監修者:伏江 亜矢(株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長) |
M&Aを行う際、会社の内部情報を漏洩しないため不可欠な「秘密保持契約書(NDA)」。本記事では、M&AにおけるNDAの目的やその範囲、有効期間等を解説した上で、各事項の確認ポイントや締結のタイミング、違反時の対応まで、実務に精通する専門家が解説します。
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秘密保持契約(NDA)とは
秘密保持契約とは、交渉や取引の過程で入手した相手方の機密情報やノウハウ、顧客情報などにつき目的外使用や情報漏洩をしないことを約束する契約のことです。
NDAと表記されることもあり、これは、「Non-Disclosure Agreement」の頭文字を取ったもので、直訳すると非開示の契約という意味になります。
ビジネスの世界において、交渉や取引を進めるうえでは、相手方との情報共有が不可欠です。たとえば、M&Aの交渉を進めるうえでは、会社の財務状況などほぼ全ての情報を共有する必要があります。
こうした情報が交渉の相手方以外の第三者に漏れてしまうと、場合によっては大きな損害が発生します。そのため、秘密保持契約を締結し、情報の目的外使用や漏洩を防止する必要があるのです。
▼以下では、M&Aにおける契約書の種類・基本構成・留意点について解説しています。
M&Aアドバイザーと締結する秘密保持契約の記載項目
M&Aの情報が洩れてしまうと、その会社だけでなく従業員や取引先も含めて大きな影響が生じる可能性があるため、M&Aアドバイザーを利用する場合には秘密保持契約の締結は欠かせません。
M&Aアドバイザーと秘密保持契約を締結する場合の記載項目としては次の事項を挙げることができます。
◆ 秘密保持契約締結の目的 ◆ 秘密情報の定義 ◆ 秘密保持義務の内容 ◆ 秘密情報の開示が許される範囲 ◆ 秘密保持義務の例外 ◆ 無断接触の禁止 ◆ 秘密情報の返還 ◆ 有効期間 ◆ 損害賠償 ◆ 準拠法 ◆ 管轄 |
以下では、それぞれの項目の具体的な内容を解説していきます。
秘密保持契約締結の目的
秘密保持契約を締結する目的は、秘密情報の目的外使用を禁止して、第三者への情報漏洩を防止することにあります。
この目的を達するためには、秘密情報の利用目的を明確に定めることが重要です。
M&Aの買い手もしくは売り手は「M&Aの検討のため」、アドバイザー側は、「検討のための各種助言」のためだけに秘密情報を利用できることを秘密保持契約締結の目的として明確に規定するようにしましょう。
秘密情報の定義
秘密保持契約では、どの範囲の情報を秘密情報とするのかを定義します。
取引内容によっては、「秘密情報として相手方に開示した情報」に限定するものもありますが、M&Aについての情報は多岐にわたるため、M&Aアドバイザーとの契約では、「開示の方法を問わず、相手方に開示した一切の情報」とするのが良いでしょう。
また一般に、次の情報は秘密情報から除外します。
■開示を受けた時点で、既に公知となっていた情報
■開示を受けた後、自らの責によらず公知となった情報
■開示を受けた時点で、既に正当に保有していた情報
■正当な権限を有する第三者から開示に関する権限なく開示を受けた情報
秘密保持義務の内容
秘密保持義務は、相手方の同意なく秘密情報を開示しないことを内容とします。
もっとも、M&Aの検討に携わる従業員や弁護士、税理士などの守秘義務を負う専門家への情報開示は認める必要があるでしょう。
秘密情報の開示が許される範囲
相手方の同意を得て秘密情報を開示する場合や従業員、専門家に秘密情報を開示する場合においても、開示が許される範囲は必要かつ最小限の範囲としなくてはなりません。
契約者は全ての情報について秘密保持義務を負い、秘密の管理は厳重に行う必要があります。そのため、開示が必要な場合であっても、その範囲は可能な限り狭く限定的にすべきです。
秘密保持義務の例外
秘密保持義務を負う場合であっても、政府機関、金融商品取引所、その他の公的機関から情報の開示を求められたときには応じざるを得ないでしょう。
そのため、こうした場合については、秘密保持義務の例外として情報の開示が許されます。ただし、公的機関に情報を開示する場合であっても、必要以上の情報を提供すべきではなく、開示が許される情報の範囲は必要かつ最小限の範囲に限られます。
無断接触の禁止
M&Aの秘密情報を開示した場合、買い手もしくは売り手がその情報を利用してM&Aの相手方に接触してしまうと、アドバイザーが役割を果たせない可能性があります。
そこで、秘密保持契約の条項では、アドバイザーの許可なく相手方法人やその関係者との無断接触を禁止する条項を置くことも重要です。
具体的な記載例としては次のようになります。
甲(買い手もしくは売り手)は、乙(アドバイザー)の事前の承諾なくして、乙から情報提供を受けた本件秘密にかかる法人およびそれに関連する者に対して、直接・関節を問わず、本件秘密にかかる接触を一切おこなってはならない。ただし、乙から情報提供を受けた時点で既に本件検討の交渉を開始していた場合を除く。 |
秘密情報の返還・廃棄に関する事項
秘密情報は、相手方への開示後においても、情報提供者がコントロールできる状態にしておく必要があります。そのため、情報を開示した後にも、いつでも情報の返還や廃棄を求められる条項を置くようにしましょう。
有効期間
契約の有効期間も明記するようにしましょう。期間としては、半年から1年程度と設定し、自動更新の条項を規定することが多いです。
ただし、秘密保持契約で負う義務については、基本的に契約終了後も存続させる必要があります。たとえば、M&Aが成立しなかった場合に有効期間が経過したからといって、会社の秘密情報を漏洩させてしまうと、会社に損害が生じることは十分に予測されるところです。
そのため、秘密情報の目的外使用の禁止、秘密保持義務などについては、有効期間経過後も存続することを明記するようにしましょう。これについては、存続する期間を明確にすることも重要です。期間を定めなければ、場合によっては当該規定が無効と判断されてしまう可能性もあります。
損害賠償
秘密情報の目的外使用や情報漏洩により相手方に損害を与えてしまった場合については、損害賠償の規定を置く必要があります。
金銭的な賠償のみならず、損害の拡大を防止する義務も課すべきです。また、本人のみならず、秘密情報を提供した従業員や専門家が義務違反をしてしまった場合にも、本人に金銭賠償、損害拡大防止義務を課すようにします。
この場合の賠償額については、算定が困難なケースが多いため、賠償額を予め決めておくことも有効な方法と言えます。
準拠法・管轄
M&Aでは、海外の企業が対象となるケースもありますが、準拠法は日本法とすることを明記します。また、管轄については、アドバイザーの本社がある地方裁判所としておくのが通常です。
管轄の規定を置く場合には、「専属的合意管轄裁判所」との文言を記載するようにしましょう。この記載がなければ、記載した地方裁判所だけでなく他の裁判所にも管轄が認められてしまう可能性があります。
その他の条項
その他の条項としては、契約の解除にかかわる条項、反社会的勢力の排除にかかわる条項などが考えられますが、これらの条項については、M&Aアドバイザーとの契約で特に意識すべき点はなく、一般的な契約書と同様の規定を置くことで足ります。
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M&A検討時に秘密保持契約(NDA)を締結する理由
ここでは、M&Aアドバイザーとの間で秘密保持契約を締結する理由について、改めて具体的に解説します。
契約を締結する理由を意識することで、ひとつひとつの条項の文言にも変化があることと思いますので、契約書を作成する際には改めて以下で述べる理由を意識するようにしましょう。
秘密情報の漏洩を防ぐため
何度も重ねて説明することになりますが、秘密保持契約を締結する最大の理由は秘密情報の漏洩を防ぐためです。
M&Aの情報は、会社の財務状況から従業員の個人情報、取引先の情報に至るまで多岐にわたります。M&Aを検討する過程でこれらの情報が漏洩してしまうと、従業員の流出や取引先の信用を失う結果となるでしょう。
そのため、M&Aにかかわる情報は、数ある契約の中でも極めて機密性の高い情報のひとつと言うことができます。秘密保持契約を締結するに際しては、秘密情報の漏洩をいかに防ぐかということを常に意識しなくてはなりません。
万が一漏洩した場合の対応を明確化するため
秘密保持契約では、損害賠償や損害拡大防止義務など、万が一情報が漏洩した場合の対応も明確にしておくことが重要です。
秘密情報の漏洩をしてはならないと約束しても、実際にそれを破ったときにどうなるかが明確でなければ、契約の実効性を確保することは難しいでしょう。漏洩が起きてしまった場合に迅速に対応するためだけでなく、漏洩させないための抑止力の意味でも万が一漏洩した場合の対応は明確化しておく必要があります。
秘密保持契約(NDA)締結のタイミング
買い手、売り手とM&Aアドバイザーとの関わりについては、M&Aの検討を開始する相談の段階から、実際にアドバイザーに手続きを依頼し、M&Aの手続きを具体的に進めていく段階へと移行していきます。
このうち、秘密保持契約を締結するタイミングとしては、M&Aアドバイザーに決算書等の情報開示をするときになるでしょう。実際に手続きを依頼するのかが決まっていない段階においても、秘密情報を提供するタイミングで秘密保持契約を締結する必要があります。
つまり、秘密保持契約はアドバイザー契約に先行して締結されるケースが多いです。
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秘密保持契約(NDA)を締結する際の確認点
秘密保持契約の条項や締結する目的などを解説してきましたが、ここでは実際に契約を締結する際に重点的に確認すべき次の点について解説します。
◆ 目的が明確か ◆ 秘密情報の定義が明確か ◆ 義務違反した場合の処理が明確か ◆ 秘密保持期間が適切か ◆ 契約終了後の対応を定めているか |
目的が明確か
秘密保持契約に限らず、何らかの契約を締結する際には目的を明確にすることが重要です。
目的が明確であれば、その目的を達成するため、各条項を適切に規定することができます。逆に目的が不明確だと、曖昧な条項が連なるのみで実益のある契約を締結することは難しいでしょう。
秘密情報の定義が明確か
秘密情報の定義が明確であるかも重要なポイントです。
「一切の情報」などと秘密情報の範囲を広く定義するのであれば、秘密情報に当たるか否かについて疑義が生じることは少ないでしょうが、秘密情報の定義を個別的に規定する場合などは、自分が想定する情報が秘密情報の定義から漏れることがないのかを必ず確認するようにしましょう。
義務違反した場合の処置が明確か
義務違反した場合の処理としては、損害賠償、損害拡大防止義務、開示した秘密情報の使用の差止めなどが考えられます。
義務違反した場合、これらの処置について義務を負うことが明確に規定されているのかについては確認が必要です。
場合によっては、損害賠償の金額や損害の拡大を防止するための具体的な措置の内容などを明記することも検討すべきでしょう。
秘密保持期間が適切か
秘密保持期間については、明記するのが望ましいです。その場合、期間が適切なものであるのかという点は十分に検討しなくてはなりません。
契約終了後の対応を定めているか
秘密情報は契約が終了したとしても、開示が許されるものではありません。そのため、契約終了後の秘密情報の取り扱いについては、話し合いのうえ対応を明記しておく必要があります。
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まとめ
M&Aアドバイザーとの秘密保持契約についてまとめました。
秘密保持契約を締結する理由は、秘密情報の漏洩防止と万が一漏洩してしまった場合の対応の明確化にあります。それぞれの条項を作成する場合には、これらの理由を意識して、秘密保持契約の目的を達せられる契約となるようにしましょう。
▼以下の記事では、意向表明者について解説しています。
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