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訪問看護のM&A動向・価格相場・売却事例12選と業界動向 | 2023年最新
監修者:伏江 亜矢(株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長)
介護(介護施設、訪問看護、訪問介護、デイサービス)・福祉・医療業界など担当

訪問介護ステーションのM&A・売却動向としては、介護事業者を買い手とする事例が増えています。訪問看護ステーションの売却では、事業承継問題の解決や介護大手のグループ入りによる経営基盤の強化などのメリットがあります。本記事では、M&A動向・価格相場・事例・メリット・手続きの流れを解説します。

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訪問看護の業界動向とM&Aの現状

訪問看護の定義

訪問看護は、「疾病又は負傷により居宅において継続して療養を受ける状態にある者に対し、その者の居宅において看護師等が行う療養上の世話又は必要な診療の補助をいう」(厚生労働省の公表資料より)とされます。介護保険の給付は医療保険の給付より優先され、要介護被保険者などについては、末期の悪性腫瘍や難病患者、急性増悪などによる主治医の指示があった場合などに限り、訪問看護が行われます。訪問介護業とは、看護師らが家庭などを訪問し、医師の指示書のもとに看護ケアなどの支援サービスを提供することを指します。

訪問看護ステーションの現状・市場規模

日本の訪問看護業界は、高齢化や在宅療養の普及を背景として、約20年間にわたり市場が拡大し続けています。厚生労働省の公表資料によりますと、2019年の日本における訪問看護の利用者数は、介護保険適用者が約55万人、医療保険適用者(40歳未満や要介護者・要支援者以外)が約29万人となっています。

全国訪問看護事業協会の調査では、国内にある稼働中の訪問看護ステーション数は、2010年の5,731件から、2020年4月時点で11,931件へと、この10年間で2倍以上に増えています。

また、訪問看護の請求事業所数は、2010年の7750事業所から、2019年には1万1795事業所へと4000事業所以上増加しました(厚生労働省の公表資料より)。その一方で、同資料によりますと、2019年度の訪問看護の収支差率は4.2%となっており、前年度比で0.4%悪化しており、経営状況が苦しくなっていることが分かります。さらに、日本において看護師全体が不足する中で、訪問看護師の不足も深刻化しています。

厚生労働省が公表した訪問看護事業所の看護職員需給見通し試算によりますと、一人当たりの看護師の超過勤務を月10時間以内、有給休暇を年5日取得するとした場合、2025年までに訪問看護師が12万人必要としています。さらにワークライフバランスを考え、有給休暇を20日以上とした場合は、13万人の訪問看護師が必要と推計されています。

出典:厚生労働省

訪問看護ステーションの主なプレーヤー

介護保険の居宅サービスを提供しようとする場合、事業者は都道府県知事の指定を受ける必要があります。この指定を受けるための申請は、サービスの種類ごと及び事業所ごとに行なうこととされています。

要件としては、

A.申請者は法人であること

B.事業所の従業員の知識・技能・人員が、厚生労働省令で定める基準・員数を満たしていること

C.設備及び運営に関する基準にしたがって適正な運営を行うこと

が求められます。

訪問看護事業者としては、大企業や医療法人、看護師が設立した法人などがあり、上場企業が訪問看護事業を手がけている場合もあります。

大手としては、訪問看護サービスなどを手がけるセントケア・ホールディングや、指定訪問看護ステーションなどを運営するソフィアメディ(東京都品川区)などがあります。異業種ではセコム、帝人などの大企業も参入しています。

訪問看護専業としては唯一、「訪問看護ステーションリカバリー」を展開するRecovery Internationalが、2022年2月に東京証券取引所グロース市場に上場しました。

訪問看護ステーションのM&Aが増えている理由・メリット

訪問看護ステーションのM&Aについては、介護全般を行う事業者による中小の訪問介護ステーションの譲受けが多く見受けられます。この理由としては、以下の通りと考えられます。

訪問看護ステーションの売却理由・メリット

訪問看護ステーションは、参入障壁が低いため事業者数は増加していますが、十分な人数の看護師や保健師など確保することが難しく、1事業所当たりの従業員数も少ない傾向がみられます。こういった事業から、訪問看護ステーションを運営する事業者は、ブランド力があり採用などでも有利な大手介護事業者の傘下入りを行うケースが増えています。また、他の業種と違わず、事業承継問題(後継者不在)により譲渡するケースも多く見受けられます。

訪問看護ステーションの買収理由・メリット

一方、買い手側の譲受け理由としては、看護師等の職員の確保や、要介護度が高い状態の高齢者が増加していることにより、訪問看護ステーションの拡充をしたい、もしくは新たに事業の柱として追加したい、といったケースが多く見受けられます。

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訪問看護ステーションのM&A・売却事例12選

ケア21、合同会社macaronから訪問介護事業を譲り受け【介護全般×訪問介護】

譲渡・譲受企業の概要

【譲渡側】macaron:兵庫県神戸市に本社を置く訪問介護事業の会社です。本譲受対象となる事業所は、兵庫県神戸市北区に位置しています。

【譲受側】ケア21:訪問介護、居宅介護支援、グループホーム、介護付有料老人ホーム等を首都圏・近畿圏・名古屋・仙台・広島・福岡で展開しています。譲受対象となる事業が展開されている兵庫県神戸市北区は、訪問介護事業の展開エリア且つ、事業所の密度が薄く、重点強化エリアとなっていました。

M&Aの目的

【譲受側】ケア21:営業規模、人員面での基盤の強化。サービスの充実化。

M&Aの手法 [1]

実行時期:2022 年 10 月 1 日

手法:事業譲渡

譲渡金額:不明

ケア21、エイ・ティから訪問介護事業を譲り受け【介護全般×訪問介護】

譲渡・譲受企業の概要

【譲渡側】エイ・ティ:埼玉県三郷市・八潮市・吉川市で訪問介護事業を展開しています。本譲受対象となる事業所は、埼玉県三郷市に位置しています。

【譲受側】ケア21:訪問介護、居宅介護支援、グループホーム、介護付有料老人ホーム等を首都圏・近畿圏・名古屋・仙台・広島・福岡で展開しています。譲受対象となる事業が展開されている埼玉県三郷市は、訪問介護事業の未展開エリア。

M&Aの目的

【譲受側】ケア21:埼玉県三郷市は、ケア21が訪問介護事業を展開する東京都葛飾区・千葉県松戸市に隣接していて、飛び地となることないため、事業展開エリアの北進が図れる。営業規模、人員面での基盤の強化。サービスの充実化。

M&Aの手法 [2]

実行時期:2022 年 10 月 1 日

手法:事業譲渡

譲渡金額:不明

ケア21、特定非営利活動法人福祉カフェテリアから事業譲受【介護全般×訪問介護】

譲渡・譲受企業の概要

【譲渡側】福祉カフェテリア:東京都認定の特定非営利活動法人で、事務所の所在地は東京都日野市に位置しています。外出支援事業や給食サービス事業、ホームヘルプ事業、デイサービス事業、居宅介護支援事業を行っています。

【譲受側】ケア21:訪問介護、居宅介護支援、グループホーム、介護付有料老人ホーム等を首都圏・近畿圏・名古屋・仙台・広島・福岡で展開しています。譲受対象となる事業が展開されている日野市は、訪問介護事業、居宅介護支援事業の未展開エリア。

M&Aの目的

【譲受側】ケア21:日野市は、ケア21が八王子市、国立市、府中市の間に位置し、近隣の事業所との連携が可能なエリアとなるため、近隣事業所間の連携が図れ、培ってきた実績とノウハウを活かし、サービスをより充実させることが可能。また、営業、人財確保の面でも一体的な運用が図れるなどのシナジー効果を期待。

M&Aの手法 [3]

実行時期:2022 年 10 月 1 日

手法:事業譲渡

譲渡金額:不明

ケア21、ひまわり医療介護サービスから事業譲受 【介護全般×訪問介護】

譲渡・譲受企業の概要

【譲渡側】ひまわり医療介護サービス:本社は東京都荒川区にあります。本譲受対象となる事業所は、訪問介護事業所 1 拠点(東京都荒川区)居宅介護支援事業、居宅介護支援事業所 1 拠点(東京都荒川区)です。

【譲受側】ケア21:訪問介護、居宅介護支援、グループホーム、介護付有料老人ホーム等を首都圏・近畿圏・名古屋・仙台・広島・福岡で展開しています。譲受対象となる事業が展開されているエリアは、訪問介護事業、居宅介護支援事業の未展開エリア。

M&Aの目的

【譲受側】ケア21:譲受対象の事業が展開されているエリアは、近隣の事業所との連携が可能なエリアであり、事業所間の連携により、培ってきた実績とノウハウを活かし、サービスをより充実させることが可能。また、営業、人財確保の面でも一体的な運用が図れるなどのシナジー効果を期待。

M&Aの手法 [4]

実行時期:2022 年 4 月 1 日

手法:事業譲渡

譲渡金額:不明

カンケイ舎、合の家から事業譲受【介護全般×老人ホーム・訪問介護】

譲渡・譲受企業の概要

【譲渡側】合の家:合の家は、住宅型有料老人ホーム「フルール・ガーデン市原」、「フルール・ガーデン相模原」およびそれに付随する訪問介護、介護予防訪問、居宅介護支援、通所介護、障碍者自立支援、等の事業を運営している。

【譲受側】カンケイ舎:「安心な未来の介護をつくる」ことを目指し、東京都、千葉県を中心に中重度介護者向け在宅サービス事業を展開しています。

M&Aの目的

【譲受側】カンケイ舎:中重度者向け施設運営ノウハウの取得・横展開、送客体制の強化、カンケイ舎の既存事業で取得したノウハウ等をフルール・ガーデンで展開するなど、相互作用による収益拡大を目指しています。

M&Aの手法 [5]

契約締結日:2022年10月14日

手法:事業譲渡

譲渡金額:282百万円

フレアス、スカイハートを買収【訪問看護・訪問介護×訪問介護】

譲渡・譲受企業の概要

【譲渡側】スカイハート:千葉県千葉市を中心に居宅介護支援事業および訪問介護事業を展開しています。

【譲受側】フレアス:訪問看護及び訪問介護事業等を展開しています。事業所数は全国374拠点です。内、マッサージサービスは362拠点、訪問看護サービスは8拠点、訪問介護サービスは2拠点、看護小規模多機能型居宅介護は2拠点あります。

M&Aの目的

【譲受側】フレアス:居宅介護支援事業と訪問介護事業に参入し、在宅マッサージとの複合サービスを提供することで、社会福祉サービスを総合的に提供していきます。

M&Aの手法 [6]

実行時期:2021年4月1日

手法:株式譲渡

譲渡金額:5.5百万円

ツクイ、アサヒサンクリーンより訪問介護事業を譲り受け【介護全般×訪問介護】

譲渡・譲受企業の概要

【譲渡側】アサヒサンクリーン:訪問入浴介護、訪問介護、居宅介護支援、地域包括支援センター通所介護(デイサービス)、認知症対応型通所介護短期入所生活介護(ショートステイ)、グループホーム小規模多機能型居宅介護、特定施設入居者生活介護(介護付きホーム)ケアハウス、介護予防事業、放課後等デイサービス福祉用具貸与(レンタル)、特定福祉用具販売、住宅改修を展開。

【譲受側】ツクイ:デイサービス事業、住まい事業、在宅事業、人材事業(株式会社ツクイスタッフ)、リース事業(株式会社ツクイキャピタル)を中心に全国 695 事業所を展開。

M&Aの目的

【譲受側】ツクイ:在宅事業の拡大や、地域戦略の推進への寄与な等。

M&Aの手法 [7]

実行時期:2020年4月1日

手法:事業譲渡

譲渡金額:不明

ツクイ、PUPを買収【介護全般×訪問介護】

譲渡・譲受企業の概要

【譲渡側】PUP:東京都墨田区、江東区、江戸川区、台東区を中心に訪問看護・リハビリステーション・居宅介護支援・福祉用具を提供する事業所を3ヵ所展開しています。また、終末期医療や難易度の高い医療行為を 24 時間体制で提供しており、看護師・リハビリスタッフが多く在籍しています。

【譲受側】ツクイ:デイサービス事業、住まい事業、在宅事業、人材事業(株式会社ツクイスタッフ)、リース事業(株式会社ツクイキャピタル)を中心に全国 695 事業所を展開。

M&Aの目的

【譲受側】ツクイ:今回の株式取得により、PUPとツクイ双方の事業所で連携を図り、サービスの拡充や訪問看護事業の強化につなげるとしています。

M&Aの手法 [8]

実行時期:2022年8月31日

手法:株式譲渡

譲渡金額:不明

ソラスト、プラスを買収【介護全般×グループホーム・訪問介護】

譲渡・譲受企業の概要

【譲渡側】プラス:愛知県を中心にグループホーム及び小規模多機能型居宅介護を16事業所で運営しています。

【譲受側】ソラスト:「自立支援と地域トータルケア」を理念に2030年には売上高1,500億円、介護サービスを提供するエリアを現在の約3倍にあたる300エリアに拡大し、全てのエリアで訪問介護、通所介護、居宅介護支援、グループホーム、有料老人ホーム他の施設を各1事業所以上運営することを長期経営ビジョンに掲げる。

M&Aの目的

【譲受側】ソラスト:愛知県を中心としたエリア内のサービス拡充及び「地域トータルケア」の実現への貢献

M&Aの手法 [9]

実行時期:2021年11月12日

手法:株式譲渡

譲渡金額:2,280百万円

ソラスト、日本エルダリーケアサービスを買収【介護全般×訪問介護・デイサービス】

譲渡・譲受企業の概要

【譲渡側】日本エルダリ―ケアサービス:首都圏を中心に、訪問介護、居宅介護支援、通所介護を 122事業所で運営。特に訪問介護サービスにおいては、78 事業所を運営する有力事業者。

【譲受側】ソラスト:「自立支援と地域トータルケア」を理念に掲げ、2030 年には売上高 1,500 億円の事業規模とすることを経営ビジョンとしています。グループ内の事業所数は481事業所。

M&Aの目的

【譲受側】ソラスト:本件株式譲渡により、グループ全事業所数は 481 事業所から 600 事業所を超え、またサービスポートフォリオの向上も期待できます。そのため地域トータルケア、経営ビジョン実現に大きく前進するものと判断しました。

M&Aの手法 [10]

実行時期:2020年10月1日

手法:株式譲渡

譲渡金額:2,375百万円

ニチイホールディングス、ティーアンドジーを買収 【介護全般×老人ホーム・訪問介護】

譲渡・譲受企業の概要

【譲渡側】ティーアンドジー:北摂の大阪府池田市・豊中市・箕面市を拠点に、特別養護老人ホーム・介護付有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・デイサービス・グループホーム・ショートステイ等を運営しています。

【譲受側】ニチイ:在宅から居住系介護に至る豊富なラインナップを取り揃えたトータル介護を全国各地で展開しており、お客様や地域の様々な介護ニーズに合わせたサービス提供に取り組んでいます。

M&Aの目的

【譲受側】ニチイ:近畿エリアにおいてポプラグループとニチイグループが持つネットワーク及び介護ノウハウの融合を図ることで、お客様お一人おひとりに合わせた、より最適なサービスの提供に繋げることを目指します。

M&Aの手法 [11]

実行時期:2022年9月1日

手法:株式譲渡

譲渡金額:不明

大東建託とさくらケア・うめケアのM&A【建設・不動産×訪問介護・訪問看護】

訪問介護・訪問看護会社の創業経営者が語る!『最良のタイミングで会社を引き継ぐM&A』

株式会社さくらケア、株式会社うめケア 前代表取締役 荒井 信雄 様

譲渡企業の概要

東京都世田谷区を中心に22事業所をかまえる訪問介護・訪問看護会社。財務内容はきわめて健全であり、毎期高い利益率を維持し続けている優良企業。IPOも視野に入れていた創業オーナーであったが、55歳という年齢で全株式を売却するというアーリーリタイアを決断しました。

下記本インタビューでは、前オーナー社長である荒井様に対し、M&Aの検討から決断に至るまでの経緯についてお伺いしています。

>>訪問介護・訪問看護会社の創業経営者が語る!『最良のタイミングで会社を引き継ぐM&A』の続きをみる


[1] ケア21<2373>、兵庫県神戸市北区の合同会社macaronから訪問介護事業を譲り受け

[2] ケア21<2373>、埼玉県三郷市のエイ・ティから訪問介護事業を譲り受け

[3] ケア21<2373>、特定非営利活動法人福祉カフェテリアから訪問介護・居宅介護支援事業を譲り受け

[4] ケア21<2373>、ひまわり医療介護サービスから訪問介護事業・居宅介護支援事業を譲り受け

[5] インターネットインフィニティー<6545>傘下のカンケイ舎、合の家から「フルール・ガーデン市原」・「フルール・ガーデン相模原」に関する事業を譲り受け

[6] フレアス<7062>、居宅介護支援事業および訪問介護事業を手がけるスカイハートを買収

[7] ツクイ<2398>、介護業のアサヒサンクリーンより訪問介護事業を譲り受け

[8] ツクイHD傘下のツクイ、東京都墨田区、江東区、江戸川区、台東区を中心に訪問看護・リハビリステーション等展開のPUPを買収

[9] ソラスト、介護事業のプラスを買収

[10] ソラスト、介護サービス事業の日本エルダリーケアサービスを買収

[11] ニチイHD、介護事業のポプラコーポレーションやポプラ訪問看護ステーションを傘下にもつティーアンドジーを買収

訪問看護ステーションの売却価格の相場

訪問看護ステーションの売却を検討する際に、「どのくらいの価格で売却できるのか?」は気になる部分かと思います。売却価格の目安を知るためには、相場の理解が役に立ちます。この章では、訪問看護ステーションの売却価格に関する相場の簡易的な算出方法、売却価格の決め方をわかりやすく解説します。

簡易的な売却相場の算出方法

年倍法(年買法)による算出方法

経営者のための事業承継マニュアル(中小企業庁)によると、中小企業のM&Aでは、時価純資産にのれん代(年間利益の数年分)を足し合わせた金額を売却価格の相場として考えることが一般的です。なお、この算出方法は「年倍法(年買法)」と呼ばれており、訪問看護ステーションの運営会社の売却価格相場を簡易的に求める際にも役立ちます。足し合わせるのれん代は、2〜5年分とすることが一般的です。

 ◆売却価格の相場 = 時価純資産 + 営業利益 × 2〜5年分

たとえば時価純資産が7,000万円、各年の営業利益が3,000万円の訪問看護ステーションの運営会社について、3年分の営業利益をのれん代とした場合の売却価格相場は以下のとおり算出できます。

 ◆売却価格の相場 = 7,000万円+ 3,000万円 × 3 = 1億6,000万円

最終的な売却価格の決め方

最終的な売却価格は、市場の状況や事業の成長性などを基準に企業価値や株主価値を算出し、その結果をもとに買い手企業との交渉によって決定します。

企業価値・株主価値とは

企業価値とは、投資家に対する企業全体の価値を表し、「株主価値+負債価値(債権者価値)」で計算できます。一方で株主価値は、企業価値のうち株主に帰属する価値であり、株主に帰属するキャッシュフローの現在価値を合計したものとなります。

企業価値・株主価値の評価方法

企業価値や株主価値を評価するM&Aのプロセスは「バリュエーション」と呼ばれます。バリュエーションの方法は、「インカムアプローチ」、「コストアプローチ」、「マーケットアプローチ」の3種類に大別され、それぞれの特徴やメリット・デメリットは以下のとおり異なります。

 インカムアプローチコストアプローチマーケットアプローチ
特徴将来の収益性を基準とする過去の蓄積である貸借対照表の純資産を基準とする市場取引の視点である過去のM&A事例や類似業種などを基準とする
主な手法○DCF法
○配当還元法
○残余利益法
○時価純資産法
○簿価純資産法
○類似会社比較法(マルチプル法)
○類似取引比較法
○市場株価法
メリット○将来的な収益性を反映できる
○各社に固有の性質を反映できる
○客観性の高い評価を行える
○評価を比較的容易に行える
○客観性の高い評価を行える
○市場の状況を反映できる
デメリット○主観や恣意によって評価が影響される○将来的な収益性を反映できない
○市場の取引状況を反映できない
○短期的な市場の変動に左右される
○各社に固有の性質を反映しにくい

上記3種類の評価方法を把握し、自社や買い手企業、市場の状況などを踏まえた上で使い分けることが重要となります。また、複数の手法を併用し、より合理性のある評価を行うのも効果的です。

株価評価結果にはこだわりすぎないことが大事!

前述したとおり、最終的な売却価格は買い手企業との交渉によって決定されます。実際のM&Aでは、複数の買い手から提示を受けた結果が現時点における自社の評価となります。そのため、バリュエーションの結果にこだわりすぎないことが大事になります。

買い手企業が自社の有する経営資源(資格を保有するスタッフの存在や技術力など)を高く評価してくれれば、バリュエーションの結果よりも高い金額で売却できる可能性があります。一方で、自社の希望金額よりも買い手企業によるバリュエーションの評価額が低かったり、バリュエーションの結果よりも買い手企業の希望買収額が低かったりする場合もあります。

たとえば、「自社の希望金額と買い手企業による評価額の間にギャップがあるものの、できるだけ早く会社を売却したい」という場合には、別のM&Aスキームを検討したり、希望金額に近い提案を行う買い手候補を探したりする、などの選択肢が考えられます。

また、会社の売却までに時間的な余裕がある場合は、数年かけて企業価値を高める選択肢もとれます。企業価値を高める場合には、プレデューデリジェンス(プレDD)を実施するのがおすすめです。

プレDDとは、M&Aや買い手企業による本格的なデューデリジェンスに先立って、売り手企業の財務状況や収益性、成長性などを分析するプロセスです。プレDDの実施により、M&Aに関係するリスク項目や企業価値を高める上で必要となる要素などを洗い出すことが可能です。

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訪問看護ステーションを高く売却するための交渉術

訪問看護ステーションを高い金額で売却するにはコツがあります。コツとなる交渉術を知っているかどうかで、高値で売却できる可能性は変わってきます。この章では、事前準備と交渉時に分けて、高い金額で売却するための交渉術をお伝えいたします。

訪問看護ステーションの売却前にあらかじめ準備した方が良いこととして、以下の4点があります。

経営状況をよく把握する

会社・事業の売却金額は、営業利益や市場シェアなどの経営状況によって変わってきます。したがって、まずは経営状況を入念に把握することが重要となります。経営状況に問題点があれば、事前にできる限り解決しておくことが最善策となります。

たとえば営業利益が赤字の場合は、有利子負債の削減や不要な固定費の削減などにより、黒字化を図ることが効果的です。赤字を黒字に変えるだけでも、高値で売却できる可能性は大きく高まります。

買い手が魅力に感じる強みを把握する

買い手がどのような強みに魅力を感じるかを把握しておくことも重要です。たとえば介護会社・事業が買い手企業の場合、人材不足の課題を解決する目的でM&Aを行うケースが多いです。したがって、安定した入居率や優秀なスタッフなどを高く評価する可能性が高いと考えられます。

買い手が魅力に感じる強み(経営資源)を持っている会社・事業は、そうではない会社と比べて高値で売却できる可能性が高まります。そのため、買い手が魅力に感じる強みを把握し、それを自社が持っているかどうかを確認することが重要です。

保有していない場合は、強みを確保・強化するのが最善策となります。具体的に買い手企業が強みと感じる要素はケースバイケースですが、一般的には以下の要素が強みとなります。

〇希少性(立地)

〇優良な財務状況

〇看護師等のスタッフの状況(保有資格・定着率など)

○汎用的な技術・ノウハウ

スタッフの教育体制を整えておく

訪問介護ステーションのM&Aにおいて、同業の買い手企業は、前述のとおり看護師などの人材確保を目的としてM&Aを行うケースが多いと言われています。そのため、現時点における看護師の量・質だけでなく、「優秀な看護師を定着・育成できる環境があるかどうか」という中長期的な要素も評価対象となります。

したがって、看護師の教育体制を整備することも、会社を高く売却できる可能性を高める手段として効果を発揮します。たとえば、社員が最新技術を学ぶ際にかかる費用の一部を補填したり、定期的に勉強会を社内外で実施したりする施策が考えられます。

また、資格や経験豊富な看護師を育成するだけではなく、育成した看護師が社外に流出する事態を防ぐ施策も求められます。具体的には、待遇の改善や福利厚生の充実、成果が評価されるような制度の整備などが考えられます。

社会保険の加入状況をチェックしておく

すべての法人および5人以上の常時従業員を雇用している一部業種を除く個人事業所は、社会保険(健康保険、厚生年金)への加入が法律で義務付けられています。[適用事業所と被保険者(日本年金機構)][適用事業所とは(全国健康保険協会)]正当な理由がなく未加入の場合、懲役刑や罰金刑、追徴金などが科されるおそれがあります。

ペナルティがあることはもちろんですが、買い手企業から見ても社会保険の未加入は印象が悪くなるおそれがあります。なぜなら、買い手企業から見て社会保険の未加入は「簿外債務(帳簿に載っていない債務)」となるためです。

したがって、会社を高く売却したいならば、社会保険の加入状況を確認し、未加入などの問題があれば迅速に解決しておく必要があります。

交渉時のポイント

買い手企業との交渉時には、以下3つの交渉術が役に立ちます。

複数の買い手候補と交渉する

売り手企業がまったく同じでも、買い手候補によってバリュエーションの結果は異なることが一般的です。

たとえば資格や経験豊富なスタッフを多く有する会社が売り手の場合、人材獲得を目的とする買い手候補である方が、そうでない買い手候補と比べて高く評価する可能性が高いです。また、会社の買収に対する緊急度が高い買い手候補であるほど、ある程度は高い金額でも売却できる可能性があります。

したがって、複数の買い手候補と交渉することが、高く会社を売却するコツとなります。できる限りたくさんの買い手候補と交渉するほど、より高い評価額を提示してくれる相手と出会える可能性が高まるからです。

また、複数の買い手候補と交渉することで、オークションのように買い手候補間で条件面の競争を促せる場合もあります。

買い手企業が魅力に思う自社の強みを積極的にアピールする

会社を高く売却するには、買い手企業との交渉で自社の価値を認めてもらう必要があります。買い手企業から魅力がある自社の強みを積極的にアピールし、価値を認識してもらうことが重要です。

自社の強みをアピールするには、前述のとおり買い手企業から見て魅力的な強みを整理することが重要です。また、整理した強みを買い手企業に伝わるようにアピールする必要があります。以下4つのポイントを押さえることで、自社の強みを最大限買い手企業に訴求できます。

○買い手企業のニーズを満たすことを明示する

○売上などの客観的なデータを使う

○他社よりも客観的に優れていること、差別化できていることを訴求する

○図やイラストなどの視覚的な訴求手段を用いる

経営課題をしっかり伝える

強みだけでなく、現時点の経営課題をしっかり伝えることも重要です。経営課題を正直に伝えることで、買い手企業から良い印象を持ってもらえる可能性があるためです。また、買収後に何をすべきかが明確となるため、PMI(経営統合)も計画的に行えます。

事前準備段階から、介護業界の現状に詳しい専門家のサポートを受けることも重要

会社を高い価格で売却するには、事前準備の段階から介護サービス業界の現状に詳しいM&A専門家によるサポートを受けることも重要です。

会社を高く売却するには、バリュエーションの際にスタッフや技術、取引先などの価値を正しく評価する必要があります。技術をはじめとした経営資源の価値を見極めるには、介護サービスに関して詳細な知見を有していることが求められます。また、シナジーを最大限生み出せる買い手企業を見つけることも、取引価額を高く売却する上では重要な要素であり、そのためにも介護サービスの知見が重要となります。

つまり、介護サービスに詳しいM&A専門家のサポートを受けることで、自社の強みを実態に即して高く評価してもらえたり、シナジー効果を見込める買い手候補とマッチングしてもらえたりするため、結果的に高い価格で売却できる可能性が高まるのです。

また、M&Aのプロセスでは、契約書の作成やバリュエーション、デューデリジェンスなど、ファイナンスや法務などの専門知識を要する実務がたくさんあるため、専門家の協力を得ずに進めることは困難です。

そのため、会社を高い価格で売る目的だけでなく、M&Aを円滑に進める目的でも、専門家によるサポートは非常に重要になると考えられます。

売却までの手続きの流れ

事前検討

自社の強み・弱みや業界動向、市場の分析などを踏まえ、売却後の事業展開も考慮しながら、売却の目的、条件などを検討します。

M&A専門会社との契約

売り手自らが買い手を探し、直接交渉を行って売却することも可能ではありますが、買い手を探す範囲が非常に限定されてしまいますし、多方面の知識が要求されるM&A取引を単独で進めるのは容易ではありません。

通例は、M&A専門会社(M&A仲介会社など)と契約を結び、企業価値評価や事前検討事項のブラッシュアップ、買い手とのマッチング、条件交渉、手続き実行などに関する支援を受けながら売却を進めていきます。

交渉相手の選定

事前検討の内容をもとに、相性のよい交渉相手(売却の目的や条件に合致し、大きなシナジーを見込める相手)を探します、

有望な候補が見つかったら、事業内容や売却の条件などをまとめた概要書を相手方に提示して交渉を打診します。

売却を検討していることが外部に漏れると、運営中の事業に支障が生じたり、売却が難しくなったりする恐れがあります。そのため、この段階では院名などは伏せて、どの企業であるか特定できないような情報だけを概要書にまとめ、限られた候補企業にだけ提示します。

初期交渉・トップ面談

相手企業が交渉に興味を示したら、秘密保持契約を取り交わした上で、互いに社名を含むより詳細な情報を交換します。

これをもとに相手企業に対する分析や今後の交渉に関する検討を行ったのちに、経営者同士の面談(トップ面談)を行い、互いの意思を確認します。

基本合意締結

初期交渉・トップ面談で話がまとまれば、基本合意を締結します。

基本合意には、現時点での暫定的な売却条件や、今後の交渉に関する義務(一定期間の独占交渉権など)を定めます。

デューデリジェンス・関係者との交渉

買い手側は売り手企業の実情に関する詳細な調査(デューデリジェンス、買収監査)を行い、M&Aの支障となるような問題点・リスク(不適切な療養費請求、雇用・サービスを巡るトラブル、帳簿に載らない債務など)を抽出し、対応を検討します。

売り手側は調査に必要な範囲で内部資料などを提供し、デューデリジェンスに協力します。

賃貸店舗で営業している事業を譲渡する場合、賃借権を買い手に移転することになりますが、それには家主の承諾が必要になるのが通例です。できるだけ早い時期に家主と交渉し、承諾を得ておく必要があります。

リース契約など、その他の契約でも同様の交渉が必要になることがあります。また、従業員の雇用を買い手企業が引き継ぐためには、従業員当人の同意が必要です。

最終条件交渉~譲渡契約締結

デューデリジェンスの結果をもとに最終的な条件交渉を行い、交渉がまとまれば最終契約締結となります。

売却実行(クロージング)

株式譲渡の場合、対価の受け渡しと株券交付または株主名簿書換えにより売却が成立します。ただし、場合によっては事前手続きに手間がかかることがあります(譲渡制限株式の譲渡承認のための株主総会、少数株主からの譲渡委任状取り付け、未発行株券の発行など)。

事業譲渡の場合、事業に関わる資産や契約などを1つ1つ買い手に移転する手続きが必要です。移転に際して登記や契約相手方の合意が必要なものもあり、売却が完了するまでには相応の時間がかかります。

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まとめ

訪問看護業界は大きく、介護サービス全般を運営する大手が一事業として手がける場合や、元看護師などの医療関係者が設立した専業などに分かれます。近年では、地域展開する訪問介護関連事業者を大手が譲り受けたり、ITサービスなどの周辺領域を取り込んだりする動きが出てきています。

訪問看護ステーションの売却を検討中の経営者様は、本記事で解説した内容をご参考にしていただけますと幸いです。

▼以下の記事では、訪問介護の業界動向とM&A事例について解説しています。

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伏江亜矢
監修者:伏江亜矢
株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長
金融機関で法人営業を担当後、2012年にコーポレート・アドバイザーズ入社。M&Aの事前準備から、候補先のソーシング、企業価値評価、条件交渉、クロージングまで一気通貫した支援を行っている。 ヘルスケア・ライフサイエンス(医療・介護・メーカー・卸商社)、IT・ソフトウエア(Webサービス、システム開発)、人材サービス(派遣、警備、ビルメンテナンス)などのM&A支援経験が豊富。 M&A成功のために必要な情報をわかりやすく解説するコラムサイト「よくわかるM&A」の運営責任者。
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海外現地法人サポート
非上場株式売却コンサルティング(非上場株式サポートセンター

■社員数
417名(グループ全体 / 2023年10月現在)
税理士(試験合格者含む)56名
公認会計士(試験合格者含む)15名
特定社会保険労務士2名
社会保険労務士(試験合格者含む)12名
弁護士 2名
相続診断士41名
中小企業診断士1名
行政書士4名

■関与先
法人 3,240社(うち上場企業85社)
社会福祉法人 133件
クリニック・医療法人・介護福祉等 593件
個人 4,015名
合計 7,981件

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