額を下回る範囲で、どれだけの額のプレミアムを引き出すかが、売り手にとっての価格交渉のポイントとなります。
期待されるシナジーが大きいほど、より高額の売却価格が期待できます。それだけでなく、売却後の事業や雇用の見通しも明るくなります。M&Aにおいては売り手と買い手の相性が非常に重要です。
食品卸業界のM&A戦略(売却・買収の目的やメリット)
食品卸を売却するメリット
食品卸を売却するメリットは、売却先が同業者か異業種(メーカー)であるかによって異なる部分があります(重なる部分もあります)。そのため、この項では「同業者への売却」と「異業種企業(メーカー)への売却」に分けてメリットを紹介します。
同業者への売却
食品卸が買い手企業となる場合、専門商社を売却すると下記4つのメリットを期待できます。
◆大手食品卸への傘下入りにより、取引先の拡大や財務基盤の安定化、営業力の強化などを見込める
◆後継者不足の企業でも事業承継を行い、売却益の確保や従業員の雇用維持などを実現できる
◆DXの強化により、生産性の改善や顧客ニーズに合う事業の展開が可能となる
◆買い手企業との相互送客や経営資源の相互活用によって、売上や利益の増大を見込める
異業種企業(メーカー)への売却
異業種であるメーカーが買い手企業となる場合、食品卸を売却すると下記4つのメリットを期待できます。
◆大手メーカーへの傘下入りにより、製品ラインナップの拡充や財務基盤の安定化などを見込める
◆メーカーとの連携強化により、小売業者等に対する製品の販売や収益確保の安定化を見込める
◆メーカーとの情報共有により、顧客のニーズに合う事業展開を行いやすくなる
◆事業承継の実現によるメリット(売却益の確保など)を得られる
食品卸を買収するメリット
売却側と同様に、買収する側が食品卸か異業種(メーカー)であるかによってM&Aのメリットは異なります。この項では、「同業者による買収」と「異業種企業(メーカー)による買収」に分けてメリットを紹介します。
同業者による買収
食品卸が買い手企業となる場合、食品卸を買収すると下記4つのメリットを期待できます。
◆特定の製品分野に関する事業を強化できる
◆海外進出や未進出のエリア・事業領域への進出を果たせる
◆非資源分野の専門商社を買収することで、資源価格の変化による影響を受けにくくなる
◆食品卸事業の規模拡大や成長の加速を見込める
異業種企業(メーカー)による買収
異業種であるメーカーが買い手企業となる場合、食品卸を買収すると下記4つのメリットを期待できます。
◆消費者のニーズを専門商社に共有してもらうことで、顧客ニーズに適う製品の開発・生産が可能となる
◆原材料の調達力強化を図ることが可能となる
◆調達から販売に至るまでのサプライチェーンを自社のみで完結できるようになる
◆食品卸との協働により、新しい製造分野への進出や海外進出をスムーズに行いやすくなる
まとめ
食事卸業界は、コロナウィルス感染症の蔓延によって市場が縮小しましたが、足元では業績回復傾向にあります。サプライチェーンの強化や事業領域の拡大などを図る上で、食品卸のM&A(買収・売却)は効果的な手段となります。実際に、大手の食品卸のみならず、中小規模の専門商社によるM&Aも活発です。今回お伝えした相場やメリット、事例などの情報を参考に、専門商社の売却の検討を行って頂けますと幸いです。
日本クレアス税理士法人|コーポレート・アドバイザーズ グループでは、20年間にわたり2000件以上の会社売却・M&A支援を行っています。
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■グループ企業一覧
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日本クレアス社会保険労務士法人
弁護士法人日本クレアス法律事務所
株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティング
株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A
株式会社えびすサポート
株式会社結い財産サポート
日本クレアス行政書士法人
■事業内容
会計・税務
M&A(仲介・コンサルティング)
FAS(株価算定/財務調査/企業再編)
人事労務 / 給与計算
相続・事業承継
企業法務・法律顧問
IFRS(国際財務報告基準)・決算開示(ディスクローズ)支援
内部統制(J-SOX)・内部監査
海外現地法人サポート
非上場株式売却コンサルティング(非上場株式サポートセンター)
■社員数
417名(グループ全体 / 2023年10月現在)
税理士(試験合格者含む)56名
公認会計士(試験合格者含む)15名
特定社会保険労務士2名
社会保険労務士(試験合格者含む)12名
弁護士 2名
相続診断士41名
中小企業診断士1名
行政書士4名
■関与先
法人 3,240社(うち上場企業85社)
社会福祉法人 133件
クリニック・医療法人・介護福祉等 593件
個人 4,015名
合計 7,981件
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