日本クレアス税理士法人| コーポレート・アドバイザーズ(20年・2000件以上のM&A支援実績)の実務経験者による監修「よくわかるM&A」

廃業かM&Aか?メリット・デメリット、手続き、税金を比較解説
監修者:伏江 亜矢(株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長)

後継者不在等の理由から会社経営を続けることが難しくなった場合、「廃業」と「M&A」では、どちらが最も良い選択肢なのでしょうか。本記事では、廃業とM&Aそれぞれを行う際のメリット・デメリット、税金の種類、必要となる手続きについて比較しながら解説します。

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廃業とは

近年、休業や廃業を選ぶ企業の数は毎年4万件以上にもなります。ここでは、そもそも廃業とは何かについて解説したうえで、廃業が急増している理由やなぜ廃業を行うのかなどを解説します。

廃業の意味

廃業とは、経営者や個人事業主が事業を存続しない、つまり事業をやめることを言います。廃業するには、会社の解散手続と財産の清算手続が必要です。

廃業が急増している理由

近年、廃業を選択する企業の数は増加しており、全国企業「休廃業・解散」動向調査によると、2021年の休廃業・解散企業は、5万4709件でした。

参考:帝国データバンク「全国企業「休廃業・解散」動向調査(2021年)

廃業を選択する企業が多い理由としては、次の2点が挙げられます。

◆社長の高齢化と後継者不在

◆コロナ禍による業績悪化

以下では、それぞれの理由を詳しく解説します。

社長の高齢化と後継者不在

2021年のデータでは、休廃業・解散を行った企業の代表者年齢の平均は、70.3歳と過去最高齢の数字でした。

さらに、休廃業・解散を行った企業のうち56.2%は当期純利益で黒字を記録しており、その中には社長が高齢化し、後継者が不在であるために事業を継続できなかった企業が多く存在することが推察されます。

後継者不在は日本企業の深刻な問題です。黒字の企業でも後継者が不在であるために存続できない状況が続くと、日本経済に与えるダメージは計り知れません。中小企業庁の試算によると、このままの状況が続けば、2025年までに約22兆円ものGDP損失リスクがあるとのことです。

参考:中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題

コロナ禍による業績悪化

帝国データバンクの調べでは、2020年の休廃業・解散企業は過去最多の数となりました。その背景には、コロナ禍による業績悪化があると考えられます。

2021年には休廃業・解散企業の数は減少していますが、コロナ禍は継続しており、今後もコロナ禍の影響によって廃業を選択する企業が無くなることはないでしょう。

廃業を行う理由

廃業のパターンは、大きく分けると、業績悪化などを理由に廃業に追い込まれるパターンと、後継者不足などを理由に自主的に廃業するパターンの2つがあります。

近年、多い廃業の理由は、後継者不足などを理由に自主的に廃業するというものです。2021年の休廃業・解散企業のうち、56.2%は当期純利益が黒字であり、資産が負債を上回る状態の企業が62%を占めています。

これらの企業は、事業としては問題なく成り立っており、後継者さえいれば事業を継続することが十分に可能であるにもかかわらず、休廃業や解散を選択しているのです。

後継者を探す方法には、親族や従業員以外にもM&Aの方法もあります。少子高齢化が続く日本では、親族内で後継者不在となる状況がますます増加することが想定されるため、後継者不在を解消し、廃業を避けるための方法としてM&Aの活用が注目されています。

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廃業のメリットとデメリット

廃業にはデメリットだけでなくメリットもあります。ここでは、廃業のメリットとデメリットをそれぞれ解説します。

廃業するメリット

廃業のメリットは、関係者への迷惑を最小限に抑えられることです。特に、資産超過で解散する場合には、清算手続きなどにより、従業員の退職金や取引先の売掛金などを全て支払ったうえで廃業することになるため、経済的な迷惑を最小限に抑えて事業をやめることができます。

経営者としては、廃業により会社経営から離れることができ、精神的負担から解放されることもメリットです。

廃業するデメリット

廃業のデメリットとして大きいものは、従業員が職を失うことです。長年会社のために尽力してきた従業員の生活基盤を奪ってしまうのは苦渋の決断といえます。

それ以外でも、長年取引を続けてきた得意先がある場合には、最悪の場合には連鎖廃業を招く可能性もあります。

中小企業の廃業回避につながるM&Aとは?

中小企業が廃業を回避するにはM&Aを選択する方法もあります。特に、経営状況に問題のない優良企業の場合には、M&A市場で買い手がつく可能性も十分です。

廃業による大きなデメリットは、従業員が職を失うことにあります。M&Aは、従業員ごと別会社に引き継ぐことができるため、廃業を避けながら従業員の雇用を確保することもできます。

後継者不足を理由に廃業を検討する場合には、M&Aも選択肢に入れるのがおすすめです。

▼以下の記事では、M&Aについてより詳細に解説しています。

廃業せずにM&Aを行うメリット

ここでは、廃業をせずにM&Aを行うメリットを具体的解説していきます。

従業員の雇用維持・取引継続ができる

廃業をせずにM&Aを行う際代のメリットは、従業員の雇用維持と取引先との取引継続ができることです。M&Aを実行できれば、廃業によるデメリットを解消できます。

従業員の引き継ぎができるか否かは、M&Aの条件次第ですが、買い手企業としても会社の運営を継続するうえで従業員は欠かせない存在となるため、従業員は引き継がれることが多いです。

株式や事業の売却益を得られる

廃業の場合には、清算手続きでの残余財産が残るだけですが、M&Aを選択すると、株式や事業の売却益を得られます。

M&Aの売却額では、土地や建物などの処分可能な財産だけでなく、従業員や取引先、ノウハウなども評価されるため、廃業によって資産を処分するよりも高額となることがほとんどです。

廃業よりも簡単な手続きで行える可能性がある

廃業の場合には、株主総会の特別決議や清算手続きなど煩雑な手続きが必要でした。

M&Aを進める際には、M&Aアドバイザーや仲介会社を利用できるため、専門家のサポートにより、廃業よりも負担なくM&Aの実行まで進められる可能性があります。

借入の個人保証から解放される

企業の債務について個人保証をしていた場合には、廃業後も個人保証は残り続けます。

しかし、M&Aを選択すると、個人保証を含めて引き継ぐか、売却代金によって債務を完済するかによって個人保証からも解放されます。

廃業せずにM&Aを行うデメリット

M&Aにはメリットだけでなくデメリットも存在します。ここでは、M&Aのデメリットについて詳しく解説していきます。

買い手探しに労力がかかる

今まで自身が経営してきた会社を第三者に譲り渡す、ということになりますので、会社の事業内容や社風をよく理解し、従業員や取引先が納得する相手先を探すには労力がかかります。また、希望条件が相場よりも高いものになると、買い手を探すには相当の労力がかかります。そのため、通常は、M&Aの専門家に相談し、相手を探すことになります。

▼こちらの記事では、M&A専門家(M&Aアドバイザー)について解説しています。

専門家の起用に手数料がかかる

M&Aの専門家を利用した場合の手数料は、中小企業であっても数百万円を超えるケースがあります。ただし、最近では「事業承継・引き継ぎ補助金」という中小企業庁のM&A支援機関に登録のある専門家への報酬の最大2/3が補填できる補助金を利用することができます。

▼こちらの記事では、M&Aにかかる手数料の相場について記載しています。

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廃業とM&Aでかかる税金の比較

廃業とM&Aのいずれを選択しても、税金は発生します。選択肢を選ぶ参考として、それぞれにかかる税金について解説します。

廃業でかかる税金

廃業の手続きで解散登記を済ませると、期首から解散登記日までの確定申告が必要となり、法人税、消費税、地方税などが発生します。

さらに、清算完了時にも、当該年度の確定申告が必要で、同じく法人税、消費税、地方税などが発生します。

M&Aでかかる税金

M&Aでは、経営者が所有する株式を買い手に譲渡することになります。そのため、売り手となった経営者に株式の譲渡所得に対する税金が発生します。株式の譲渡所得、課税金額の計算式は次のとおりです。


・譲渡所得の金額=売買価格(譲渡価格)-必要経費(取得費、委託手数料など)

・課税金額=譲渡所得の金額×20.315%
 

課税金額の税率20.315%の内訳は、消費税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%です。

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廃業とM&Aの手続きの比較

ここでは、廃業とM&Aの手続きの流れを比較します。

廃業の手続きの流れ

廃業の手続きの流れは先に説明しましたが、次のとおりです。


 ①従業員や取引先に営業終了日を通知し、営業を終了させる

 ②株主総会の特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成)により、解散の承認を得る

 ③株主総会の普通決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の2分の1以上の賛成)により、清算人を選任する

 ④解散登記と清算人の選任登記をする

 ⑤清算手続を行う(債権取立て、財産調査、確定申告、債務弁済など)

 ⑥清算決了登記を行う
 

M&Aの手続きの流れ

M&Aの手続きの流れは次のとおりです。

 
 ①M&Aアドバイザリーへの相談、問合せ

 ②秘密保持契約、アドバイザリー契約の締結
 
 ③買い手とのマッチング

 ④基本合意書の締結

 ⑤デューデリジェンスの実施

 ⑥最終契約書の締結

 ⑦M&Aの実行
  

M&Aの事例

M&A成功事例として、後継者不在を理由とするM&A・事業承継の体験談インタビューをご紹介いたします。

会社の成長・発展をかなえる/理想の相手との事業承継・M&A

会社の成長・発展をかなえる、理想の相手との事業承継・M&A

株式会社アリオス 創業者 林 茂德 様

株式会社アリオスは、1969年の創業以来、半世紀以上にわたって、首都圏にて清掃・設備点検・工事等の実績を重ねてきました。この度、2021年9月21日に、香川県をはじめ西日本を中心に清掃・設備点検等、建物メンテナンス事業をおこなう株式会社あなぶきクリーンサービス(あはぶきハウジングループ)に、事業継続・発展を目的として、株式が譲渡されました。

本インタビューでは、株式会社アリオス創業者の林 茂德様に、事業承継やM&Aの決断の背景などについてお話を伺いました。

>>『会社の成長・発展をかなえる/理想の相手との事業承継・M&A』の続きはこちら

まとめ

日本では、毎年4万件を超える企業が休廃業・解散の状態に追い込まれています。その多くは、後継者不足を原因として、休廃業・解散を選択しています。

経営状況に問題がない企業が廃業を選択するのは、日本経済にとっても大きな損失です。M&Aの選択肢を持つことで、廃業を避けられる可能性があります。後継者がいないからといって会社の存続をあきらめる前にM&A・会社売却も選択肢としてぜひご検討頂ければと思います。

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伏江亜矢
監修者:伏江亜矢
株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長
金融機関で法人営業を担当後、2012年にコーポレート・アドバイザーズ入社。M&Aの事前準備から、候補先のソーシング、企業価値評価、条件交渉、クロージングまで一気通貫した支援を行っている。 ヘルスケア・ライフサイエンス(医療・介護・メーカー・卸商社)、IT・ソフトウエア(Webサービス、システム開発)、人材サービス(派遣、警備、ビルメンテナンス)などのM&A支援経験が豊富。 M&A成功のために必要な情報をわかりやすく解説するコラムサイト「よくわかるM&A」の運営責任者。
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相続・事業承継
企業法務・法律顧問
IFRS(国際財務報告基準)・決算開示(ディスクローズ)支援
内部統制(J-SOX)・内部監査
海外現地法人サポート
非上場株式売却コンサルティング(非上場株式サポートセンター

■社員数
417名(グループ全体 / 2023年10月現在)
税理士(試験合格者含む)56名
公認会計士(試験合格者含む)15名
特定社会保険労務士2名
社会保険労務士(試験合格者含む)12名
弁護士 2名
相続診断士41名
中小企業診断士1名
行政書士4名

■関与先
法人 3,240社(うち上場企業85社)
社会福祉法人 133件
クリニック・医療法人・介護福祉等 593件
個人 4,015名
合計 7,981件

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