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事業譲渡とは|メリット・相場・税金・手続き・従業員への影響を解説
更新日:2024年3月22日
監修者:伏江 亜矢(株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長)

事業譲渡とは不採算部門の整理や経営資源の集中などのため、会社にある全部または一部の事業を譲渡する手法です。株式譲渡との違い、会社分割との違い、従業員への影響、価格相場、税金、留意点、手続き、事例について詳しく解説します。

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事業譲渡とは

事業譲渡とは、M&Aで用いられる手法の一つであり、会社の事業の一部や全部を第三者に譲渡する手法です。

譲渡する事業は有形資産だけではなく、事業に付随する技術や仕入れ、販売先、ノウハウなどが含まれます。これらの事業のうち、譲渡するものを選択し、個別の移転手続きによって譲渡先に承継されます。

事業譲渡のメリット

事業譲渡にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

売り手のメリット

赤字事業やノンコア事業だけを譲渡できる

複数の事業を運営している企業では利益率が低かったり、赤字になっている事業を抱えていることがあります。

これらの事業から撤退し、譲渡した資金を成長事業や主力事業に配分することで、会社全体の収益性が向上します。

「事業の選択と集中」と言われるように、特定の事業に経営資源を集中し、経営効率を向上させ、業績向上を図ることができます。

譲渡対価を得ることができる

事業譲渡では、算定した事業価値を基にして、買い手から売り手に譲渡代金が支払われます。

譲渡対象資産から譲渡対象負債を差し引いた額ではなく、将来のキャッシュ・フローを加味する算定方法では、ポテンシャル次第で想定以上の譲渡対価を獲得できることがあります。

獲得した譲渡対価を本業や新規事業へ投入して、会社全体の収益性向上を狙えます。

▼以下では、M&Aのメリットデメリットについて解説しています。

買い手のメリット

事業譲渡による買い手のメリットを見ていきましょう。

必要な資産・負債だけを選んで買収できる

取得する資産や負債を選択することができます。

事業継続に不要な資産や負担になる負債は取得する必要がありません。

余計な取得費用がかからず、投資資金を有効活用できます。

簿外負債などを引き継ぐリスクを排除できる

簿外債務とは、会計帳簿に記載されていない債務であり、デューデリジェンスを行った場合でも、買収段階では気が付かないことがあります。

したがって、事業を買収した後になって想定外の損失が発生することがあります。

しかし、事業譲渡では、会社に関連した簿外債務を承継する必要がありません。

事業譲渡のデメリット・留意点

事業譲渡には、買い手と売り手双方にメリットがありますが、留意点もあります。

検討時には、メリットだけでなく留意点も把握しておく必要があります。

売り手のデメリット・留意点

売り手にとっての事業譲渡の留意点を見ていきましょう。

従業員や取引先との契約等、個別契約の承継が必要

事業譲渡では、すべての権利や契約が当たり前のように承継されるわけではありません。

譲渡対象事業に従事する従業員との雇用契約や取引先との契約は個別に承継の手続きを取る必要があります。

また、行政上の許可や許諾についても個別に対応するので、承継に時間と労力がかかります。

競業避止義務(20年間)が会社法で規定されている

事業譲渡を実施した時に特段の意思表示がない限り、売り手は競業避止義務を負います。

競業避止義務とは、譲渡した事業と同様の事業を行わないことを約束することです。

これは強行法規ではないため、事業譲渡契約で売り手と買い手が合意すれば適用を排除したり、短縮することもできます。

譲渡対象事業に関する技術やノウハウを持つ売り手と買い手が競業しないようにこのような規定が設けられています。

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買い手のデメリット・留意点

買い手にとっての事業譲渡の留意点を見ていきましょう。

消費税の課税対象となる資産がある

事業譲渡では、事業に係る資産や人材といった財産を承継しますが、課税資産に対しては消費税が加算された金額を支払う必要があります。

機械や設備といった土地を除く有形固定資産、やソフトウェアや特許権等の無形固定資産、商品や原材料等の棚卸資産、のれんが課税資産となります。一方、土地や有価証券(株式等)、債券(売掛金や貸付金等)は非課税資産となります。

どの資産が課税対象になるのかは、顧問税理士等に相談しながら、一つ一つ確認していく必要があります。

許認可は引き継げない

許認可の種類によって異なりますが、事業譲渡では、既存の許認可は承継されません。

買い手企業は、事業継続に必要な許認可を新たに取得する必要があります。

したがって、実務上は許認可を持っている同業他社によって買収されることがあります。

事業譲渡と株式譲渡の違い

事業譲渡と株式譲渡はよく比較されるM&Aで用いられる手法です。

株式譲渡とは

中小企業におけるM&Aの多くは、株式譲渡というスキームで実行されています。

株式譲渡は、その名のとおり、売り手が所有する譲渡対象会社の株式を買い手に譲渡するスキームです。株式譲渡では、譲渡対象会社の株主が交代し、会社がそのまま買い手に譲渡されます。

株式の売買という形式をとるため、事業譲渡や会社分割等の他のスキームに比べて手続が簡便で、従業員や取引先もそのまま移転するため、事業に与える影響が少ないのが特徴です。

次の表では、売却の想定ケース、メリット・デメリット、対象範囲。対価の受領者、会計税務という観点から違いを整理しています。

想定ケース

|事業譲渡|株式譲渡
●複数事業のうち一部を譲渡したい
●売り手が個人事業主
●引き継ぐ資産やリスクを選別したい
●売り手が営む事業=譲渡対象の事業

売却対象

|事業譲渡|株式譲渡
●会社の全部または一部の事業●会社の株式

事業譲渡は、個別的な取引行為のため、資産や負債の引き継ぎも個別に行うことになります。つまり、買い手としては、必要なもののみ引き継ぐことが可能です。

一方、株式譲渡は、包括承継となるため、買い手は、不要な資産や負債、目に見えない簿外債務などもまとめて引き継がなくてはなりません。

対価の受領者

|事業譲渡|株式譲渡
●法人●法人または個人

事業譲渡では、対価の受領者は会社です。一方、株式譲渡では、対価の受領者は自社株を保有する株主です。中小企業では、経営者が全株式を保有していることが多いですが、この場合、経営者が譲渡対価を受け取ります。

メリット/デメリット

|事業譲渡|株式譲渡
【メリット】
●一部事業のみ譲渡が可能
●買い手はのれん償却ができ、ほしい事業・資産のみ引き継げるため、評価し易い

【デメリット】
●時間がかかる/手続きがやや煩雑
*従業員の労働契約、取引契約の巻き直し
【メリット】
●手続きが容易
(株式譲渡契約)

【デメリット】
●株主が分散していると、説明や説得に時間労力がとられる
●買い手が不要資産やリスクの引継ぎを考慮し、評価減となることも

事業譲渡と株式譲渡には、上記表の通りメリット、デメリットがありますが、一般的傾向としては、「売り手が営む事業=譲渡対象の事業」の場合には、手続きを迅速に進めることができる株式譲渡で売買取引を検討し、引継ぎ事業や資産、リスクを選別したい、買い手がのれん償却をしたい等のニーズがある場合には、事業譲渡が検討されるケースが多いようです。

会計・税務

|事業譲渡|株式譲渡
●法人にお金が入る
 法人税がかかる

●消費税がかかる(課税対象部分)
●株主にお金が入る
 株主=個人/所得税がかかる
 株主=法人/法人税がかかる
●消費税はかからない

事業譲渡は、売買契約であるため、消費税の課税対象である資産が譲渡対象に含まれる場合、買い手には消費税が課されます。不動産などの譲渡が伴う場合には、不動産取得税や登録免許税も必要です。また、売り手の法人も、譲渡益がある場合には法人税が課されることになります。

一方、株式譲渡は非課税取引ですので、消費税の課税対象外となります。

事業譲渡と会社分割の違い

事業譲渡と会社分割は、主要な効果が共通しているため、混同されることもありますが、事業譲渡は、取引行為であり、会社分割は、組織再編行為であるという根本的な違いあります。

ここでは、事業譲渡と会社分割の違いを具体的に解説します。

会社分割とは

会社分割は、会社法における組織再編の1つで、その名のとおり、1つの会社の事業を分けることをいいます。このうち、分けられる(分割される)会社のことを「分割会社」、分けられた事業を受け入れる会社のことを「承継会社」といいます。 

会社分割の方法は1つではありません。まず会社分割は、事業や資産を新設した会社に引き継ぐ「新設分割」と、既存の会社に引き継ぐ「吸収分割」に区分されます。

また、吸収分割と新設分割はそれぞれ、事業を引き継ぐ対価として交付される株式が誰に交付されるかによって、さらに「分割型分割」と「分社型分割」に区別されます。

分割型分割:分割の対価として分割会社の株主が「承継会社の株式」を受け取る形式
分社型分割:分割の対価として分割会社の株主が「剰余金の配当」を受け取る形式

そして、会社分割は、これらの組み合わせによって次の4つの方法に分類されます。

分割型 新設分割|分割型 吸収分割
分社型 新設分割|分社型 吸収分割

事業譲渡と会社分割のメリット・デメリット比較

ここでは事業譲渡と会社分割のメリット・デメリットの比較をしていきます。

事業譲渡会社分割
【メリット】
○譲渡対価を得られる
○引き継ぐものを選択できる
○簿外債務の引き継ぎリスクがない
○法人格をそのまま残せる
【メリット】
○資金がなくても実行できる
○個別の同意手続きが不要
○財産の移転手続が簡単
○消費税などが課税されない
【デメリット】
○買い手はキャッシュが必要
○契約、従業員を引き継げない可能性
○消費税などが課税される
○競業避止義務が課される
【デメリット】
○簿外債務を引き継ぐリスク
○税務処理が複雑
○株式の現金化が難しい
○自社に残す資産を選別できない
○株主総会の特別決議が必須

会社法上の違い

事業譲渡は、譲渡会社と譲受会社との間の取引行為です。一方で、会社分割は、株式の移転、変動を伴う組織再編行為となります。このように、両者は、法的性質に根本的な違いがあるため、種々の違いが生じます。

譲渡対価の内容

事業譲渡は、取引行為のため、譲渡の対価は金銭です。一方、会社分割は、組織再編行為であるため、譲渡の対価は基本的に株式になります。

資産・負債の引き継ぎ

事業譲渡は、個別的な取引行為のため、資産や負債の引き継ぎも個別に行うことになります。つまり、買い手としては、必要なもののみ引き継ぐことが可能です。

一方、会社分割は、組織再編による包括承継となるため、分割を受ける会社は、不要な資産や負債、目に見えない簿外債務などもまとめて引き継がなくてはなりません。

契約や許認可の引き継ぎ

事業譲渡では、契約や許認可についても、個別の引き継ぎ手続きが必要です。取引先の債権債務関係を引き継ぐには個別に同意を得る必要がありますし、許認可は新たに取得する必要があります。

一方、事業譲渡は、契約や許認可についても、包括的に引き継ぐことになります。債権者としては、同意なく引き継ぎがされてしまうため、会社分割では、債権者保護手続が必要です。

なお、許認可の種類によっては、引き継ぎできず、新たに取得する必要があります。

消費税などの税金の違い

事業譲渡は、売買契約であるため、譲受会社には消費税が課されます。不動産などの譲渡が伴う場合には、不動産取得税や登録免許税も必要です。また、譲渡会社も、売却益がある場合には法人税が課されることになります。

一方、会社分割は、取引行為ではないため、消費税は課されません。また、適用要件は複雑なものとなりますが、要件を満たせば不動産取得税などについても軽減措置を受けることができます。

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▼以下の記事では、事業譲渡と会社分割の違いについて詳しく解説しています。

事業譲渡における社員・従業員への影響

従業員からみた事業譲渡の影響と反応・不安要素

従業員が事業譲渡の実施を知ったとき、以下のような不安要素が生じます。

・雇用条件(給与や休日休暇など)
・退職金や年金の支払い
・労働環境、新しい職場での人間関係
・キャリアパス
・買い手企業への転籍の有無

従業員への対応は事業譲渡の成否を左右する

事業譲渡を実施するかどうかは、売り手企業と買い手企業の間で交渉・決定します。そのため、労働契約の承継を除いて従業員からの同意を得たり、意見を聞いたりする義務はありません。

しかし、事業譲渡の際に従業員への対応を怠ると、M&Aの成否を左右する事態になり得るため注意を要します。

前述のとおり、従業員は事業譲渡に対してさまざまな不安を抱くことが一般的です。たとえば、十分な説明や不安を取り除くことをせずに従業員が事業譲渡を行う旨を知った場合、従業員は自身の処遇や今後のキャリアプランなどに対して不安を抱えたり、突然の環境変化に動揺したりします。

このような事態に陥ると、従業員のモチベーション低下や転籍を希望しない、事業譲渡後の離職につながり得ます。その結果、譲渡金額の減額や、買収自体が白紙になる、M&A後に買い手企業との間でトラブルに発展する、などのおそれがあります。

こうした問題を発生させないためにも、従業員の立場や心情を理解した上で事業譲渡が従業員に与える影響とメリットを、当事者である従業員に対して丁寧に説明していく必要があります。

事業譲渡に際して従業員が取り得る選択肢と企業の対応

事業譲渡で従業員が取り得る選択肢は、「買い手企業への転籍」、「売り手企業への残留(配置転換/出向)」、「退職・解雇」の3つに分けられます。各パターンの概要をくわしく解説します

買い手企業に転籍する

買い手企業で働くことを容認できる場合、従業員は転籍となります。基本的には、売り手企業との労働契約を解除し、買い手企業と新しい労働契約を締結する流れとなります。

より詳しく見ると、転籍の方法は「契約承継型」と「契約解除・成立型(再雇用型)」の2種類に分かれます。[3]契約承継型の場合は、契約条件をそのまま買い手企業に引き継がせます。一方で再雇用型の場合は、買い手企業と従業員の間で雇用条件を一から決定することになります。

なお、一部の従業員のみを承継対象とするケースでは注意が必要です。特定の従業員を排除する目的で行う事業譲渡や、労働条件の切り下げに応じない従業員を承継対象から除外する事業譲渡などの場合、M&Aの合意自体が無効となるおそれがあるためです。[3]

売り手企業に残る

売り手企業への残留を選択する場合、雇用主である売り手企業の意向により、「配置転換」または「出向」のいずれかの対応がとられます。この項では、配置転換と出向で従業員の働き方にどのような影響が生じるかを解説します。

売り手企業が同業事業を継続する場合、残された従業員が働く場所は残ります。そのため、買い手企業への転籍を希望しない場合、従業員は残留という選択肢をとれます。

配置転換

売り手企業に残留する場合、大半のケースでは配置転換で職務内容や勤務場所、職種などが異なる仕事に就くことになります。ただし、売り手企業が事業譲渡後に同業を継続しないケースでは、従業員が配置転換によって対応できる業務がなくなることもあります。


配置転換が行われると、仕事内容や勤務地などは従来と大きく変化する可能性があります。そのため、従業員にとって受け入れがたい働き方となる可能性も考えられます。

一方で企業側は、事業譲渡を拒否したことのみを理由に従業員を解雇すると、労働契約法第16条の規定に基づき、権利を濫用したものとして解雇が認められない点に注意が必要です。したがって、転籍を希望しない従業員に対しては、まず配置転換により雇用関係を維持するための相応の措置を講ずる必要があります。[4]

配置転換を行う場合、前述のとおり業務内容や勤務地などが変更し、従業員のモチベーション低下などを招くおそれがあります。したがって、転籍のケースと同様に、従業員との間で十分な協議を行うことが重要です。

出向

実務ではあまり見かけないケースですが、「出向」という形式で、買い手企業に移って業務に就くことも考えられます。同業事業を継続しないケースにおいて、配置転換は困難ですが出向による対応は比較的可能です。

出向とは、労働者が出向元企業(売り手企業)と何らかの関係を保ちながら、出向先企業(買い手企業)と新たに雇用契約を締結し、一定期間継続して勤務することです。特に、売り手企業との雇用契約を維持した状態で、買い手企業で勤務してもらうことを「在籍型出向」と呼びます。[5]

一般的に出向の場合、まずは一定期間だけ買い手企業で働き、買い手企業の働き方や社風などに順応したタイミングで転籍するかどうかを判断する流れとなります。売り手企業にとっては、転籍ではないため従業員に同意してもらいやすい点がメリットです。一方で買い手企業にとっては、実質的に必要な人材を引き継げる点がメリットとなります。

ただし、労働契約法第14条の規定により、出向命令に際して、権利を濫用したものと認められた場合には無効となる点に注意が必要です。[6]在籍型出向を命じるには、一般的に以下の手続きを経る必要があります。[7]

1.労働者の個別同意
2.就業規則等の整備
3.労使の話し合い
4.出向契約の締結
5.出向期間中の労働条件等の明確化

以上より、かならずしも転籍の代替手段として出向が活用できるとは限らないと言えます。

退職・解雇

転籍や配置転換・出向を希望しない従業員には、退職(会社都合/自己都合)、または整理解雇という選択肢が残されます。

退職(会社都合/自己都合)

退職に関しては、状況に応じて「会社都合」または「自己都合」となります。専門的な部分であり、従業員や売り手企業が独自の見解で判断すると、トラブルに発展するおそれがあります。したがって、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談した上で、対応を検討することが望ましいでしょう。

整理解雇

配置転換や出向などを希望しない場合、企業側からインセンティブを伴う自主退職の推奨や協議が行われます。こうしたプロセスを経ても双方の間で合意されなかった場合、最終的には整理解雇となる可能性があります。

整理解雇が認められるには以下4つの要件を満たす必要があります。[4]

1.人員削減の必要性:経営上の事情により人員整理をする必要があること
2.解雇回避の努力:解雇を回避するための努力を十分に行ったこと
3.人選の合理性:解雇対象者の人選が合理的であること
4.手続の妥当性:対象労働者や労働組合に対して十分な説明と協議を行ったこと

具体的には、配置転換や出向による対応、退職金増額などのインセンティブを伴う自主退職の推奨、従業員との協議などを行なった上で、それでも従業員との間で合意に至らなかった場合に、はじめて整理解雇が認められる可能性が出てきます。

整理解雇をめぐっては従業員との間でトラブルに発展する可能性が高いため、弁護士などの専門家に協力を仰いだ上で実施するのが望ましいでしょう。


[3] 事業承継支援マニュアル(中小機構)

[4] 事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針(厚生労働省)

[5] 在籍型出向支援(厚生労働省)

[6] 労働契約法第14条(e-Gov)

[7] 在籍型出向「基本がわかる」ハンドブック(厚生労働省)

▼以下記事では、事業譲渡の従業員への影響について詳しく解説しています。

事業譲渡の価格相場の考え方

事業譲渡において取引価格はどのように決定されるのでしょうか。

事業譲渡価格の計算方法

事業譲渡における価値評価の方法は、以下の3つが代表的です。

評価手法事業の評価額の算出方法
①時価純資産
+営業権法
(年倍法)
譲渡対象となる資産を時価評価して、譲渡対象となる負債を差し引いた時価純資産額に営業権(=のれん)を上乗せして算出
②EBITDAマルチプル(類似会社比較法)譲渡対象事業と類似する事業を営む上場企業(業種・事業や成長率をみて選定)の評価(株価や利益等の指標)を使用して評価額を算出
③DCF法事業が将来生み出す価値をフリーキャッシュフローで推計し、資本コスト(WACC)で割り引いて現在価値に換算して事業価値を算出

時価純資産プラス営業権法(年倍法)

時価純資産+営業権で事業価値を算定する方法です。

時価純資産は、時価で評価された資産から時価で評価された負債を差し引いて求めます。

事業譲渡の場合には、次の計算式で算出します。

事業価値評価額 = 譲渡対象資産 – 譲渡対象負債 + のれん(実質利益の2~5倍)

中小企業の事業譲渡では、簡単で分かりやすいという理由から、特に売り手の価値算定においてこの方法が良く使われます。

しかしながら、倍率に合理的な根拠がないこと、減価償却費の取扱いが合理的でないことなどの欠点も多く、理論的にはサポートされにくい計算手法です。

特に会計監査を受けている買い手企業については、他の方法と併用すべきと考えられます。

EBITDAマルチプル法(類似会社比較法)

マルチプル法とは、業種や規模、ビジネスモデル等が類似する上場企業の株価や指標に基づき、譲渡対象の価値評価を行う方法です。

EV/EBITDA倍率を用いて事業価値を評価する方法が代表的で、この計算手法をEBITDAマルチプル法といいます。主なステップとしては、次の通りです。

1.業種や規模等の条件設定により抽出した上場企業リストを基に、類似企業を選定する

2.類似企業の事業価値とEBITDAの数値を取得する。

3.事業価値(EV)をEBITDAで割って各類似企業のEV/EBITDA倍率を計算する。

4.各類似企業のEV/EBITDA倍率の中央値(市場倍率)を計算する。

5.対象事業のEBITDAに市場倍率をかけて、対象事業の事業価値を算出する。

EBITDAマルチプルは類似する上場企業の株価や指標を参考に、客観的に企業分析ができます。DCF法と比べても計算が容易です。その反面デメリットもあります。設備投資計画が織り込めないことや、業界や規模によっては、最適な類似会社がないケースもあります。

▼以下の記事では、EBITDAについて解説しています。

DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)

DCF法は、「ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー」の略称です。

対象事業が生み出す将来のキャッシュ・フローを、適切な割引率で現在価値に還元して、事業価値(EV)を算定します。

対象事業が生み出す将来のキャッシュ・フロー(フリー・キャッシュ・フロー)は、貸借対照表や損益計算書、事業計画を参考にして、次の計算式で算出します。

フリーキャッシュフロー =営業利益(1-実効税率)+減価償却費-設備投資額-正味運転資本増加額

DCF法は、対象会社を継続企業として捉える評価方法です。将来の収支見通しや設備投資計画等を織り込めるため、事業譲渡・M&Aの価値評価において最も論理的な方法といわれています。その反面、前提条件(割引率やキャッシュフロー等)の設定の仕方によって恣意性が入りやすいというデメリットもあります。

▼以下の記事では、会社売却の価格の決め方について、解説しています。

事業譲渡の相場の考え方

事業譲渡の相場を決める要素は「業種・事業内容」だけではありません。その要素としては、「業種・事業内容」のほか、「地域」「取引先」「財務」「売上規模・投資額」などが挙げられます。さらに「経営者」や「従業員」といった会社の人財も重要な要素となります。

このように、相場を決める要素は多岐にわたることから、売り手、買い手自身で調査するのは大変な作業です。そのため、譲渡対象事業の相場感を確認するためには、M&A仲介会社や金融機関の担当者等の無料個別相談を利用することをおすすめします。

多くのM&A仲介会社では、無料で対象事業の価値評価シミュレーションを実施しています。相談するM&A仲介会社を選ぶ際には、対象業種や対象地域において支援実績のある会社を選ぶことをお勧めします。

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事業譲渡にかかる税金

事業譲渡を行うと、売り手と買い手の双方に税金が課税されます。

売り手にかかる税金

事業を譲渡する売り手企業にも税金が課税されます。

譲渡利益から差し引かれる税金についても確認が必要です。

法人税

売り手には法人税が課税されます。

事業譲渡によって譲渡利益が生じるので、利益に対して、法人税率を乗じます。

譲渡利益は譲渡価額から譲渡した事業の簿価を差し引いて算定します。

買い手にかかる税金

事業を買収する買い手にも税金が課税されます。

譲渡価格に加算して税金がかかることを理解しておく必要があります。

消費税

買い手には消費税が課税されます。

有形資産や負債、人材、ブランドといった承継する資産に課税対象の資産が含まれている場合、消費税が課税されます。

有形固定資産や棚卸資産などが課税資産に含まれます。

その他留意点

事業譲渡では、事業の時価と実際の譲渡価格の差額が生じることがあります。

この差額は、「のれん」として税務上の処理が必要になります。

会計上の償却期間は20年以内ですが、税務上では5年と規定されています。

したがって、のれんの金額が1,000万円である時の税務上における毎期の「のれん償却費」は200万円となります。

のれんは損金として処理するので、買い手企業で利益が生じた場合、利益と損金を相殺することができます。

事業譲渡の手続き

次に事業譲渡の手続きの流れを順に確認していきます。


 ■譲渡対象となる事業の決定

 ■買い手を探す

 ■基本合意

 ■デューデリジェンス

 ■事業譲渡契約書の締結・実行

 ■移転手続き・各所への届出等
  

譲渡対象となる事業の決定

事業譲渡とは、事業の一部又は全部の譲渡です。

最初に譲渡対象となる事業を決定します。

既に赤字となっている事業を譲渡するのか、黒字だが成長が見込めない事業を譲渡するのか、経営戦略に沿った形で対象事業を選定します。

買い手を探す

事業を譲渡する買い手を探します。

買い手が見つからなければ事業を譲渡することができません。買い手を探す方法としては、いくつか方法があります。

売り手が買い手に対して直接、譲渡の打診をする

取引先等、売り手の既知先から買い手を探す方法です。

お互いの事業内容をよく理解しているため、従業員や取引先にとっても安心感がある可能性があります。ただし、具体的な条件交渉の場では、近しい関係がゆえ、特に金額面の交渉(減額交渉や値上げ交渉)は難しいケースが多いこと、事業譲渡の条件調整・契約締結・実行までには会計・税務・法務・労務等、様々な専門知識が必要になることから、本合意の前段階からM&Aの仲介会社やアドバイザーを介して交渉を進めることが一般的です。

金融機関に相談する

最近では、事業承継やM&Aなどの専門部隊をもつ金融機関も増えてきています。

メガバンクや大手証券会社であれば、全国に支店を持ち、あらゆる業種の企業と取引があるので、幅広い選択肢から買い手を探してくれる可能性があります。一方で、基本的には取引先の中から探す、ということが前提になるため、その点は認識しておく必要があります。

M&A仲介会社に相談する

M&A仲介会社は、M&Aアドバイザーが売り手と買い手の間に入り、M&Aが実行されるまでの中立的なサポートを行います。日本の中小企業におけるM&Aにおいてよく利用されています。M&A仲介会社の役割は、M&A検討の初期段階から、M&Aの実行段階までの全部または一部において、売り手と買い手の間に立ってM&Aに関する専門的なアドバイスや実務的な支援をすることです。相手先の発掘はもちろん、M&Aの事前準備(価格、相手先、タイミングの検討など)からアドバイスしてもらえる仲介会社もあります。

基本合意

基本合意とは、最終契約に至る前に基本条件について合意した事項について、内容を確認するものです。

事業譲渡の方法や譲渡価額、譲渡対象の事業、独占交渉権の付与といった事項を記載します。

通常、法的拘束力はありませんが、契約成立に向けて努力する道義的義務を課すことができます。

▼以下では、基本合意書について解説しています。

デューデリジェンス

デューデリジェンスとは、売り手企業やその事業について法務や税務、財務といった側面から行う買収監査のことです。

事業買収のリスクの把握や買収価格の決定を目的として行われます。

買い手が弁護士や公認会計士などの専門家に依頼して実施されます。

事業譲渡契約書の締結・実行

事業譲渡契約は最終契約であり、売り手と買い手の合意事項を記載します。

記載事項は譲渡価額、譲渡対象の事業、表明保証、秘密保持、競業禁止、譲渡期日といった事項です。

移転手続き・各所への届出等

事業譲渡契約書の締結では事業譲渡の手続きは完了しません。

個々の譲渡対象資産や雇用関係の契約締結、行政の許認可の再取得の手続きを管轄の役所で行う必要があります。

事業譲渡の仕訳

事業譲渡における買い手と売り手の会計処理(仕訳)について解説します。

事例:A事業(資産合計:5,000万円、負債合計:3,000万円)を対価4,000万円(のれん2,000万円)で事業譲渡

買い手側の仕訳

買い手側の仕訳は下記のとおりです。

借方貸方
資産合計:5,000万円負債合計:3,000万円
のれん:2,000万円現預金:4,000万円

A事業に関連する資産、負債をそのまま引き継ぎ、事業譲渡金額との差異をのれんとして計上します。

売り手側の仕訳

売り手側の仕訳は下記のとおりです。

借方貸方
負債合計:3,000万円資産合計:5,000万円
現預金:4,000万円事業譲渡益:2,000万円

A事業に関連する資産、負債を切り離し、事譲渡金額との差異を事業譲渡益として計上します。

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事業譲渡・M&Aの事例

Webプラットフォームの運営事業の譲渡【ITコンサル×WEBプラットフォーム】

譲渡企業の概要

所在地関東
事業内容Webプラットフォームの運営

譲受企業の概要

所在地関東
事業内容ITコンサルティング

事業譲渡の目的と詳細

譲渡企業の目的:社内リソースの問題、選択と集中

譲受企業の目的:自社のノウハウを活かせる新規領域への参入

詳細:2020年2月に成約。譲受企業の依頼に基づき、譲渡企業へのアプローチからクロージングまで行っています。詳しくは以下へ。

>>「Webプラットフォームの運営事業の譲渡【事業譲渡】」

まとめ

ここまで事業譲渡について、株式譲渡との違い、価値評価や相場の考え方、税金、メリット、留意点、手続きなどについて解説をしました。事業譲渡の手続きを進めるには、会計・税務・法務・労務など、様々な知識が必要になります。

納得のいく価格条件、相手先との事業譲渡を成立させるため、また、後々トラブルにならないように、検討初期の段階から、事業譲渡の実務に精通したM&Aアドバイザーや顧問税理士等に相談をしながら進めることをおすすめします。

▼以下では、株式譲渡、事業譲渡、会社分割のケース別に、メリットデメリット等の解説をしています。

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納得感のある価格・条件で事業承継・M&Aを実施するためには、客観的な企業価値の把握が第一歩です。決算書等をご提出いただければ、20年で2000件以上のM&A支援実績を持つコーポレート・アドバイザーズが無料で企業価値シミュレーションを実施いたします。

伏江亜矢
監修者:伏江亜矢
株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長
金融機関で法人営業を担当後、2012年にコーポレート・アドバイザーズ入社。M&Aの事前準備から、候補先のソーシング、企業価値評価、条件交渉、クロージングまで一気通貫した支援を行っている。 ヘルスケア・ライフサイエンス(医療・介護・メーカー・卸商社)、IT・ソフトウエア(Webサービス、システム開発)、人材サービス(派遣、警備、ビルメンテナンス)などのM&A支援経験が豊富。 M&A成功のために必要な情報をわかりやすく解説するコラムサイト「よくわかるM&A」の運営責任者。
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会社概要

日本クレアス税理士法人|コーポレート・アドバイザーズ グループでは、20年間にわたり2000件以上の会社売却・M&A支援を行っています。

よくわかるM&Aでは、会社売却・M&Aの基礎知識やフェーズごとのM&A成功ポイント・留意点を解説しています。

毎月、オンラインの無料セミナー開催しております。会社売却・M&Aの検討を始めたばかりの方もお気軽にお問合せください。

■グループ企業一覧
日本クレアス税理士法人
日本クレアス社会保険労務士法人
弁護士法人日本クレアス法律事務所
株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティング
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株式会社結い財産サポート
日本クレアス行政書士法人

■事業内容
会計・税務
M&A(仲介・コンサルティング)
FAS(株価算定/財務調査/企業再編)
人事労務 / 給与計算
相続・事業承継
企業法務・法律顧問
IFRS(国際財務報告基準)・決算開示(ディスクローズ)支援
内部統制(J-SOX)・内部監査
海外現地法人サポート
非上場株式売却コンサルティング(非上場株式サポートセンター

■社員数
417名(グループ全体 / 2023年10月現在)
税理士(試験合格者含む)56名
公認会計士(試験合格者含む)15名
特定社会保険労務士2名
社会保険労務士(試験合格者含む)12名
弁護士 2名
相続診断士41名
中小企業診断士1名
行政書士4名

■関与先
法人 3,240社(うち上場企業85社)
社会福祉法人 133件
クリニック・医療法人・介護福祉等 593件
個人 4,015名
合計 7,981件

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