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アドバイザリー契約とは?|中小M&Aガイドラインを基にチェックポイントを解説
監修者:伏江 亜矢(株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長)

M&Aを成立させるために締結する「アドバイザリー契約」。当該契約では、法務、財務等の専門的な知識に基づく助言や、契約交渉の支援等を行うことを具体的に定める。本記事では、類似する他契約との違いや、アドバイザリー契約の目的や条項のチェックポイントを、中小M&Aガイドラインに基づいて、実務に精通する専門家が解説します。

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M&Aにおけるアドバイザリー契約とは

M&Aの成立までには、事前準備(戦略立案・価値算定など)、相手先探し(マッチング、ファインディング)、契約条件調整、各種手続き書類作成、関係者との調整などのステップがあります。このステップを進めるにあたっては、M&Aの実務経験のほか、会計、税務、法務、労務などの様々な側面での専門的知識が必要となるため、買い手・売り手ともにM&A専門会社との間でアドバイザリー契約を締結し、M&A専門会社に買い手候補を探してもらったり、契約交渉におけるサポートや助言を受けたりしつつM&Aの成立を目指すことになります。

アドバイザリー契約と他の契約との違い

アドバイザリー契約と類似する契約として次の3つの契約があります。


 ◆業務委託契約

 ◆M&Aコンサルティング契約

 ◆顧問契約
  

ここでは、これら3つの契約とアドバイザリー契約との違いや関係性について解説します。

業務委託契約

業務委託契約とは、特定の業務を外部に委託する契約のことです。アドバイザリー契約もM&A成立に向けた手続きを外部に委託するものであり、業務委託契約の一種と言えます。

業務委託契約は、委託の内容に応じて、業務の遂行を目的とする「委任」形式のものと、業務の完成を目的とする「請負」形式のものに分けられます。アドバイザリー契約は業務の完成自体ではなく業務の遂行を目的として締結されるものなので、請負形式の業務委託契約です。

M&Aコンサルティング契約

M&Aのコンサルティング契約とは、受託者がコンサルタントとして、M&Aにかかわる様々な専門的知識に基づき、M&Aの成立に向けた指導を行う契約のことです。

アドバイザリー契約とコンサルティング契約とで厳密な定義の違いがあるわけではありません。両者はアドバイスの対象やサポートの範囲で区別されることもありますが、単なる用語の違いと捉えておいても特段問題はないでしょう。

顧問契約

顧問契約は、特定の分野における専門家から継続的なサポートを受けるために締結される契約です。M&Aのアドバイザリー契約もM&A成立のために専門家から継続的なサポートを受けるという点では、顧問契約と共通します。

両者の大きな違いは、契約期間と報酬の支払い方法にあります。顧問契約は、継続的なサポートを受けることを前提に、契約期間は定めずに締結されることがほとんどです。

報酬の支払いは、月々の顧問料という形で支払われます。アドバイザリー契約は、M&Aの成立を目的として締結される契約のため、契約期間はM&Aの成立までとされることが多いです。

報酬は、契約時に支払われる着手金とM&A成立後に支払われる報酬金に分けられており、月々の支払いとはなりません。

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中小M&Aガイドラインとは

特にM&Aの売り手にとって、M&A専門会社との契約は、長年経営してきた自社を売ることを託す契約であり、重大な意味を持つ契約です。そこで、経済産業省では、経営者が少しでも安心してM&Aを進められるよう「中小M&Aガイドライン」を策定しています。

中小M&Aガイドラインでは、M&A専門会社に対して、適正な業務遂行のための行動指針を提示しており、ガイドラインに沿ったアドバイザリー契約の締結を推進しています。

さらに、M&Aを検討している中小企業の経営者に向けては、M&A事例の紹介や、適切にM&Aを進めるために確認すべき事項や契約書のひな型などを提示しています。M&Aの手続きを進めるに際しては、内容を充分に確認することがおすすめです。

参考:経済産業省「中小M&Aガイドライン

▼以下の記事では、中小PMIガイドラインについて解説しています。

M&A仲介会社とのトラブル例

M&A仲介会社の選択を間違えると思わぬトラブルに巻き込まれてしまうこともあります。トラブルに巻き込まれないためには、信頼できるM&A仲介会社と適切なアドバイザリー契約を締結するのはもちろんのこと、どのようなトラブルが起こりうるのかを知っておくことが重要です。

ここでは、実際に起こりうるM&A仲介会社とのトラブル例を3つ紹介します。

匿名情報(ノンネームシート)での情報漏洩

M&A仲介会社が買い手候補を探す際には、売り手の企業名などを隠したノンネームシートを使用します。通常は、ノンネームシートを利用することで売り手のプライバシーを守り、買い手を探しているという情報が漏洩することはありません。

しかし、ノンネームシートの内容によっては、企業名を隠していてもその他の情報から企業名が容易に判別できてしまうなど、情報漏洩が起きてしまうことがあります。アドバイザリー契約を締結する際には、買い手候補を選定する際の情報漏洩を防止するためにどのような施策が講じられているのかを充分に確認しておくべきです。

また、売り手自身がノンネームシートの内容を事前に確認することも有効です。

交渉段階で買い手の主張ばかりを考慮して、仲介者として機能せず

仲介会社の担当者によっては、M&Aを成立させることを優先し、買い手の主張ばかりを考慮して仲介者としての機能を果たしてくれない、という例もあるようです。仲介会社は、買い手・売り手双方から手数料を受け取って業務を行います。そのため、当然のことながら中立・公平な立場でなくてはなりません。

仲介会社を選ぶ際には、担当者との面談や議論を通じて、買い手・売り手双方の立場を考慮してくれるのか、相手の意向を一方的に伝えるだけの担当者ではないか、をよく見極めることが重要です。

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希望条件で相手が見つからず解約したいが応じてもらえない

仲介会社に依頼をしても、買い手候補がなかなか見つからないこともあります。その場合、売り手としては、M&Aを断念したい、仲介会社を変更したいなどの理由で仲介会社との契約を解約したいところです。

しかし、仲介会社によっては、手数料の確保などを目的として、なかなか解約に応じてくれないこともあります。このような事態を避けるためには、アドバイザリー契約において期間制限や解約条件などを明確にしておくことが重要です。

中小M&Aガイドラインに基づく、アドバイザリー契約時のチェックポイント

M&Aアドバイザリー契約を締結する際には、中小M&Aガイドラインに沿った内容となっているのかを確認する必要があります。

ここでは、契約条項ごとに確認すべきポイントを解説します。

意思決定

M&Aの手続きにおける意思決定の主体はM&A専門会社ではなくM&Aの当事者です。つまり、手続の過程で重大な意思決定の必要が生じた場合には、アドバイザーの説明をもとに、M&Aの当事者である、売り手及び買い手が最終的な意思決定を行わなくてはなりません。

売り手及び買い手は、意思決定を行うのはアドバイザーではなく、あくまで自分自身であることを理解したうえで契約を締結する必要があります。

仲介契約・FA契約の締結

アドバイザリー契約には、M&A専門会社が売り手及び買い手双方と契約を締結する仲介契約と、どちらか一方のみと契約するFA契約があります。アドバイザリー契約の締結に際して、売り手・買い手は、2つの契約形態の内容及び今回の契約がどちらの契約形態に該当するのかを理解する必要があります。

仲介契約は、双方から手数料を受け取って業務を行うため、M&Aアドバイザーは、中立性・公平性をもって売り手・買い手双方の利益を図らなくてはなりません。FA契約では、依頼を受けた側の利益を最大化することを目的として業務を行います。

具体的な契約内容としては、業務の範囲及び内容、手数料の金額や発生のタイミングを明確にし、買い手・売り手が十分に理解できる内容でなくてはなりません。

その他、秘密保持、専任条項、契約期間についての規定を設けるのが一般的です。

バリュエーション(企業/事業評価)実施時

「希望価格をいくらで設定するのか」について、M&Aアドバイザーによるバリュエーションを参考にして決定します。

M&Aアドバイザーが算出したバリュエーションは、よく使われる算定手法を用いて、過去の決算数値をもとに機械的に算定したものであることが多く、これが最終的な取引価格となるわけではありません。しかしながら、売り手としては、バリュエーションの算定結果=自社の価値と思いこみやすい傾向にあります。M&Aの取引価格は、あくまでも当事者間で合意した価格であるため、注意が必要です。

また、買い手を募集開始する際には、希望金額のほかに、許容金額の下限(この金額を下回ったら取引はしない)をM&Aアドバイザーと相談のうえ決定しておくことをお勧めしています。そのほか、採用スキームや買い手との交渉によって金額が大きく変動する可能性があることも理解しておく必要があります。

▼以下の記事では、会社売却・M&Aの価格相場について解説しています。

買い手候補の選定(マッチング)

アドバイザリー契約では買い手候補の選定方法を説明し、売り手がその内容を理解したうえで手続が進められなくてはなりません。

基本的な選定方法は、売り手のノンネームシートをもとに買い手候補を募集し、買い手候補と秘密保持契約を締結した後に企業名などの秘密情報を買い手候補に提示するというものになります。選定応報が、売り手の秘密情報を守れるものとなっているのかは十分に確認しておく必要があります。

条件交渉

アドバイザリー契約は、M&Aが成立するまでの流れや具体的な条件交渉の方法について、M&Aアドバイザーから十分な説明を受け、理解したうえで締結することが重要です。

デューデリジェンス(DD)

M&Aを成立させるにはデューデリジェンスは欠かせません。デューデリジェンスは一般に買い手が費用を負担して実施し、売り手は手続きに協力する義務を負います。また、仲介形式の場合、アドバイザリーはデューデリジェンスを実施することはありません。

アドバイザリー契約では、デューデリジェンスの費用負担、売り手・買い手の義務が明確になっているのかを確認する必要があります。

最終契約の締結

M&Aが成立する場合には、売り手と買い手との間で最終契約書を締結することになります。アドバイザリー契約の締結に際しては、M&Aの成立には本契約とは別に最終契約の締結が必要であること、最終契約の締結に際しては売り手・買い手が契約の内容を確認したうえで意思決定を行う必要があることを理解しておく必要があります。

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クロージング

最終的な手続きの着地点として、買い手は譲渡対価を支払い、売り手は不動産の所有権移転や役員変更登記などの手続きを行う必要があります。

売り手は最終的に自身が負担する手続の内容についてもアドバイザリー契約を締結する段階で理解しておくべきです。

▼以下の記事では、M&Aにおける契約書について解説しています。

まとめ

ここまで、中小M&Aガイドラインに基づいて、アドバイザリー契約におけるチェックポイントを解説しました。M&Aアドバイザーの選定時・業務委託時の参考情報として、お役立ていただけますと幸いです。

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伏江亜矢
監修者:伏江亜矢
株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長
金融機関で法人営業を担当後、2012年にコーポレート・アドバイザーズ入社。M&Aの事前準備から、候補先のソーシング、企業価値評価、条件交渉、クロージングまで一気通貫した支援を行っている。 ヘルスケア・ライフサイエンス(医療・介護・メーカー・卸商社)、IT・ソフトウエア(Webサービス、システム開発)、人材サービス(派遣、警備、ビルメンテナンス)などのM&A支援経験が豊富。 M&A成功のために必要な情報をわかりやすく解説するコラムサイト「よくわかるM&A」の運営責任者。
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