監修者:伏江 亜矢(株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長) |
近年ドラッグストアの売却・M&Aは増えています。ドラッグストアによる異業種との連携も注目されています。本記事では、ドラッグストア売却における価格相場・交渉術・スキーム・手続き・M&A事例について、実務に精通した専門家が解説します。
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ドラッグストア業界の現状とM&A・売却動向
ドラッグストア業の定義
ドラッグストアについて、日本チェーンドラッグストア協会は「健康と美容に関する提案と訴求を主とし、医薬品と化粧品を中心に、日用家庭用品、文房具、フィルム等の日用雑貨、食品を取り扱う店」と定義しています。(引用元:https://jacds.gr.jp/outline-teigi/)法律や国による明確な規定はありません。
ドラッグストアは健康を求めたり美しくなるための商品であり、日々の生活に欠かすことのできないさまざまな商品を取り扱う業態と言えるでしょう。
ドラッグストア業界の現状・市場規模
経済産業省の「商業動態統計」によりますと、ドラッグストア業界の2020年の商品販売額は、前年比6.6%増の7兆2,841億円でした。ドラッグストア店舗数は、同調査を始めた2014年以降、毎年増えています。店舗数も増加傾向が続いており、2020年は前年比3.5%増の1万7000店となりました。
ドラッグストア業界の売り上げが拡大している背景として、高齢化や消費者の健康志向、政府によるセルフメディケーション(自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること)の推進などがあります。ただし、ドラッグストア販売額の商品別内訳を見ると、2020年は食品が同12.4%増の2兆1,834億円と全体の約3割を占め、同業界の売り上げ増に寄与していることが分かります。
一方で、調剤医薬品とOTC医薬品は全体の約20%にとどまり、ヘルスケア用品や健康食品、化粧品・小物、トイレタリー、家庭用品・日用品・ペット用品が約50%を占めます。
家庭用消耗品は安売りの目玉商品としていわゆる”客寄せ”の役割を果たし、粗利が高い医薬品や化粧品を併せて販売することで利益をあげるスタイルをとっています。
ドラッグストア業界をめぐっては、新型コロナウイルス感染症の流行によって、2020年からマスクや消毒液などの感染症対策商品が売上増に寄与しています。ただ、外出の自粛やリモートワークの普及を背景として、口紅やチークなどのメークアップ化粧品の販売が減少し、収益の低下が懸念されています。
今後は販売商品のバランスをとりながら、利益率をいかに確保していくが業界共通の課題となりそうです。
ドラッグストア業界の主なプレーヤーとM&A動向
業界構造
ドラッグストア業界の大手企業として、ウエルシアホールディングス、ツルハホールディングス、コスモス薬品、マツモトキヨシホールディングス、スギホールディングス の5社が上位を占めています。これら上位5社のシェア(市場占有率)は、5割程度と見られます。さらにサンドラックも売り上げを増やしており、上位に食い込んでいます。
業界上位に続く中堅では、ココカラファイン、富士薬品、カワチ薬品、クリエイトSDホールディングス、クスリのアオキホールディングスなどがあります。
ドラッグストアM&Aの歴史
ドラッグストア業界においては、かつて全国に地域密着型のチェーンが多数ありました。
1990年代に入ると地域密着型チェーンの間で、コスト競争力を高めるためにドラッグストアグループを形成する動きが起こり、共同購買などが進みました。
2000年代以降は、大手企業が地域の中小チェーンを傘下に収めるM&A(合併・買収)が活発化し、大手のシェアが高まっています。
業界再編で象徴的だったのが、2021年に発表された、マツモトキヨシホールディングスとココカラファインの経営統合です。ココカラファインを巡っては、スギホールディングスも経営統合を打診していたことから、ココカラファインの争奪戦として話題になりました。
関連記事:調剤薬局の売却相場・交渉術・手続き・M&A事例|2023年最新
ドラッグストア業界の最新M&A事例
【ドラッグストア×介護サービス】ウエルシアホールディングスが、東電パートナーズを買収
譲渡対象の概要
東電パートナーズ:東京電力グループの一員で、介護サービス事業を展開。訪問介護、居宅介護支援、デイサービス、福祉用具の貸与・販売などを提供。
譲受企業の概要
ウエルシアホールディングス:ドラッグストアチェーンを展開する企業。全国に多数の店舗を持ち、調剤薬局、介護サービス、在宅医療など多岐にわたる事業を展開。
M&Aの目的・背景
ウエルシアホールディングスは、東電パートナーズの買収を通じて介護サービス事業の強化を図ることを目指しています。ドラッグストア事業とのシナジー効果を発揮し、高齢化社会に対応したサービスの充実を図るとともに、地域密着型のサービス提供を強化します。これにより、介護と医療の連携を強化し、より包括的な健康支援サービスを提供することが可能となります。また、ウエルシアホールディングスは東電パートナーズの既存の顧客基盤とノウハウを活用し、事業拡大と収益性の向上を図ります。
M&Aの手法・価格
実行時期:2023年7月(予定)
手法:株式取得
譲渡金額:非開示 [3]
クスリのアオキ、サンエーの子会社化【ドラッグストア×スーパー】
クスリのアオキホールディングス傘下のクスリのアオキは、2023年1月5日にサンエー(新潟県糸魚川市、スーパーマーケット2店舗展開)クスリのアオキが買収した後は食品スーパーで新鮮食材を取りそろえ、ビューティー用品や日用品を取り扱い、さらには調剤薬局も設置する予定です。事業譲渡日は23年3月1日が予定されています。
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ウエルシアホールディングス、ふく薬品を子会社化 【ドラッグストア×ドラッグストア】
ウエルシアホールディングスは2022年12月、沖縄県内でドラッグストア事業を展開するふく薬品(那覇市)の株式の52.58%を取得し、子会社化する予定です。グループとしては、沖縄県への初進出となります。[2]
ウエルシアホールディングス、ドラッグストアチェーンのコクミンなど2社を子会社化 【ドラッグストア×ドラッグストア】
ウエルシアホールディングスは2022年6月、ドラッグストアチェーンのコクミン(大阪市)、フレンチ(同)を子会社化しました。全国への出店網拡大などを目的としています。[3]
サンドラッグ、美容関連商品企画・開発のI‐neからスキンブランド「skinvill」を取得【ドラッグストア×化粧品企画】
サンドラッグは2022年3月、子会社を通じて、化粧品や美容家電など美容関連商品の企画・開発を手がけるI-ne(大阪市)からスキンケアブランド「skinvill」を取得しました。スキンケア分野でオリジナルブランドを強化することが目的です。[4]
関連記事:化粧品OEM業界の動向・M&A事例・売却メリット2023
スギホールディングス傘下のSトレーディングが、医薬品卸売業業の渡辺貿易を買収【医薬品卸売×医薬品卸】
スギホールディングス傘下のSトレーディングは2022年6月、国内で調達・製造した医薬品の国内卸売、国外輸出を展開する渡辺貿易を取得しました。成長著しいアジア市場に対して、医薬品を含む多くのヘルスケア商品を提供していくことを目的としています。[5]
クスリのアオキホールディングス、食品スーパーのホーマス・キリンヤを吸収合併
クスリのアオキホールディングスは3月、食品スーパーのホーマス・キリンヤ(岩手県一関市)など2社を吸収合併しました。ドラッグストアにおける食品販売の強化が狙いです。[6]
成長戦略型M&Aの体験談から学ぶ『三代目の決断』
インタビュー:株式会社あみはま薬局 代表取締役社長 網濵 栄司 様
加速度的な少子高齢化に伴う「後継者問題」の解決策として、中小企業のM&Aは増加傾向にあります。他方、「成長戦略」の一環として、M&Aの有効活用により大手企業グループへの参画を果たし、経営基盤の強化、業績の向上、雇用のさらなる安定を実現させる中小企業も増えています。
本インタビューでは、親子三代にわたり事業を承継してきた老舗企業の三代目社長にご登壇いただき、M&Aを活用して大手企業グループに参画することを決断した理由、自身の経験を通じた「成長戦略型M&Aの成功ポイント」をお話ししていただきました。
>>「成長戦略型M&Aの体験談から学ぶ『三代目の決断』」の続きをみる
父親から引き継いだ調剤薬局 2代目社長の決断
インタビュー:有限会社たけなが薬局 前 代表取締役 武長正洋 様
先を見た経営判断として、M&Aによる大手調剤薬局グループへの参画を実施。
現在は、親会社である買手企業の役員に就任し、薬剤師としての新規事業の開発に従事されている武長様に、M&A決断から現在に至るまでのお話をお伺いしました。
>>「父親から引き継いだ調剤薬局 2代目社長の決断」続きをみる
[3] ウエルシアHD<3141>が、ドラッグストアチェーンのコクミンなど2社を子会社化
[4] サンドラッグ<9989>が、美容関連商品企画・開発のI‐neからスキンブランド「skinvill」を取得
[5] スギHD<7649>傘下のSトレーディングが、医薬品卸売業の渡辺貿易を買収
[6] クスリのアオキHD<3549>が、食品スーパーのホーマス・キリンヤを吸収合併
[7]東電パートナーズ株式会社の株式取得(完全子会社化)に関するお知らせ
ドラッグストア売却の価格相場
会社売却の価格は、売り手と買い手で条件交渉し、合意した金額となります。
そのため、財務や業績の状況のほか、M&A市場における需要と供給の状況も価格に影響を与えます。
条件交渉の準備としては、まずは一般的な価値評価手法で根拠を整えていくことになります。
会社売却における企業価値評価でよく使われる手法は以下の3つです。次の①~③の算出結果などを考慮して、売り手・買い手双方は、交渉のベースとなる価格を検討していきます。
評価手法 | 会社の評価額の算出方法 |
①時価純資産+営業権法 簡易な計算 | 会社の資産価値を時価評価して、そこから引当金不足などを修正した負債を差し引いた時価純資産額に営業権(=のれん)を加えて計算 |
②EBITDAマルチプル 交渉時に使える | 売り手の会社や事業と類似する上場企業(事業や成長率)の評価(株価)を使用して評価額を計算 |
③DCF法 緻密な計算 | 会社が将来生み出す価値をフリーキャッシュフローで推計し、資本コスト(WACC)で割り引いて現在価値に換算して企業価値を計算 |
売却希望価格はどうやって決める?
次の①~③の情報などを考慮して、売却希望価格を検討していきます。
① 複数の評価手法による算定結果
② 同業界での現在の需給バランス(買い手市場か、売り手市場か)
③ 売り手が必要な「手取金額」から逆算した金額
ここでは、会社売却・M&Aの実務でよく使われる評価手法を3つご紹介します。
時価純資産+営業権法(年倍法)
時価純資産+営業権法(年倍法)は、コストアプローチと呼ばれる、純資産をベースに計算する方法です。
経営者のための事業承継マニュアル(中小企業庁)によると、中小企業のM&Aでは、時価純資産にのれん代(年間利益の数年分)を足し合わせた金額を売却価格の相場として考えることが一般的です。なお、この算出方法は「年倍法(年買法)」と呼ばれており、会社の売却価格相場を簡易的に求める際にも役立ちます。足し合わせるのれん代は、2〜5年分とすることが一般的です。
◆売却価格の相場 = 時価純資産 + 実質利益 × 2〜5年分
たとえば時価純資産が2億円、各年の実質利益が4,000万円の会社について、4年分の実質利益をのれん代とした場合の売却価格相場は以下のとおり算出できます。
◆売却価格の相場 = 2億円+ 5,000万円 × 4 = 4億円
中小企業の会社売却・M&Aでは、分かりやすく簡便という理由から、特に売り手の価値算定においてこの手法が良く使われます。
一方、理論的にはサポートされにくく、特に会計監査を受けている買い手企業については、他の手法と併用すべきです。
EIBTDAマルチプル
EBITDAマルチプルは、マーケットアプローチと呼ばれる、類似会社の市場価格や指標を参考に計算する方法です。
「EBITDA」とは、「税引前利益」に「借入金の支払利息」、「減価償却費」を加えて計算します。
本業における「現金収入」のことで、簡便的に計算する場合には、「営業利益」に「減価償却費」を加算します。中小企業の場合、役員報酬額や事業と関連しない経費の調整額を加算することもあります。
EBITDAを用いることで評価対象の企業と類似する会社やその取引事例を比較し、相対的に複数の企業の収益力を参考に評価することができます。
「マルチプル」というのは、企業を評価する倍率のことを表しており、特定の指標と企業価値との関係性により評価する方法をマルチプル法と呼んでいます。EBITDAマルチプルでは、事業価値(EV)をEBITDAで割ったものEV/EBITDA倍率と呼ばれる指標を使用します。
EBITDAマルチプルの具体的な計算方法としては、対象会社の「予想EBITDA」に類似会社のEV/EBITDA倍率の平均値として算出した「市場倍率」をかけて事業価値(EV)を算出し、「非事業用資産(余剰資産)」を足し、借入金やリース債務などの「有利子負債」を差し引いて株主価値を算出します。
なお、「非流動性ディスカウント」とは、非上場会社の株式が上場会社の株式に比べて流動性が低く、非上場会社の株式を換金しようとするときには追加的なコストがかかるために、上場会社の株式に比べて低く評価されることをいいます。
算定された株主価値から20%~30%程度をディスカウントすることがあります。
しかし、最近の大手監査法人系のFAS会社などでは、過半数を取得すればいつでも売却できるため、非流動性ディスカウントを考慮しない実務が浸透しているようです。
日本の中堅・中小企業における会社売却・M&AのEV/EBITDA倍率は業種・地域・規模・成長性等より変わりますが、2~10倍程度が適正値といわれています。
EBITDAマルチプルは類似する上場企業を基準として、客観的に企業分析ができ、DCF法に比べて計算が簡単で、簡便的に評価できるのもメリットです。
一方、デメリットは、設備投資計画が織り込めないことと、会社によって細かい事情が異なり、EBITDAマルチプルだけでは正しく評価できない場合があることです。
また、業界や規模によっては、最適な類似会社がないケースもあります。
▼以下の記事では、EBITDAについて解説しています。
DCF法(キャッシュフロー割引法)
DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法は、インカムアプロ―チと呼ばれる利益やキャッシュフローから計算する方法です。
対象会社が生み出す将来のキャッシュフローを、適切な割引率(WACCと呼ばれる数%~十数%)で現在価値に還元して、「事業価値(EV)」を算定し、これに必要水準を上回る現預金や事業目的以外の有価証券などの「非事業用資産(いわゆる余剰資産)」を加算して「企業価値」を算出後、借入金やリース債務などの「有利子負債」を控除することで「株主価値」を計算する方法です。
DCF法は、対象会社を継続企業として捉える評価方法であり、将来の収支見通しや設備投資計画等を織り込めるため、会社売却・M&Aの価値評価において最も論理的な手法と言われています。
その反面、割引率やキャッシュフロー等の前提条件の設定の仕方によっては評価が大きく変動するというデメリットがあります。また、他の手法と比べて、計算の難易度が高い、というデメリットもあります。
ドラッグストアを高く売るための交渉術
買い手企業との交渉次第では、相場よりも高い価格で会社を売ることが可能です。この項では、相場より高く会社を売る可能性を高める交渉術を5つ紹介します。
業績や市場が成長しているタイミングで売る
買い手企業は、売り手企業の現時点における業績だけでなく、ビジネスの将来性も考慮した上で最終的な買収金額を決定します。したがって、業績や市場が成長しているタイミングであれば、買い手企業から将来性や収益力を高く評価され、高値で会社を売れる可能性が高まります。
関連記事:医療法人の売却相場・スキーム・税金・事例|2023年最新
強みと経営課題(弱み)を整理し、買い手にアピールする
売り手企業が有するノウハウや特許等の経営資源も買い手企業が重視する要素の1つです。買い手企業から需要がある経営資源を持っている売り手企業であれば、そうでない企業と比べて高く評価される可能性が高まります。
したがって、会社を高い金額で売りたいならば、買い手企業からの需要がある経営資源(強み)の確保や強化に努めることが効果的です。
また、経営課題(弱み)についても課題解決できる相手先であれば、M&A後、売上増加、コスト削減が可能となります。つまり、シナジー効果が見込めます。そのため、希望価格が相場よりも多少高くても 検討してもらえる可能性があるのです。よって、経営課題も候補先選定のヒントや、候補先へのアピールポイントになるのです。
ただし、持っている強みや経営課題を買い手が把握しなければ、会社の価値を高く評価してもらえない点には注意が必要です。客観的なデータや他社との比較結果などを用いて、自社が有している強みや経営課題を買い手にしっかりと説明していくことが重要です。
複数の買い手企業と交渉する
まったく同じ売り手企業でも、評価する買い手企業が異なれば、企業価値の評価結果は異なることが大半です。優れた金型加工技術を有するメーカーを例とした場合、その技術を自社に取り込みたい企業であれば高く評価する一方で、特にその技術を欲していない企業は低めに評価する可能性が高いです。
そのため、複数の買い手企業と交渉し、自社の経営資源を高く評価してくれる相手に会社を売ることが重要です。また、複数の買い手企業間でオークションのように競争を促すことで、高い価格で売却できる可能性もあります。
関連記事:歯科医院承継案件一覧・売却の流れ・相場・税金をわかりやすく解説 | 2023年最新
マイナスとなる要素を可能な限り減らす
簿外債務などのマイナス要素を抱えている売り手企業の場合、デューデリジェンスによって発覚することで、買収金額を減額されるおそれがあります。したがって、できる限り高い価格で会社を売りたい場合は、マイナスの要因を可能な限り減らしておくことが効果的です。
具体的なマイナスの要素としては、下記が挙げられます。
○不要な資産・事業
○簿外債務・偶発債務
○株主の分散
○現経営者への依存度の高さ
こうしたマイナス要素を減らすには、在庫処分や法的手続き、人材育成などの対策が必要となり、短期間では行えないことが一般的です。したがって、早い時期から対策に取り組むことが大切です。
M&Aの専門家によるサポートを活用する
会社を高く売るためには、自社の経営資源を高く評価してくれる買い手企業を見つけることや、強みを的確に企業価値に反映することが重要です。ただし、買い手探しや企業価値評価には、幅広いネットワークや会計等の専門知識が必要です。
したがって、会社を高い価格で売りたい場合は、M&Aの専門家によるサポートを活用することが効果的です。M&Aの専門家に買い手探しや企業価値評価を支援してもらうことで、高い価格で会社売却できる可能性が高まると考えられます。
また、書類作成などの手続きもサポートまたは代行してもらえるため、会社売却の手続きが忙しいことが原因で本業に支障をきたす事態を回避しやすくなります。
ドラッグストアの売却メリット(廃業との比較)
はじめに、会社を売ることで得られる7つのメリットを廃業の場合と比較しながら解説します。
資金の獲得
会社を売ると、株式や事業の売却益を得られます。詳しくは後述しますが、利益の数年分かそれ以上の現金を得られるため、獲得した資金を新規事業やリタイア後の生活、負債の返済などに充てることが可能です。
また、廃業した場合には設備の処分などに費用がかかります。会社を売ると廃業費用をかけずに済むため、より多くの現金を手元に残せます。
事業承継の実現
帝国データバンクの調査によると、2022年における後継者不在率は57.2%[8]であり、5年連続で不在率は低下しているものの、約半数の企業では後継者がいない状況に直面しています。
後継者が不在の状況だと、黒字の企業でも事業承継を行うことができません。事業承継を行えずに廃業すると、従業員の雇用や取引先との契約を維持できなくなる上に、技術や伝統のブランドなども残せません。
一方で会社を売ると、会社の支配権(≒経営権)を買い手企業に移すことができます。そのため、後継者がいない状況下にあっても、事業承継の問題を解決可能です。
個人保証からの解放
一般的な中小企業の場合、銀行等の金融機関から資金調達する際に、経営者が個人保証を負うことが多いと言われています。個人保証が設定されている場合、倒産などによって返済が困難となった場合に、経営者個人が自らの財産によって返済を負う義務が発生します。
したがって、個人保証は経営者の行動や生活を大きく制限する要因となり得るため、重いプレッシャーとなり得ます。
一方で株式譲渡によって会社を売ると、買い手企業に負債が移動するため、売り手経営者側の個人保証は解除されることが一般的です。
つまり、会社を売ることで負債を返済するプレッシャーから解放されるのです。
関連記事:酒蔵の廃業回避と売却事例2023|最新動向・メリット・手順・費用を解説
日々の業務からの解放
会社を経営していると、営業や書類作成といった日々の業務をこなす必要があります。業務が忙しく、新規事業の立ち上げやプライベートに費やす時間を創出できなくなる事態が考えられます。
会社や事業を売ると、会社経営や事業を手放すことになるため、上述した日々の業務から解放されます。そのため、新規事業の立ち上げや主力事業、プライベートなどに時間を使えるようになります。
事業の存続
前述した後継者不足に加えて、債務超過や赤字などが原因となって、事業の継続が困難となるケースは多々あります。
会社を売ると、事業に関する権利や契約などを買い手企業に移すことができます。そのため、債務超過や赤字などの問題を抱えている企業でも、事業を存続させて、従業員の雇用や取引先との契約などを維持できます。
シナジー効果の創出
M&Aで期待できるシナジー効果とは、複数の会社・事業が1つに統合されることで、各々が別々に存在していた時の合計よりも大きな成果を生み出す効果です。たとえばX社の売上が1億円、Y社の売上が1億円の場合、両社の統合後に2億円を超える売上を得られるようになることがシナジー効果です。
会社売却によって買い手企業の傘下に入ると、薬剤師などの資格者の確保・交流やクロスセルなどにより、売上・コスト面でシナジー効果を得られる可能性があります。自社のみで事業を行なっている時よりも大きな成果を生み出せる点は、売り手企業と買い手企業の双方にとって大きなメリットです。
会社・事業の業績改善
買い手企業の傘下に入ると、買い手企業が有しているブランドや知名度、資金力などを売り手企業側でも活用できるようになります。
こうした経営資源を有効活用することで、会社・事業の業績を改善できる可能性があります。たとえば買い手企業の知名度を使うことで、自社の採用力強化や売上の増加を期待できます。
赤字でも売却できる?
営業利益や当期純利益がマイナスの企業である場合、会社を売ることができるかどうか気になるかと思います。売却は不可能というイメージを持たれる傾向があるものの、売却できる可能性は十分にあります。
具体的には、以下の条件に当てはまる企業であれば、赤字でも売却できる可能性はあります。
○薬剤師などの資格者や優れたノウハウなど、利益を生み出す経営資源を有している
○将来を見据えて事業への投資を行っていることが原因で一時的に赤字となっている
○仕入れメリットの享受(仕入コスト削減)などのシナジー効果の創出により、業績改善が期待できる
また、事業譲渡や会社分割の手法を用いることで、利益が出ている事業や買い手企業が欲しい事業のみを売却できるため、上記に当てはまらない企業でもM&Aの相手が見つかる可能性はあると言えます。
[8] 全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)(帝国データバンク)
ドラッグストア売却に用いる手法・スキーム
会社売却をする際に押さえておきたい手法は、株式譲渡、事業譲渡、会社分割の3つです。
多くの非上場企業では、複数事業を持っていたり、生命保険等の節税(利益の繰り延べ)商品を活用していたりするケースが多く見受けられます。そのような会社では、株式譲渡や事業譲渡のほか、会社分割も含めた手法の検討が有効です。
>>M&Aスキーム・手法について、以下の記事で詳しく解説しています。
ドラッグストア売却の手続き・流れ
会社を売る手続きは、大きく「準備フェーズ」、「交渉フェーズ」、「契約・クロージングフェーズ」、「経営統合フェーズ」の4つの段階に分かれます。この章では、各フェーズで必要となる手続きを流れに沿って解説します。
準備フェーズ
目標設定および戦略策定
「会社を売りたい」と思い至っても、目標や戦略が明確でない場合、満足いく条件で最適な買い手企業とのM&Aを行えないおそれがあります。また、会社を売った後に期待していたメリットを得られない可能性も高まると考えられます。
したがって、まずは「なぜ会社を売りたいのか(目標設定)」と「目標を達成するためには、どのような戦略で買い手探しや交渉を進めるべきか(戦略策定)」を考えることが重要です。
M&Aアドバイザーの選定
目標と戦略を明確化したら、次にM&Aアドバイザーの選定を実施します。M&Aのプロセスは売り手企業が独力で行うことも可能です。ただし、買い手探しに必要な豊富なネットワークや、バリュエーションやデューデリジェンスなどに必要な会計等の専門知識が求められるため、独力で円滑に手続きをこなすことは困難です。
したがって、豊富なネットワークや公認会計士などの専門知識を有するM&Aの専門家に、実務のサポートを依頼することが最善策となります。
M&Aアドバイザーは、大きく「FA(ファイナンシャル・アドバイザリー)、「仲介会社」、「マッチングサービス」の3種類に分けられます。各専門家の具体的な違いは以下のとおりです。違いを踏まえて、自社にとって最適な専門家を選定することが重要です。
FA | 仲介会社 | マッチングサービス | |
契約関係 | 売り手企業または買い手企業のどちらかと契約 | 売り手企業と買い手企業の双方と契約 | 売り手企業、買い手企業もしくはFAや仲介会社が登録 |
最適なケース | 大手企業による大規模な会社売却や合併等 | 個人事業主や中小企業による会社売却 | 個人事業主や中小企業による会社売却、WebサイトのM&A等 |
メリット | 自社にとって有利な条件でのM&Aを実現しやすい | 中立的な立場でM&Aをサポートするため、両社にとって満足できる条件に落ち着く可能性が高い | 低コストかつスピーディーにM&Aを行える傾向がある |
買い手企業探し(マッチング)
M&A専門家のサポートを得た上で、会社を売る買い手企業を探します。一般的には、以下の流れでマッチングを実施します(順番が前後することもあります。)
1.ロングリスト(数十社程度の候補企業が記載された資料)の作成
2.ショートリスト(さらに数社程度まで候補企業を絞り込んだ資料)の作成
3.ショートリストをもとにした買い手候補の選定
4.ノンネームシート(身元が特定されない範囲で売り手企業の情報が記載されている資料)の作成
5.買い手企業に対するノンネームシートの開示、買い手企業による検討
6.買い手企業との秘密保持契約書の締結
7.企業概要書(具体的に売り手企業の情報が記載された資料)の開示、買い手企業による検討
企業概要書の検討により、買い手企業が売り手企業の買収を前向きに考えたいとの結論に至った場合、これ以降は本格的な交渉に移ります。
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会社売却における必要書類の把握
会社売却で必要となる書類をあらかじめ把握し、準備を進めておくと、会社売却のプロセスをより円滑に進めることができます。
売り手が準備する書類(アドバイザー及び買い手に対して提出する書類)は以下の通りです。
項目 | 必要書類(例) |
会社 | ○商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書) ○定款 ○株主名簿 ○定時株主総会議事録(直近3年分) |
組織・人事労務 | ○組織体制図 ○役職員名簿(役職・業務内容・年齢・社歴・保有資格など) ○就業規則・各種規定 ○雇用契約書サンプル ○賃金台帳(直近3年分) |
財務会計 | ○過去3期分の決算書一式(勘定科目明細、申告書別表含む) ○直近月の月次試算表 ○金銭消費貸借契約書、返済予定表 ○リース契約一覧・契約書 ○保険契約一覧・保険証書・直近の解約返戻金が分かる資料 |
事業 | ○取引先・商品別売上推移表(過去3期分) ○主要取引先との契約書 ○賃貸借契約書 ○許認可・特許などの証書 |
不動産 | ○全部事項証明書(土地・建物) ○固定資産税納税通知書 ○施設写真 ○各種図面 |
その他 | その他資料 |
また、株式譲渡の手法によって、一般的な中小企業(株式に譲渡制限が設けられている会社)を売却する例を想定すると、プロセスに応じて次のような書類を準備していくことになります。
プロセス | 手続き書類・作成書類(例) |
準備フェーズ | ○秘密保持契約書 ○アドバイザリー契約書 ○企業概要書 ○候補先リスト (ロングリスト・ショートリスト) |
交渉フェーズ | ○基本合意書 ○取締役議事録(または株主総会議事録) |
契約・クロージングフェーズ | ○株式譲渡契約書 ○株式譲渡承認請求書 ○株主名義書換請求書 ○株主名簿 ○取締役議事録(または株主総会議事録) |
交渉フェーズ
トップ面談および条件交渉
必須ではありませんが、条件交渉に先立ってトップ面談を行うことがあります。
トップ面談とは、売り手企業と買い手企業の経営者が実際に会って、M&A後のビジョンや経営の価値観などを話し合うプロセスです。トップ面談を行うことで、お互いの価値観を認識し、信頼関係の構築を期待できます。
トップ面談が完了したら、M&Aのスキーム検討やバリュエーション、買い手企業による意向表明書の提出などを経て、条件面の交渉を実施します。売却金額や従業員の処遇などの基本的な条件についてすり合わせを行います。
基本合意書の締結
条件のすり合わせをある程度行えたら、基本合意書を締結します。基本合意書は、交渉時点である程度合意できた内容をまとめることで、双方の間で認識にズレが生じる事態を防ぐ目的で締結します。また、今後のスケジュールを明確にする効果もあります。
基本合意書の各項目には、基本的には法的拘束力を持たせません。ただし、一部の項目(独占交渉権)に関しては法的拘束力を持たせることが一般的です。
デューデリジェンスの実施
基本合意書の記載に沿って、売り手企業に対するデューデリジェンスが実施されます。
デューデリジェンスとは、売り手企業が有する問題点や経営統合に必要な準備などを詳細に調査するプロセスです。具体的な調査内容には、財務や法務、税務、ビジネスなどがあり、各分野の専門家が調査を担うことが一般的です。
デューデリジェンスの結果を踏まえて、買い手企業は買収希望金額の修正や条件の変更、買収後の統合計画策定などを行います。
契約・クロージングフェーズ
最終条件交渉・最終契約書の締結
デューデリジェンスの結果を踏まえて、買い手企業との間で最終的な条件の交渉を行います。双方の間で合意できたら、最終契約書(株式譲渡契約書など)の締結を行います。
最終契約書には、主に下記の内容を記載します。下記はあくまで一例であり、実際の記載項目はケースバイケースです。
記載内容 | 詳細 |
基本的な契約項目(取引対象物) | 取引対象の株式数や価格、対価の支払い方法など |
表明保証 | 売り手企業の財務や事業等に関する内容が真実・正確であることを保証する項目 |
前提条件 | 契約締結からクロージングまでの期間において、一定条件を満たさない場合に買収しないことを定める項目 例)表明保証が正確である |
誓約事項 | 一定の事項を実施する・しないことを定める項目 |
補償条項 | 表明保証違反などがあった場合に、損害を補償することを定める項目 |
解除条件 | 表明補償違反などがあった場合に、契約を解除できる旨を定める項目 |
クロージングの実施
クロージングとは、株式の譲渡や対価の支払いなど、M&Aの取引自体を実行することです。
クロージングの手続きには、一般的に1ヶ月〜半年以上の期間がかかります。ただし、小規模な株式譲渡だと、契約当日中〜数日中にクロージングが完了する場合もあります。一方で、独占禁止法に関連する手続きや債権者保護手続きなどが必要となるM&Aでは、より長い期間を要する可能性があります。
経営統合フェーズ
クロージングの完了によって会社を売る手続きは完了となりますが、M&Aによるシナジー効果を創出するにはPMI(M&A後の統合プロセス)が必要となります。
PMIのプロセスは、一般的に以下の流れで進めます。
○短期プランの策定と実行:3〜6ヶ月以内に行う統合作業のプランを策定し、それを実行する
○中長期プランの実行:中長期的に対応すべき課題を洗い出し、それを実行する
>>PMI(M&A後の統合プロセス)については、以下の記事で詳しく解説しています。
まとめ
ドラッグストア市場は売上高、店舗数とも増加基調にあります。ただし、地域によっては店舗数が飽和状態になるなど、成長に陰りも見え始め、収益力の確保も課題です。業界の再編を巡っては、1990年代以降は競争が激しくなり、地方チェーンの合従連衡が進みました。さらに2000年代に入ると、大手チェーンによる地方チェーンのM&Aが活発化し、現在に至っています。
>>ドラッグストアの売却について、アドバイザーに無料相談する
▼以下の記事では、調剤薬局の業界動向を踏まえたM&Aの傾向と事例を解説しています。
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■社員数
417名(グループ全体 / 2023年10月現在)
税理士(試験合格者含む)56名
公認会計士(試験合格者含む)15名
特定社会保険労務士2名
社会保険労務士(試験合格者含む)12名
弁護士 2名
相続診断士41名
中小企業診断士1名
行政書士4名
■関与先
法人 3,240社(うち上場企業85社)
社会福祉法人 133件
クリニック・医療法人・介護福祉等 593件
個人 4,015名
合計 7,981件
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