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スクイーズアウトとは?株価算定、メリット・デメリット、手続き、事例を解説
更新日:2024年3月13日
監修者:伏江 亜矢(株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長)

強制的に少数株主を排除する手法のスクイーズアウト。本記事では、スクイーズアウトのメリット・デメリットや、手続きの流れ、スクイーズアウトにおける株価算定の留意点、スクイーズアウトの実施例、相談窓口等について、実務に精通する専門家が解説します。

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スクイーズアウトとは

スクイーズアウトとは、少数株主が保有する株式を強制的に買い取り、少数株主を会社から排除する手法を言います。

少数株主がスクイーズアウトに反対したとしても、会社としては少数株主に適正な対価を支払うことで、強制的に手続きを進められます。スクイーズアウトを行うと、少数株主が多数いる会社でも、一気に株式を買い集めることが可能です。

スクイーズアウトにおける株価算定

株価算定と公正な価格

スクイーズアウトを実行する際の株価算定は、買取を行う大株主の側が決定します。少数株主は、決定された価格での買取に応じざるを得ず、増額交渉などは行えません。

株価の算定に異議のある株主は、裁判所に対して価格決定の申立てを行えます。その際、算定価格があまりに低く、公正な価格と言えないような場合には、裁判所によって売渡請求の差止めを受ける可能性があります。

少数株主と算定価格を巡る争いとなり、差止めまで受けてしまうと、スクイーズアウトを進めることができません。そのため、株価算定の際には、少数株主の納得が得られる「公正な価格」を提示するのが重要です。

株価算定の手法

株価算定は、「バリュエーション」と呼ばれます。バリュエーションの方法は、「インカムアプローチ」、「コストアプローチ」、「マーケットアプローチ」の3種類に大別され、それぞれの特徴やメリット・デメリットは以下のとおりとなります。

 インカムアプローチコストアプローチマーケットアプローチ
特徴将来の収益性を基準とする過去の蓄積である貸借対照表の純資産を基準とする市場取引の視点である過去のM&A事例や類似業種などを基準とする
代表的な手法○DCF法○時価純資産法○類似会社比較法(マルチプル法)
メリット○将来的な収益性を反映できる
○各社の固有の性質を反映できる
○客観性の高い評価を行える
○評価を比較的容易に行える
○客観性の高い評価を行える
○市場の状況を反映できる
デメリット○主観や恣意によって評価が影響される○将来的な収益性を反映できない
○市場の取引状況を反映できない
○短期的な市場の変動に左右される
○各社の固有の性質を反映しにくい

上記3種類の評価方法を把握し、自社、市場の状況などを踏まえた上で使い分けます。一般的には、複数の手法を併用し、より実態にあった評価を行います。

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スクイーズアウトが利用されるケース

スクイーズアウトは、以下のケースで利用されることが多いです。

○ 少数株主を排除して会社としての意思決定をスムーズに行いたいとき

○ 少数株主と大株主が対立しているとき

○ M&Aによる完全子会社化を進めたいとき

スクイーズアウトの手法によらなければ、会社は、株主1人1人と株式の買取交渉を行わなければなりません。スクイーズアウトは、会社が支配権をコントロールし、スムーズな意思決定を行ううえで非常に便利な手法です。

スクイーズアウトを行うメリット

スクイーズアウトのメリットとしては、次の5つを挙げられます。

◆迅速な意思決定

◆株主総会に関する事務手続きの削減

◆株式の集約(相続・M&A対策)

◆連結納税制度を利用できる

◆株主代表訴訟リスクの削減

以下、それぞれのメリットについて詳しく解説します。

迅速な意思決定

株式会社において、会社の重要な意思決定は株主総会の決議で行います。大株主の意見に反対する少数株主が存在する場合、株主総会の決議は紛糾し意思決定までに時間がかかる可能性が高いです。

スクイーズアウトで少数株主を排除しておけば、株主総会の決議はスムーズに進むため、迅速な意思決定ができます。

株主総会に関する事務手続きの削減

株主の数が多くなると、株主総会の案内や会場の手配から議事録の作成まで、事務手続きが煩雑になります。スクイーズアウトによって株主を大株主に絞り込めば、事務処理の負担は減り、株主総会を書面決議で済ますこともできるようになります。

株式の集約(相続・M&A対策)

株式は、相続の対象です。少数株主が亡くなって株主が相続されると、株式は込まなく分散されてしまいます。株式が分散すると、株主の管理が大変になり、場合によっては連絡の取れない株主も出てきてしまうでしょう。

また、M&Aによって買い手企業の完全子会社となる場合には、株主の意思を統一しておく必要があります。株式が分散し、少数株主が多く存在する状態だと意思を統一するのも困難です。

スクイーズアウトを利用すれば、少数株主を排除して株式を集約できるため、相続やM&Aの対策としても有効な手段と言えます。

連結納税制度を利用できる

M&Aによる完全子会社化を進めるには、スクイーズアウトは有効な手段の1つです。

M&Aによって完全子会社化に成功すると、連結納税制度を利用できます。連結納税制度とは、親会社と子会社の利益を損益通算して税額を算定する制度です。たとえば、親会社が黒字で子会社が赤字の場合には、子会社の赤字分を親会社の利益から差し引くことができるようになります。利益を減らせると、その分だけ節税効果を得られます。

株主代表訴訟リスクの削減

株主間で経営者グループと少数株主との間で対立がある場合、取締役は、常に少数株主による株主代表訴訟を提起される危険にさらされることになります。

スクイーズアウトによって少数株主を排除すれば、取締役は株主代表訴訟を恐れることなく経営に注力できるようになるでしょう。

▼以下の記事では、会社売却の事前準備について解説しています。

スクイーズアウトのデメリット(留意点)

スクイーズアウトを行うにはメリットばかりではなく、次のようなデメリット(留意点)も存在します。

◆手続きに手間がかかる

◆対価の支払い

◆裁判に発展する可能性

これらの留意点を意識せずにスクイーズアウトを実行してしまうと、手続きが頓挫したり思うような効果を得られなかったりする可能性が高くなります。手続きを開始する前に、しっかりと理解をしておく必要があります。

手続きに手間がかかる

スクイーズアウトを実行するには、複数の手法があります。しかし、どの手法を選択しても、法律に沿った厳格な手順で手続きを進めなくてはならないので、相当の時間が必要です。

最も簡易な方法でも3週間ほどは必要で、長くかかる方法だと2か月ほどかかる場合もあります。スクイーズアウトを実行する際は、選択する手段によって、手続き完了までの余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。

対価の支払い

スクイーズアウトを実行するには、少数株主が保有する株式を取得するための対価の支払が必要です。株式を現金で買い取る場合、その価格は公正な価格でなくてはなりません。

非上場会社の場合には企業価値によって価格の算定を行うため、企業価値の高い企業がスクイーズアウトを実行する場合、高額の資金が必要となる可能性もあります。

スクイーズアウトを検討する場合、予算の検討と資金の準備も合わせて検討する必要があるでしょう。

裁判に発展する可能性

スクイーズアウトにおいて少数株主への対価が公正な価格とは言えない場合には、裁判に発展する可能性もあります。

裁判に発展すると解決までに費用も時間もかかるため、企業にとっては大きなリスクを抱えることになってしまいます。

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スクイーズアウトの具体的な5つの手法

スクイーズアウトの手法としては、次の5つが挙げられます。

◆株式等売渡請求

◆株式併合

◆全部取得条項付種類株式

◆株式交換

◆株式公開買付

会社の現状やスケジュール、資金などによって執るべき手法は変わります。それぞれの特徴を押さえて、会社の状況に合わせたベストな手法を選択できるようにしてください。

株式等売渡請求

議決権の90%以上を持つ「特別支配株主」がいる場合、特別支配株主の株式等売渡請求を利用できます。

特別支配株主の株式等売渡請求は、株主総会の特別決議が必要なく、取締役会の承認で手続きを進められます。株式等売渡請求が承認されると、少数株主は売渡を拒否することはできません。売渡の価格に不満がある場合、少数株主は裁判所に対して価格決定の申立てを行えますが、この申し立ても売渡自体の効果を争うものではありません。

特別支配株主の存在と買取のための金銭が必要とはなりますが、意思決定を含めた手続きを迅速に行えるスクイーズアウトの手法です。

株式併合

スクイーズアウトの手法として最も多く利用されているのが株式併合の手法です。株式併合は、株主総会の特別決議で承認を得るための議決権(3分の2以上)を保有していれば手続きを進められます。

株式併合とは、複数の株式を1株に併合することを言います。保有株式が500株以下の少数株主をスクイーズアウトしたい場合、1000株を1株とする株式併合を行えば、少数株主の株式は全て端株となります。端株には議決権は認められません。会社が少数株主から端株を買い取ればスクイーズアウトが完了します。

株式交換

株式交換は、親会社と子会社の株式を交換する際に利用されるケースが多い制度です。スクイーズアウトの手法として株式交換を利用する場合、少数株主には対価として株式ではなく現金を支払います。

A社がB社を子会社化する場合、B社の株式を全てA社に譲渡させ、対価として現金と交付すると、B社の少数株主をスクイーズアウトして完全子会社にできます。

従来、株式交換の対価として現金を支払う手法は、税制面の問題で利用される機会はほとんどありませんでした。しかし、法改正で税制面の問題がクリアされたことで、現在では実務でも利用される手法となっています。

全部取得条項付種類株式

従来は、スクイーズアウトの手法として全部取得条項付種類株式も利用されてきました。しかし、全部取得条項付種類株式を利用する際には、株主総会の特別決議が2度必要となるなど手続きの負担が大きいため、現在はほとんど利用されることはありません。

株式公開買付

ここまで紹介した手法では、最低でも株主総会の特別決議で承認を得るための3分の2以上の株式の保有が必要でした。

保有株式数が3分の2に満たない場合にスクイーズアウトの手法として利用されるのが、株式公開買付(TOB)です。

株式公開買付は、株式を売却してくれる株主を募るものです。株式公開買付を実行しても、少数株主を完全に排除することはできません。そのため、株式公開買付で3分の2以上の議決権を確保したあとで、他の手法を利用してスクイーズアウトを完結させることになります。

株式の併合によるスクイーズアウトの手続きの流れ

ここでは、実務で利用される機会の多い、株式併合を利用したスクイーズアウトの手続きの流れを解説します。

①取締役会の決議

取締役会の決議で、株式併合を行うこと、株主総会を招集することの決議を行います。

②株主総会の招集通知、書面等の事前備置き

所定の手続きに従い株主総会の招集通知を行います。

また、株式併合を行う会社は、株式併合を行う旨の事前書面を本店に備え置かなければなりません。備え置き期間は、株主総会の2週間前または株主に通知した日のいずれか早い日から、株式併合の効力発生後6か月を経過するまでです。

③株主総会の特別決議

株式併合については、株主総会での特別決議(議決権の過半数を保有する株主が出席し、そのうち議決権の3分の2以上の賛成)が必要です。

④株主への通知、書面などの事後開示

会社は、株主併合の効力発生日の20日前(端株が生じない場合は2週間前)までに株主に対し、決定内容の通知を行います。

また、株式併合の内容を示した書面を本店に備え置かなければなりません。

⑤効力発生

効力発生日に株式併合の効力が発生します。端株の買取りを済ませば手続きは完了です。

スクイーズアウトが実施された事例

カネボウ事例

カネボウ事例は、スクイーズアウトの価格決定をめぐる裁判として著名な事例です。東京地裁は、DCF法による鑑定評価で価格を決定しましたが、株価算定の方法として、DCF法は絶対的なものではありません。

価格決定をめぐる裁判は、カネボウ事例以外にもレックス事例やJCOM事例などがあり、完全な算定法が確立されているとは言えません。

佐渡汽船事例

佐渡汽船事例は、株式併合を利用したスクイーズアウトの事例です。佐渡汽船がみちのくホールディングスの子会社となるに際し、27万株を1株とする株式併合が行われました。

佐渡汽船が債務超過の状態にあったため、株価の算定価格が問題となることもなく手続きが完了しました。

LINE・Zホールディングス事例

ソフトバンクとネイバーがLINEの全株式取得を目指して行ったTOBに失敗し、株式併合によるスクイーズアウトを実行した事案です。

TOBだけで少数株主を排除する目的を達成できなかった場合、他の手段を併用してスクイーズアウトを完結させることがあります。

スクイーズアウトの相談先

スクイーズアウトを実行するには、専門的な知識が不可欠です。安易にスクイーズアウトを実行すると、予算不足や少数株主の反発を招く可能性も高いでしょう。

スクイーズアウトの相談先候補と一般的な相談内容は、次のとおりです。

○弁護士・・・手続きの実施、書類作成

○会計士・・・株価算定

○税理士・・・相続対策、連結納税の利用

○M&Aアドバイザー・・・スクイーズアウトをM&Aの事前準備として行う場合

これらの相談先は、複数組み合わせて利用するケースも多いです。税理士やM&Aアドバイザーに相談する内容は、スクイーズアウトだけの問題にとどまらずその他の手続き全体を考慮した判断が必要となるため、早めの相談をおすすめします。

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まとめ

スクイーズアウトは、支配株主の意向により少数株主を排除できる強力な手法です。そのため、手続きは厳格で簡単に実施できるものではありません。支配株主にとって有利な価格で手続きを進めようとしても、少数株主の反対により余計な時間や費用がかかる結果となってしまうでしょう。

スクイーズアウトを検討する際は、専門家のアドバイスのもとで綿密な計画を練ることをおすすめします。

▼以下の記事では、M&Aのスキーム・手法について、株式譲渡、事業譲渡、会社分割のケース別に解説しています。

伏江亜矢
監修者:伏江亜矢
株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長
金融機関で法人営業を担当後、2012年にコーポレート・アドバイザーズ入社。M&Aの事前準備から、候補先のソーシング、企業価値評価、条件交渉、クロージングまで一気通貫した支援を行っている。 ヘルスケア・ライフサイエンス(医療・介護・メーカー・卸商社)、IT・ソフトウエア(Webサービス、システム開発)、人材サービス(派遣、警備、ビルメンテナンス)などのM&A支援経験が豊富。 M&A成功のために必要な情報をわかりやすく解説するコラムサイト「よくわかるM&A」の運営責任者。
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