
監修者:伏江 亜矢(株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長) |
コロナ禍で苦境にあった日本語学校ですが、オンライン授業化や留学生人数の回復に伴い、明るい兆しが見え始めています。そういったなか、新たな経営展開のため、他の教育産業との連携や売却などの選択をとる事例もでてきています。本記事では、日本語学校の業界・M&A動向、手法、事例などをわかりやすく説明します。
日本語学校の業界・M&A動向
日本語学校の経営主体
国内の日本語学校は、文化庁によりますと、全体の7割が個人や株式会社など民間の事業体により設立されたものとなっています。そのほかは、専修学校や各種学校といった学校法人・準学校法人が設立したり、財団法人が運営したりする日本語学校になります。
1988年12月、日本語教育施設として備えるべき要件を定めた「日本語教育施設の運営に関する基準」が当時の文部省(現文部科学省)の調査研究協力者会議により策定されました。さらに1990年2月には、一般財団法人日本語教育振興協会が設立されています。
▼以下記事では、学校法人・専門学校の売却について、詳しく解説しています。
日本語学校を取り巻く環境
文化庁「令和3年度日本語教育実態調査」によりますと、2021年11月1日現在、国内における日本語教育実施機関・施設等数は2,541、日本語教師らの数は39,241人、日本語学習者数は123,408人でした。前年度との比較で見てみると、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、日本語教育実施機関・施設等数は微増であったものの、日本語教師らの数と日本語学習者数は減少しました。
1990年度からの推移を見てみますと、日本語教育実施機関・施設等数は821から2,541へと3.1倍に、日本語教師らの数は8,329人から39,241人へと4.7倍に増えました。さらに日本語学習者数は6万601人から12万3,408人へと倍増しました。

日本国内に在留する外国人の数は、新型コロナウイルス感染拡大による入国制限などの影響によって、2021年末に前年末比で約12万人減り、約276万人となりました。ただし、「出入国管理及び難民認定法」が改正、施行された後の約108万人(1990年末)と比べると2.5倍を超え、2022年に入国制限の緩和されてからは、在留外国人数は増加すると見られます。
もともと政府は2008年に「留学生30万人計画」を策定し、新型コロナが流行する前の2019年に、この計画は達成されていました。日本語学校業界にとっては、政府による計画達成翌年にコロナ禍に遭遇したことは不運でした。2020年春に始まった外国からの入国制限により、約2年もの間、新規の留学生が入国できなかったからです。
岸田文雄首相は2022年8月、自ら議長を務める政府の「教育未来創造会議」において、コロナ後のグローバル社会を見据えた「人への投資」の具体化に向けて、現行の「留学生30万人計画」を抜本的に見直し、外国人留学生の受け入れだけでなく、日本人留学生の送り出しを加えた「新たな留学生受け入れ・送り出し計画」を策定することを永岡大臣に指示。日本語学校業界にとっては、留学生の回復速度にブレーキがかかる恐れも出てきました。
一方で文部科学省は2027年度をめどにコロナ前と同規模の「留学生30万人」の目標を掲げる素案を公表しており、日本への留学生は緩やかに回復していると予想されます。
日本語学校のM&A・売却の現況
日本語学校のM&Aのパターンとしては大きく、日本語教育事業を手がけている大手が成長戦略の一環として、オーナー系の日本語学校を譲り受けるパターンと、専門学校などを運営する企業が日本語学校を運営する企業を買収し、日本語教育事業に新規参入するパターンの二つに分かれます。オーナー系の日本語学校は、後継者の不在などにより売却を決断するケースもあります。
具体例としては、日本語アカデミー(福岡県糟屋郡)による京進グループへの事業譲渡などがあります。京進は、2010年から日本語教育事業を開始し、国内のほかミャンマーへも事業展開しています。日本語アカデミーは、福岡県で日本語学校「日本語アカデミー」を運営していました。京進グループは本件M&Aにより、全国の主要都市圏における日本語教育事業の基盤強化を図ることを目的としていたようです。
国内最大級の日本語学校の運営と専門学校、外国大学日本校、留学事業を展開するISIグローバルは、1977年に長野県上田市で開塾した学習塾「信濃学院」を祖業とし、1992年に日本語学校「長野外語アカデミー」を開校し日本語教育事業に参入、留学事業などの教育サービス事業を手広く展開しています。ISIグローバルも、M&Aによる事業拡大に積極的に取り組んでいます。
▼以下記事では、学習塾・予備校の売却について詳しく解説しています。
また、先に説明したように、コロナ禍での入国制限により、生徒数の激減に見舞われて教員の雇用維持などが難しくなり、経営難に陥った日本語学校も少なからずあります。こうした学校法人の救済合併的なM&Aや、事業譲渡などが呼び水となり、業界再編が起こる可能性もあります。もちろん、事業拡大や安定的な成長を目指した前向きな事業譲渡や、グループ再編なども進んでいます。
譲り受け企業にとっては、日本語学校を新設するには相応のコストや手間がかかるため、M&Aの活用によって歴史のある日本語学校を傘下に加えたいというニーズは根強いと言えるでしょう。事業譲渡や株式売却を検討中のオーナー様におかれては、自校が大手グループの傘下に入ることは、事業を継続しつつ教員や職員の雇用を維持・安定させるためにも、M&Aが有力な選択肢となるでしょう。
日本語学校の売却・M&Aのメリット
日本語学校の売却によるメリット
売却側のメリットは2つあります。1つはスケールメリットです。M&Aによりスケールメリットを活かした経営の効率化や、教育施設の拡充などができれば、志願者数が増えて収入が増える可能性もあります。また、経営面ばかりでなく、M&Aによって財務などの経営基盤が強化されることによって、生徒にとっても充実した教育環境で学ぶことができるというメリットも生まれてきます。
もう1つのメリットは、売却益の獲得です。学校経営が厳しくなれば売却対価や退職金などの支払いも厳しい状況になりますが、そのような状況になる前に売却することにより、それらを受け取ることが可能になります。
日本語学校の買収によるメリット
買収側のメリットは、3つあります。1つ目は売却側と同じくスケールメリットです。M&Aによりスケールメリットを活かした経営の効率化や、教育施設の拡充などができれば、志願者数が増えて収入が増える可能性もあります。また、経営効率化による財務基盤の強化や志願者数増加により、生徒によりより教育環境を提供できるようになります。
2つ目は、人材の確保です。日本語学校をあたらに立ち上げるのは容易ではありません。M&Aでは、買収する日本語学校で勤務する教員やスタッフをそのまま確保できる(スキームによって手続きは変わります)ことも買収によるメリットとなります。
3つ目は、不動産の獲得です。日本語学校の運営に際しては、広大な土地・建物・設備が必要なケースが多いですが、すでに学校を運営している法人を買収することで、不動産を獲得することができます。
日本語学校のM&A・売却事例8選
【ITサービス×ITサービス】ISIグローバルが株式会社東言グループを買収
譲渡対象の概要
株式会社東言グループは、ITソリューション提供、システム開発、ITコンサルティングを行う企業です。特に、情報システムの構築と運用、顧客のビジネスニーズに応じたIT支援を主な業務としています。
譲受企業の概要
ISIグローバル株式会社は、ITサービス及びソリューション提供を中心に、グローバルなビジネス展開を行っている企業です。主に、システムインテグレーション、コンサルティング、アウトソーシングサービスを提供し、多国籍のクライアントに対応しています。
M&Aの目的・背景
本件M&Aの目的は、ISIグローバル株式会社の国内市場におけるプレゼンスを強化し、より幅広い顧客基盤を獲得することです。株式会社東言グループの豊富なITソリューションと顧客ネットワークは、ISIグローバルのサービス拡充と市場シェアの拡大に寄与することが期待されています。また、東言グループの技術力と専門知識の活用により、ISIグローバルの競争力が一層強化される見込みです。
M&Aの手法・価格
実行時期:2024年(予定)
手法:資本業務提携
価格:非公開
スプリックス、ひのき会運営の和陽日本語学院を買収【学習塾×日本語学校】
譲渡企業の概要
ひのき会:学習塾経営指導、日本語学校経営など
譲受企業の概要
スプリックス:個別指導「森塾」の運営、「自立学習RED」 のフランチャイズ展開、 国際基礎学力検定「TOFAS」の運営などの海外関連事業を展開。
M&Aの実施目的
・双方のブランド力・運営ノウハウを融合し、日本語学校事業の強化を図る
・海外展開においては日本語教育コンテンツの開発を共同して行う。
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [1] | |
スキーム | 事業譲渡 |
契約締結時期 | 2022年7月 |
結果 | スプリックスは、株式会社ひのき会が運営する日本語学校・和陽日本語学院を譲受 |
▼以下の記事では、学習塾・予備校のM&A・売却動向について解説しています。
京進グループ、ダイナミック・ビジネス・カレッジを買収【学習塾×日本語学校】
譲渡企業の概要
ダイナミック・ビジネス・カレッジ:日本語学校を運営。主にアジア圏の留学生を対象に日本の大学進学サポートを行う。
譲受企業の概要
京進グループ:総合教育サービスを提供。国内9校海外1校の日本語学校を運営
M&Aの実施目的
・ノウハウとリソースを共有による日本語教育事業の新たなサービス展開
・その他語学関連事業とのシナジー効果
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [2] | |
スキーム | 株式譲渡 |
実施時期 | 2019年1月 |
結果 | 京進グループが、ダイナミック・ビジネス・カレッジの全株式を取得 |
ルネサンス・アカデミー、日本語センターを買収【オンライン学習サービス×日本語研修講座】
譲渡企業の概要
日本語センター:外国人向けの日本語研修、日本語教員を育成する日本語教員養成講座を運営。大手企業に努める外国人を対象とする。
譲受企業の概要
ルネサンス・アカデミー:オンライン教材を活用したマルチデバイス学習サービスを提供
M&Aの実施目的
・海外在住の者に対する教育サービス提供開始
・日本語研修や日本語教員養成講座のオンライン化による新たな顧客確保
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [3] | |
スキーム | 株式譲渡 |
実施時期 | 2017年5月 |
結果 | ルネサンス・アカデミーが、日本語センターの全株式を取得 |
京進、日本語アカデミーの事業譲受【学習塾×日本語学校】
譲渡企業の概要
日本語アカデミー:福岡県で運営する日本語学校「日本語アカデミー」を運営
譲受企業の概要
京進:総合教育サービスを提供。国内9校海外1校の日本語学校を運営
M&Aの実施目的
・留学生を対象にする日本語教育サービスの強化
・全国主要都市圏における基盤強化の一環
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [4] | |
スキーム | 事業譲渡 |
実施時期 | 2017年4月 |
結果 | 京進グループが日本語アカデミーの日本語教育事業である日本語学校「日本語アカデミー」を譲受 |
廣済堂HRベトナム、ゼンを子会社化【人材サービス×日本語学校】
譲渡企業の概要
ゼン:ベトナムでZEN日本語学校を運営。ベトナム人を対象にした日本語教育・留学コンサルティングと、日本人を対象にしたベトナム語教育を行う。
譲受企業の概要
廣済堂HRベトナム:ベトナムにて、総合人材サービスを提供
M&Aの実施目的
・日本語学校の運営を通じた、ベトナム国内における事業の拡大
・日本国内における廣済堂の人材サービス事業と連携し、ベトナムなど海外の優秀な人材を日本国内に、国内の人材を海外に紹介する、クロスボーダー人材の採用・育成へ取り組み
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [5] | |
スキーム | 株式譲渡 |
実施時期 | 2016年5月 |
結果 | 廣済堂HRベトナムがゼンの75%株式を取得 |
映像コンテンツの企画販売会社の株式譲渡【学習塾×教育用映像コンテンツ制作】

譲渡企業の概要
所在地 | 東京 |
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事業内容 | 映像コンテンツ |
譲渡理由 | 後継者不在により、外部への承継を希望 |
譲り受け企業の概要
所在地 | 千葉 |
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事業内容 | 学習塾経営 |
買収理由 | 映像コンテンツ制作ノウハウの獲得・本業とのシナジーによる企業価値向上 |
譲り受け企業は『人を創る』という企業理念の下、未来への可能性を最大限に広げる教育の実現を目指し、事業展開をしてきました。
創業以来一貫して学習塾経営に携わってきた譲受企業が時代の変化に合わせて作り上げつつある映像配信システムと譲渡企業が持つ各映像コンテンツにより、「教育」をはじめ各分野において付加価値のあるビジネス展開やその他多くのシナジーが期待できる点で両社が合意し、今回に至ります。
参考URL:
[1] スプリックス<7030>、ひのき会により設立された日本語学校の和陽日本語学院から事業を譲り受け
[2] 京進<4735>、日本語学校運営のダイナミック・ビジネス・カレッジを買収
[3] 【ルネサンス・アカデミー】株式会社日本語センターの全株式取得ならびに完全子会社化のお知らせ
[4] 【京進】株式会社日本語アカデミーの事業譲受のお知らせ
[6] 日本産業推進機構グループ関連ファンド出資先で日本語教育事業のISIグローバル、中国人向けの日本語学校運営の東言グループと資本業務提携
日本語学校の売却手法
冒頭の説明のとおり、国内の日本語学校は、全体の7割が個人や株式会社など民間の事業体により設立されたものとなっています。そのほかは、専修学校や各種学校といった学校法人・準学校法人が設立したり、財団法人が運営したりする日本語学校になります。ここでは、株式会社の場合と学校法人の場合の売却スキームについて説明します。
株式譲渡/株式会社の場合

中小企業におけるM&Aの多くは、株式譲渡のスキームで実行されています。
株式譲渡は、その名のとおり、売り手が所有する譲渡対象会社の株式を買い手企業に譲渡するスキームです。これにより、譲渡対象会社の株主が交代し、会社がそのまま買い手企業に譲渡されます。
株式の売買という形式をとるため、手続が簡便で、従業員や取引先もそのまま移転するため、事業に与える影響が少ないのが特徴です。
事業譲渡/株式会社・学校法人ともに可

売り手側の学校法人が持つ「一部の学校」や「施設」のみを譲渡する場合に用いるのが、事業譲渡という手法になります。
事業譲渡では、売却する学校や施設における設置者の名義を、買い手の名義に変える必要があり、財産、債権債務、契約関係、労働契約なども個別に移転させる必要があります。
▼以下の記事では、事業譲渡の価格相場・手続・税金・留意点・手続き・事例ついて、解説しています。
支配権の承継(役員の入替え)/学校法人の場合
学校法人には事業会社のように、株式に当たるものがないため、法人自体を譲渡する場合には、役員の入替えにより支配権を承継することになります。譲渡対価としては、退職する役員(理事長・理事・監事)の退職金として支給されます。退職金以外に何らかの名目で対価が支払われる場合には、課税上の問題を検討しておく必要があります。
会社(株式会社)も学校法人を買収できる?
会社(株式会社)も学校法人を買収(支配権の取得)することは可能です。ただし、理事の過半数を自己の支配下に置き、理事会を支配することが必要となります。なお、学校法人の理事は5人以上及び監事2人以上を置かなければならない、とされています(私立学校法35条)。よって、理事に人材を送り込めれば、会社でも学校を買収できるのです。
日本語学校の売却価格の相場は?
株式譲渡・事業譲渡の場合
株式譲渡や事業譲渡の価格は、売り手と買い手で条件交渉し、合意した金額となります。
そのため、財務や業績の状況のほか、M&A市場における需要と供給の状況も価格に影響を与えます。
条件交渉の準備としては、まずは一般的な価値評価手法で根拠を整えていくことになります。
株式譲渡や事業譲渡においてよく使われる評価手法は以下の3つです。
評価手法 | 会社の評価額の算出方法 |
①時価純資産+営業権法 簡易な計算 | 会社の資産価値を時価評価して、そこから引当金不足などを修正した負債を差し引いた時価純資産額に営業権(=のれん)を加えて計算 |
②EBITDAマルチプル 交渉時に使える | 売り手の会社や事業と類似する上場企業(事業や成長率)の評価(株価)を使用して評価額を計算 |
③DCF法 緻密な計算 | 会社が将来生み出す価値をフリーキャッシュフローで推計し、資本コスト(WACC)で割り引いて現在価値に換算して企業価値を計算 |
ここでは、会社売却・M&Aの実務でよく使われる評価手法を3つご紹介します。
時価純資産+営業権法(年倍法)

時価純資産+営業権法(年倍法)は、コストアプローチと呼ばれる、純資産をベースに計算する方法です。
経営者のための事業承継マニュアル(中小企業庁)によると、中小企業のM&Aでは、時価純資産にのれん代(年間利益の数年分)を足し合わせた金額を売却価格の相場として考えることが一般的です。なお、この算出方法は「年倍法(年買法)」と呼ばれており、会社の売却価格相場を簡易的に求める際にも役立ちます。足し合わせるのれん代は、2〜5年分とすることが一般的です。
◆売却価格の相場 = 時価純資産 + 実質利益 × 2〜5年分
たとえば時価純資産が2億円、各年の実質利益が4,000万円の会社について、4年分の実質利益をのれん代とした場合の売却価格相場は以下のとおり算出できます。
◆売却価格の相場 = 2億円+ 5,000万円 × 4 = 4億円
中小企業の会社売却・M&Aでは、分かりやすく簡便という理由から、特に売り手の価値算定においてこの手法が良く使われます。一方、理論的にはサポートされにくく、特に会計監査を受けている買い手企業については、他の手法と併用すべきです。
EIBTDAマルチプル

EBITDAマルチプルは、マーケットアプローチと呼ばれる、類似会社の市場価格や指標を参考に計算する方法です。
「EBITDA」とは、簡便的に計算する場合には、「営業利益」に「減価償却費」を加算します。中小企業の場合、役員報酬額や事業と関連しない経費の調整額を加算することもあります。
EBITDAマルチプルの具体的な計算方法としては、対象会社の「予想EBITDA」に類似会社のEV/EBITDA倍率の平均値として算出した「市場倍率」をかけて事業価値(EV)を算出し、「非事業用資産(余剰資産)」を足し、借入金やリース債務などの「有利子負債」を差し引いて株主価値を算出します。
日本の中堅・中小企業における会社売却・M&AのEV/EBITDA倍率は業種・地域・規模・成長性等より変わりますが、2~10倍程度が適正値といわれています。
EBITDAマルチプルは類似する上場企業を基準として、客観的に企業分析ができ、DCF法に比べて計算が簡単で、簡便的に評価できるのもメリットです。一方、デメリットは、設備投資計画が織り込めないことと、会社によって細かい事情が異なり、EBITDAマルチプルだけでは正しく評価できない場合があることです。また、業界や規模によっては、最適な類似会社がないケースもあります。
▼以下の記事では、EBITDAについて解説しています。
DCF法(キャッシュフロー割引法)

DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法は、インカムアプロ―チと呼ばれる利益やキャッシュフローから計算する方法です。
対象会社が生み出す将来のキャッシュフローを、適切な割引率(WACCと呼ばれる数%~十数%)で現在価値に還元して、「事業価値(EV)」を算定し、これに必要水準を上回る現預金や事業目的以外の有価証券などの「非事業用資産(いわゆる余剰資産)」を加算して「企業価値」を算出後、借入金やリース債務などの「有利子負債」を控除することで「株主価値」を計算する方法です。
DCF法は、対象会社を継続企業として捉える評価方法であり、将来の収支見通しや設備投資計画等を織り込めるため、会社売却・M&Aの価値評価において最も論理的な手法と言われています。
その反面、割引率やキャッシュフロー等の前提条件の設定の仕方によっては評価が大きく変動するというデメリットがあります。また、他の手法と比べて、計算の難易度が高い、というデメリットもあります。
▼以下の記事では、会社売却の価格の決め方について、解説しています。
日本語学校の売却手続きの流れ
日本語学校の売却手続きは、事業会社同士のM&Aと同様に、候補先探しを始める前に、事前に財産の状況や収支の状況を整理を行います。その後は、候補先探し、候補先との条件交渉を行います。但し、行政への届け出といった日本語学校特有の手続きが必要になることがあります。
日本語学校の売却に強い専門家に相談する
売り手側、買い手側のいずれも、M&Aの仲介会社を通じて相手を探すのが通常です。学校法人・専門学校のM&Aは事業会社のM&Aとは異なり特殊性があるため、同領域に精通したアドバイザーに相談することがおすすめです。
譲渡対象となる法人・事業の情報整理・希望条件の設定
M&A仲介会社との秘密保持契約書を締結後、アドバイザーにて、ノンネームシート(匿名情報で概要が分かる資料)と法人概要書(法人・財産の状況などがわかる詳細資料)を作成します。この際、セースルポイントや運営上の課題についてもアドバイザーとよく議論し記載していきます。ノンネームシートには、売り手の希望価格(支配権の承継の場合には、役員の退職金の合計額)を記載しておく必要がありますが、高すぎると良い買い手を逃がすことになるので、希望価格の設定はよく考え記載する必要があります。また価格以外の希望条件があれば、ノンネームシートや法人概要書に記載していきます。
候補先探し・条件交渉・トップ面談
M&A仲介会社の買い手データベースやプラットフォームを通じて、買い手候補を探しを行います。買い手候補が現れたあとは、買い手候補とM&A仲介会社にて秘密保持契約書を締結し、法人概要書をもとに詳細説明をおこないます。必要に応じてトップ面談(売り手と買い手の面談)を設定します。
基本合意契約締結・デューデリジェンス
売り手との基本的な条件が合致すれば、基本合意契約を締結します。
デューデリジェンス(買収監査)では、財務諸表、総勘定元帳、帳票類のチェック、契約書等の原本チェック、教職員名簿、学生の応募状況、卒業生の就職先、不動産目録などについての調査が行われます。
▼以下の記事では、財務デューデリジェンスについて解説しています。
デューデリジェンスの目的は、粉飾決済や簿外債務の発見が中心となりますが、同時に買い手側は承継後の統合(PMI)に必要な情報の収集も行っていくことになります。スムーズに新体制へと移行できるかどうかは、デューデリジェンス時からのPMI準備にかかっているといっても過言ではありません。
▼以下の記事では、PMIの全体像や成功ポイントなどについて解説しています。
最終契約の締結・実行手続き
デューデリジェンスの結果、最終契約条件の合意できれば、本契約の締結を行います。
本契約が締結後、次に引き渡しや、登記、行政の認可等の、法人承継実行手続きが行われいます。これらすべての手続きが完了したのち、対価が支払われます。
教職員への通知について
教職員に対して、いつ、どのように告知するかについては、スムーズな承継にあたって非常に重要な事項になります。売り手・買い手でよく協議のうえ、告知の方法やタイミングについて検討していくこととなります。
▼以下の記事では、人事労務デューデリジェンスについて解説しています。
監督官庁の認可
最終条件の調整が整う見込が立った段階で、早めに監督官庁と折衝を開始しておくことが望まれます。
▼以下の記事では、会社売却の事前準備について解説しています。
まとめ
コロナ禍で苦境にあった日本語学校ですが、オンライン授業化や留学生人数の回復に伴い、明るい兆しが見え始めています。そういったなか、新たな経営展開のため、他の教育産業との連携や売却などの選択をとる事例もでてきています。本記事では、日本語学校の業界・M&A動向、手法、事例などを解説しました。事業承継・売却などのご検討の際に参考にしていただけますと幸いです。
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■グループ企業一覧
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■事業内容
会計・税務
M&A(仲介・コンサルティング)
FAS(株価算定/財務調査/企業再編)
人事労務 / 給与計算
相続・事業承継
企業法務・法律顧問
IFRS(国際財務報告基準)・決算開示(ディスクローズ)支援
内部統制(J-SOX)・内部監査
海外現地法人サポート
非上場株式売却コンサルティング(非上場株式サポートセンター)
■社員数
470名(グループ全体 / 2024年12月現在)
税理士42名、公認会計士16名、特定社会保険労務士2名、社会保険労務士15名、弁護士2名
■関与先
法人 3,240社(うち上場企業85社)
社会福祉法人 133件
クリニック・医療法人・介護福祉等 593件
個人 4,015名
合計 7,981件