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中小企業が上場するには?IPOの条件・メリット・デメリット
更新日:2024年6月5日
監修者:伏江 亜矢(株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長)

中小企業経営者が自社の成長を図るための方法の一つに新規上場(IPO)があります。2022年4月に東京証券取引所の市場区分が再編されました。本記事では、中小企業経営者の関心が強いグロース市場とTOKYO PRO Marketの上場基準や、事業承継や成長戦略として比較検討されやすいM&Aとの違いについて解説します。

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中小企業が新規上場(IPO)を検討するきっかけ

中小企業経営者は、大きく以下2つの目的で新規上場(IPO)を検討します。

  • ・資金調達や知名度の向上による事業の成長加速
  • ・第三者への事業承継

特に、新規上場(IPO)による事業承継には「知名度向上に伴う優秀な人材の確保」や「納税資金の確保」などのメリットがあります。そのため、後継者が親族や社内にいない中小企業が、事業成長と事業承継を同時に実現させる手段として、新規上場(IPO)を検討するケースが見られます。

新規上場(IPO)のメリットとデメリット

中小企業が新規上場(IPO)するメリットとデメリットを紹介します。

メリット

中小企業が株式市場に新規上場(IPO)すると、以下6つのメリットを期待できます。

① 不特定多数の投資家から資金調達をしやすくなる
② 企業やブランドの知名度を高めることができる
③ 知名度向上に伴い、優秀な人材を採用しやすくなる
④ 上場した経営者というステータスを得られる
⑤ 株式の売却による創業者利益を得られる
⑥ 内部管理体制の強化を図れる

デメリット

中小企業が株式市場に新規上場(IPO)する際には、以下4つのデメリットに注意が必要です。

① 上場準備に労力や時間がかかる
② 上場を維持するために多額のコストがかかる
③ 株主の意見を尊重する必要性があるため、経営に対する自由度が低下する
④ 敵対的買収により、会社を乗っ取られるリスクがある

特に、上場までに最低でも3年ほどの期間を要する点は、事業承継を目的としている中小企業にとっては無視できないデメリットと言えます。

IPOまでの流れ

IPOまでの流れは、大きく「3期以上前」「2期前」「1期前」「申請年度」という4つのフェーズに分けられます[1]。中小企業がIPOするまでの一般的な流れ、および各フェーズで行う対応を簡潔に解説します。

3期以上前

新規上場時期から3期以上前のタイミングでは、主に以下の対応を行います。

・上場時期や市場の選定
・社長直轄の専属チームの組成
・監査法人によるショートレビュー(準備事項の確認や改善事項の指摘など)
・顧問弁護士やメインバンクなどの関係者との準備

2期前

新規上場から2期前の期間では、主に以下の対応を行います。

・監査体制の整備
・監査法人による適正意見
・主幹事証券会社の決定

1期前

新規上場から1期前の期間では、主に以下の対応を行います。

・取締役会などの運営体制や労務管理、会計管理等の徹底
・上場申請書類や投資家向け説明資料など各種申請書類の作成
・監査法人による適正意見

申請年度

新規上場の申請年度には、主に以下の対応を行います。

・申請書類の完成
・証券取引所への上場申請
・取引所による上場審査(約2〜3ヶ月)、現地調査等

[1] 上場までのステップ(J-Net21)

上記の手続きを経て、証券取引所から上場承認を得たらIPOとなります。

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株式の市場区分

従来、東京証券取引所には「市場第一部」、「市場第二部」、「マザーズ」、「JASDAQ」という4つの市場区分がありました。しかし、これらの市場区分には「コンセプトが曖昧」などの課題があったため、2022年4月に課題を解決するための見直しが図られました。[2]

この市場区分の見直しにより、新たに以下3つの市場区分がスタートしました。[2]

・プライム市場
・スタンダード市場
・グロース市場

以下では、各市場のコンセプトを解説します。

プライム市場

プライム市場は、グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場です。以前の「東証第一部」に相当し、3つある市場のなかで上場基準(要件)は最も厳しいものとなっています。

主な要件は以下のとおりです。[2]

・株主数:800人以上
・流通株式時価総額:100億円以上
・収益基盤:売上高100億円以上、最近2年間の利益合計が25億円以上、純資産50億円以上など

スタンダード市場

スタンダード市場は、公開市場における投資対象として、十分な流動性とガバナンス水準を備えた企業向けの市場です。以前の「東証第二部」と「JASDAQ」を足し合わせた市場に相当し、3つある市場のなかで上場基準(要件)は2番目に厳しいものとなっています。

主な要件は以下のとおりです。[2]

・株主数:400人以上
・流通株式時価総額:10億円以上
・収益基盤:最近1年間の利益が1億円以上、純資産額がプラス(正)である

プライム市場と比較すると易しいものの、大多数の中小企業にとって全ての要件をクリアすることは簡単ではないと考えられます。

グロース市場

グロース市場は、高い成長可能性を有する企業向けの市場です。従来の「マザース」市場に相当し、3つある市場のなかで最も上場基準(要件)が易しいものとなっています。そのため、中小企業が上場を目指す際には、グロース市場を目指すことが現実的な選択肢となります。

詳しい要件は次章で解説します。

[2] 市場区分見直しの概要(日本取引所グループ)

グロース市場の上場基準(要件)

引用:日本取引所グループ ホームページ 「市場区分見直しの概要」

グロース市場の上場基準(要件)は、大きく「形式要件」と「実質審査基準」の2つに分かれます。この章では、各要件を具体的に解説します。

形式要件

形式要件とは、「株主数」や「流通株式時価総額」などの定量的な基準です。グロース市場の主な形式要件は以下のとおりです。[3]

・株主数:150人以上
・流通株式数:1,000単位以上
・流通株式時価総額:5億円以上
・流通株式比率:25%以上
・事業継続年数:1年以上

実質審査基準

実質審査基準とは、上場企業として望ましいかどうかを判断する基準です。具体的には、以下5つの内容で構成されています。[3]

① 企業内容、リスク情報等の開示に関する適切性
② 企業経営の健全性
③ コーポレートガバナンス及び内部管理体制の有効性
④ 事業計画の合理性
⑤ その他、公益や投資家保護の観点から必要と認める事項

[3] 2022 新規上場ガイドブック(グロース市場編)(日本取引所グループ)

中小企業経営者が注目するTOKYO PRO Market

東京証券取引所では、前述した3種類の市場区分とは別に、TOKYO PRO Market(TPM)という市場を運営しています。こちらの市場は、中小企業経営者から事業承継などの手段として注目されています。

この章では、TOKYO PRO Market(TPM)の概要と上場要件を解説します。

TOKYO PRO market(TPM)とは

引用:東京証券取引所「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議第八回東証説明資料①」

TOKYO PRO Market(TPM)とは、「成長力のある企業に新たな資金調達の場を与える」などの目的で運営されている市場です。[4]

前述した東証の市場と異なり、一般投資家ではなく特定投資家等(プロ投資家)が主な投資家である点が最大の特徴です。また、上場審査に際して、売上高や時価総額などの形式基準がないのも特徴的と言えます。[4]社歴の浅いベンチャー企業や規模の小さい中小企業でも上場しやすいため、事業承継や事業成長のための上場先として注目が集まっています。

TOKYO PRO Marketにおいては、J-Adviserが上場適格性の調査・確認を行うとともに、上場前から上場後まで継続的に指導・助言を実施します。

TOKYO PRO Marketに上場するには(上場適格性要件)

TOKYO PRO Marketに中小企業が上場するには、以下5つの上場適格性要件を満たす必要があります。[5]

① 東証の市場評価を害さない
② 事業を公正かつ忠実に遂行している
③ コーポレート・ガバナンスおよび内部管理体制が、適切に整備・機能している
④ 企業内容やリスク情報等の開示を適切に行っている
⑤ 反社会的勢力との関係を有しない

[4] TOKYO PRO Marketの主な特徴(日本取引所グループ)

[5] 上場適格性要件(日本取引所グループ)

TOKYO PRO Marketの現状

引用:東京証券取引所「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議第八回東証説明資料①」

TOKYO PRO Marketの上場会社数は増加傾向にあり、近年では、上場時に資金調達を行う事例やTOKYO PRO Marketから一般市場に移行する事例も見られます。ただし、年間を通じて売買実績が僅少な会社が大半です。

中小企業におけるIPOとM&Aの違い

中小企業におけるIPOとM&Aの違いを4つの視点で解説します。また、それを踏まえてIPOと比較したM&Aのメリットも紹介します。

株式の売却金額

M&Aと比べてIPOの売却金額は大きい傾向があります。

またIPOでは、上場後に株価が上昇することで株式の売却金額も大きくなる傾向があります。一方でM&Aの場合は、一部の例外を除いて、売却金額はM&A実行時点で確定となります。

事業承継の成功可能性

IPOには多大な準備や時間がかかる上に審査基準も厳しいため、事業承継を実現できる可能性は比較的低いです。一方でM&Aの場合は、買い手企業との間で合意さえできれば、赤字や債務超過の企業でも成立するため、IPOと比べて事業承継が成功する可能性は高いです。

事業承継後の支配権

IPOでは、株式を売却しない限り、引き続き経営者として事業を運営できます。一方でM&Aの場合、保有株式の全部または大半を譲渡することが一般的であるため、会社の支配権を失うこととなります。

従業員や取引先に与える影響

IPOの場合、上場準備の過程で労務管理体制の整備が図られるため、従業員の働き方に良い影響を及ぼすケースが大半です。また、上場に伴いブランド力や知名度の向上を期待できるため、取引先にも良い影響を与えると考えられます。

一方でM&Aの場合は、新しい経営者(経営主体の企業)で従業員や取引先に与える影響は変わってきます。たとえば大手企業の傘下に入れば、従業員・取引先の双方にとって良い影響が生じる可能性は高いと考えられます。一方で、雇用条件や契約条項の引き下げにより、従業員や取引先に不利益が生じるおそれもあります。

IPOと比較したM&Aのメリット【まとめ】

上記の違いを踏まえると、M&Aによる事業承継のメリットとして以下が挙げられます。

・保有している全株式を一括で現金化できる
・短期間かつ低リスクで事業承継を行える
・経営者の立場を退き、新しい道に進める(新規事業の立ち上げやセミリタイアなど)
・大手企業の傘下入りにより、従業員の待遇向上や取引先への還元を期待できる

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▼以下の記事では、M&Aの目的・手法・流れ・成功のポイントをわかりやすく解説しています。

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まとめ

近年、中小企業経営者が自社のさらなる発展・成長や事業承継をきっかけとして新規上場(IPO)を検討するケースが増えています。特にTOKYO PRO Marketの創設により中小企業にとって、IPOがより身近なものになりました。一方、前述の通り、事務量やコストの増大等のデメリットがあるため、IPO検討時の目的に立ち返って慎重な判断が必要です。

目的を達成するためにどの手段が自社にとって最良かを判断するには、IPOとM&Aに精通した専門家の客観的意見が参考になります。

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伏江亜矢
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株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長
金融機関で法人営業を担当後、2012年にコーポレート・アドバイザーズ入社。M&Aの事前準備から、候補先のソーシング、企業価値評価、条件交渉、クロージングまで一気通貫した支援を行っている。 ヘルスケア・ライフサイエンス(医療・介護・メーカー・卸商社)、IT・ソフトウエア(Webサービス、システム開発)、人材サービス(派遣、警備、ビルメンテナンス)などのM&A支援経験が豊富。 M&A成功のために必要な情報をわかりやすく解説するコラムサイト「よくわかるM&A」の運営責任者。
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