監修者:伏江 亜矢(株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長) 飲食業・食品製造・酒蔵など担当 |
国内市場の縮小に伴い酒蔵の廃業が増加するなか、前向きな酒蔵の売却・引継ぎ事例が増えています。増加傾向にある輸出ニーズをどのように取り込んでいくのか。酒蔵のM&A実務に精通する専門家が、売却事例、M&A動向、引継ぎ成功ポイント、手続き・費用について解説します。
酒蔵・酒造業界の概要・売却動向
酒蔵・酒造の市場縮小と競争激化
全国約 1,700 の酒蔵が所属する日本酒造組合中央会は、2022年度(1月~12月)の日本酒輸出総額が 474.92億円に達し、13年連続で前年を上回る金額となりました(財務省貿易統計より)。海外において和食ブームと共に海外ではプレミアムな日本酒の価値が認められ、日本酒需要は高待っています。
その一方、日本国内の消費は冷え込みが続いています。農水省の調べによると、日本酒の国内出荷量は昭和48年の170万㎘をピークに減少傾向で推移し、2021年には40万㎘まで減少しています。消費量の減少とともに、当時、3,000場以上あった清酒の酒類製造免許場は、2022年には半分以下の1,550場まで減少しています。
現在の酒蔵にとって、市場での競争相手は、同業者の酒蔵だけではなく、異業種企業や海外企業、飲食企業、食品流通企業などの大手企業となっています。
そのため、これからの酒造業の課題としては、現場での技術の承継や人材確保・育成のほか、市場での競争力を強化し、IT・DX化の推進、マーケティング・ブランディングの強化をしていくことが求められています。
酒蔵売却・M&A動向
このような競争環境のなかで、廃業ではなく第三者への承継・売却(M&A)という選択肢をとる酒蔵が増えてきています。競争激化する業界ではありますが、譲受け先からすると、IT・DX化の遅れや海外市場への展開余地があるため、全国各地の酒蔵に対し、経営改善・販路拡大によるより魅力的な投資先として見る企業やファンドが出てきています。
関連記事:店舗売却の基礎知識|飲食店などを売る方法・相場・費用・税金
酒蔵売却・M&Aの事例
JFLAホールディングス子会社の盛田傘下の酒蔵会社10社を伝統蔵へ譲渡【酒蔵×食品メーカー】
譲渡企業の概要
盛田:JFLAホールディングス(外食業展開)の子会社、日本酒、しょうゆ・みそなどを製造。本件譲渡対象の親会社
■以下、譲渡対象の企業
- 加賀の井酒造(新潟県糸魚川市)
- 老田酒造店(岐阜県高山市)
- 中川酒造(鳥取県鳥取市)
- 千代菊(岐阜県羽島市)
- 常楽酒造(熊本県錦町)
- 佐藤焼酎製造場(宮崎県延岡市)
- 銀盤酒造(富山県黒部市)
- 富士高砂酒造(静岡県富士宮市)
- 阿櫻酒造(秋田県横手市)
- 桜うづまき酒造(愛媛県松山市)
譲受企業の概要
伝統蔵:酒類関連企業のコンサルティング業務
M&Aの実施目的
・コロナ禍による業績低迷を受けた経営改善計画の一環
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [1] | |
スキーム | 株式譲渡 |
実施時期 | 2023年1月 |
結果 | 伝統蔵が、盛田傘下の酒蔵会社10社の株式を取得 |
金井酒造、くじらキャピタルからココハダLABへ売却【酒蔵×投資会社】
譲渡企業の概要
くじらキャピタル:国内中堅中小企業を対象とし、DXを軸に投資戦略を手掛けるファンド
金井酒造:明治元年創業、神奈川県秦野市の酒蔵事業
譲受企業の概要
ココハダLAB:地方創生を掲げたメディア事業やクリエイティブ事業、コンサルなどの地域活性化事業を展開
M&Aの実施目的
・経営改善された金井酒造のさらなる成長
・秦野市の地域活性化
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [2] | |
スキーム | 株式譲渡 |
実施時期 | 2023年1月 |
結果 | ココハダLABが金井酒造の株式を取得 |
夢酒蔵に京銀ネクストファンドが出資、【酒蔵向けコンサル×銀行】
出資を受けた側の企業の概要
夢酒蔵:事業承継問題を抱える酒蔵に対する経営改善コンサルティングを行う。
出資側の企業の概要
京銀ネクストファンド:京都銀行のグループ会社。投資事業を行う。
出資の実施目的
・酒蔵の事業承継課題への支援
・経営支援による企業価値上昇
出資に関する詳細
詳細 [3] | |
実施時期 | 2022年7月 |
結果 | 京銀ネクストファンドは他出資と合わせ |
関連記事:会計事務所のM&A動向・売却相場・メリット・成功事例を解説 | 2023年最新
SAKENOMA運営のEarmo(アカツキ子会社の日本酒セレクトショップ)、MBOを実施
既存株主の概要
アカツキ:「ゲームを軸としたIPプロデュースカンパニー」として事業を展開。その子会社として、Earmoを設立し、「SAKENOMA」事業をスタート
MBO実施側の概要
Earmo:田口 和弘氏が代表を務める。「日本のこだわり」を厳選したECプラットフォームをつくるという構想をもつ。「SAKENOMA」事業をおこなう。
SAKENOMA:プレミアム日本酒のオンラインセレクトショップ
MBOの実施目的
・事業の更なる成長のため、柔軟で迅速な経営判断が可能となる体制を整える
MBOに関する詳細
詳細 [4] | |
スキーム | MBO |
実施時期 | 2022年7月 |
結果 | Earmoが親会社のアカツキが保有するEarmoの株式の取得 |
栄川酒造とリオン・ドールコーポレーションの資本業務提携【酒蔵×スーパー】
譲渡企業の概要
栄川酒造:業歴約 150 年を誇る福島県会津地方を代表する酒造事業を営む
譲受企業の概要
リオン・ドールコーポレーション:福岡県を中心に食品スーパー67店舗を運営
M&Aの実施目的
・栄川酒造の製造する商品の販売支援
・ウイスキー事業の開始による成長
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [5] | |
スキーム | 第三者割当増資による資本業務提携 |
実施時期 | 2021年6月 |
結果 | リオン・ドールコーポレーションは、栄川酒造の発行する81%株式を取得 |
関連記事:ドラッグストア売却の価格相場・交渉術・手続き・最新M&A事例|2023年最新
越後伝衛門をエルアイイーエイチが譲渡
譲渡企業の概要
老松酒蔵:越後伝衛門の全株式を保有していたが、本件にて譲渡。
越後伝衛門:酒類の製造及び販売
譲受企業の概要
譲受企業:相手先の意向により概要は非開示
M&Aの実施目的
・将来的に大きなシナジー効果が見込まれないと判断し、譲渡。
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [6] | |
スキーム | 株式譲渡 |
実施時期 | 2021年7月 |
結果 | エルアイイーエイチは、越後伝衛門の全株式を譲渡価格3700万円で譲渡。 |
関連記事:食品メーカーのM&A動向・売却事例・相場を解説|2023年最新
菊の司酒造と公楽のM&A【酒蔵×飲食】
譲渡企業の概要
菊の司酒蔵:1772年に創業した岩手県の酒蔵
譲受企業の概要
公楽:遊技場経営、飲食、ドローン事業等を展開
M&Aの実施目的
・財務体質の改善
・商品開発力の強化
・中長期におけるブランド力の向上
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [7] | |
スキーム | 株式譲渡 |
実施時期 | 2021年3月 |
結果 | 公楽は、菊の司酒蔵の全株式を取得。 |
ハクレイ酒造と友桝ホールディングスのM&A【酒蔵×飲料メーカー】
譲渡企業の概要
ハクレイ酒造:京都丹後における清酒メーカー
譲受企業の概要
友桝ホールディングス:友桝飲料の持株会社
友桝飲料:清涼飲料メーカー
M&Aの実施目的
・ノウハウの共有による、更なる成長を目指す
・老舗ブランド価値の活用
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [8] | |
スキーム | 株式譲渡 |
実施時期 | 2018年10月 |
結果 | 友桝ホールディングスはハクレイ酒造の100%株式を取得 |
関連記事:業務用食品卸のM&A・売却事例と業界動向|2023年最新
瀬戸酒造店とオリエンタルコンサルタンツのM&A【酒蔵×コンサル】
譲渡企業の概要
瀬戸酒造:純米酒を製造・販売
譲受企業の概要
オリエンタルコンサルタンツ:総合建設コンサルティング事業
M&Aの実施目的
・地域で生産されたもの生かした新たな商品開発
・地域活性化に取り組む
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [9] | |
スキーム | 株式譲渡 |
実施時期 | 2017年6月 |
結果 | 100% |
菱友醸造と磐栄運送のM&A【酒蔵×運送】
譲渡企業の概要
菱友醸造:「御湖鶴」のブランドで日本酒を製造・販売。2017年4月に自己破産。
譲受企業の概要
盤栄運送:福岡県いわき市にて、運送・倉庫業が中心
M&Aの実施目的
・多角化の一環として、ものづくりに進出
・酒蔵地域の活性化
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [10][11] | |
スキーム | 事業譲渡入札 |
実施時期 | 2018年 |
結果 | 磐栄運送は事業譲渡の入札によって菱友醸造の有していた酒蔵設備を取得 |
関連記事:フィットネス・スポーツジムの動向・M&A事例・売却メリット・相場を解説2023
米澤酒造と伊那食品工業のM&A【酒蔵×食品メーカー】
譲渡企業の概要
米澤酒造:酒類の製造・販売
譲受企業の概要
伊那食品工業:寒天の家庭用ブランド「かんてんぱぱ」などを展開する食品メーカー
M&Aの実施目的
・地域の観光資源を守るため
・ノウハウの融合によるさらなる成長
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [12] | |
スキーム | 株式譲渡 |
実施時期 | 2014年 |
結果 | 伊那食品工業が米澤酒造を子会社化 |
関連記事:製造業のM&A動向・事例15選・売却相場を解説|2023年最新
かづの銘酒とドリームリンクのM&A【酒蔵×飲食】
譲渡企業の概要
かづの銘酒:日本酒「千歳盛(ちとせざかり)」を製造・販売
譲受企業の概要
ドリームリンク:居酒屋「半兵ヱ」などを全国展開
M&Aの実施目的
・居酒屋店舗などで販売拡大
・後継者不在のため
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [13] | |
スキーム | 株式譲渡 |
実施時期 | 2017年12月 |
結果 | ドリームリンクは、かづの銘酒の全株式を取得 |
白龍酒造とウエストのM&A【酒蔵×食品加工販売】
譲渡企業の概要
盛田:白龍酒造の完全親会社。「日本の伝統的な食文化の継承」を理念に掲げ、白龍酒造への経営支援を行っていた。
白龍酒造:新潟県にて、清酒醸造を行う酒蔵
譲受企業の概要
ウエスト:新潟県にて、食品加工販売を行う会社
M&Aの実施目的
・白龍酒造の創業家から、地域の有力な企業との資本関係をもって会社を推進したいとの申し出
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [14] | |
スキーム | 株式譲渡 |
実施時期 | 2014年8月 |
結果 | ウエストが白龍酒造の全株式を取得 |
関連記事:工場売却の手続き・必要書類・方法・相場・事例|2023年最新
菊川と神戸物産のM&A【酒蔵×小売】
譲渡企業の概要
菊川:酒造メーカーとして、清酒や焼酎、みりん、醸造アルコール等の製造・販売をおこなう
譲受企業の概要
神戸物産:業務スーパーといった小売店や、レストランを展開 [15]
M&Aの実施目的
・生産物を全国の業務スーパー及びグループ内の外食事業にて販売
・グループの更なる業績の拡大を目指す
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [16] | |
スキーム | 会社分割後の株式譲渡 |
実施時期 | 2014年4月 |
結果 | 神戸物産が菊川の全株式を取得 |
関原酒造と神戸物産のM&A【酒蔵×小売】
譲渡企業の概要
ジーコミュニケーション:神戸物産の孫会社であり、関原酒造の親会社でもある。
関原酒造:新潟県にて日本酒を主とした酒類の製造及び販売を行う
譲受企業の概要
神戸物産:業務スーパーといった小売店や、レストランを展開 [15]
M&Aの実施目的
・事業展開の効率的な推進
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [17] | |
スキーム | 株式譲渡 |
実施時期 | 2013年5月 |
結果 | 神戸物産が関原酒造の全株式を取得 |
関連記事:商社のM&A動向・売却事例・メリット・価格相場|2023年最新
霧島横川酒造とミキカンパニーのM&A【酒蔵×小売】
譲渡企業の概要
コーアツ工業:PC橋梁工事を専門に手掛ける建設会社であり、霧島横川酒造の持株会社。
霧島横川酒造:鹿児島県霧島市にて酒類の製造及び販売
譲受企業の概要
ミキカンパニー:化粧品、石鹸、宝石、衣類の販売
M&Aの実施目的
・グループの事業体制見直し
・経営資源の有効活用
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [18] | |
スキーム | 株式譲渡 |
実施時期 | 2010年12月 |
結果 | ミキカンパニ―が、コーアツ工業の保有する霧島横川酒造の全株式を取得 |
老田酒造とタオイ酒造のM&A【酒蔵×酒蔵】
譲渡企業の概要
老田酒造:岐阜県高山市の酒蔵。2007年10月、JFLAの傘下に入った。
譲受企業の概要
タオイ酒蔵:JFLAが設立した子会社。
M&Aの実施目的
・売却益で負債を返し、会社清算。タオイは「老田酒造」に改名
・グループ内シナジー効果を活かした、経営効率の改善
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [19] | |
スキーム | 事業譲渡 |
契約締結時期 | 2007年10月 |
結果 | タオイ酒蔵が老田酒造の事業を取得 |
老松酒造とエルアイイーエイチ(旧東理ホールディングス)のM&A【酒蔵×食品流通】
譲渡企業の概要
老松酒造:大分県にて酒類の製造販売おこなう
譲受企業の概要
東理ホールディングス:食品流通事業、酒類製造事業。2019年1月、エルアイイーエイチに商号変更。[20]
M&Aの実施目的
・流通における垂直的統合
・収益拡大及び安定化を図る
M&Aの成約に関する詳細
詳細 [21] | |
スキーム | 株式譲渡 |
契約締結時期 | 2002年11月 |
結果 | 東理ホールディングスが老松酒造の株式を取得 |
参考URL:
[1] JFLAホールディングス<3069>子会社の盛田、傘下の酒造会社10社の全保有株式を伝統蔵に譲渡
[2] 中小企業DXファンドのくじらキャピタル、保有する金井酒造店の全株式をココハダLABに譲渡
[3] 京都銀行<8369>、京銀ネクストファンドを通じて酒蔵の事業承継・継続に関する課題への助言を行う夢酒蔵に出資
[4] アカツキ<3932>子会社でプレミアム日本酒のセレクトショップ「SAKENOMA」運営のアーモ(Earmo)、MBOを実施
[5] 当社連結子会社である栄川酒造株式会社の資本業務提携契約締結に関するお知らせ ~ 栄川酒造のウイスキー事業開始及び更なる成長加速に向けた支援体制強化 ~(ヨシムラ・フード・ホールディングス)
[6] 連結子会社の異動(株式譲渡)に関するお知らせ(エルアイイーエイチ)
[8] 友桝ホールディングスによるハクレイ酒造株式会社の事業承継に関するお知らせ(友桝飲料)
[9] 開成町で、慶応元年創業の株式会社瀬戸酒造店を 100%子会社化 6 月 27 日に醸造所建替工事の地鎮祭を挙行(オリエンタルコンサルタンツ)
[10] 自己破産した酒蔵を県外の運送会社が引き継いだ理由(日経ビジネス電子版)
[11] 地酒「御湖鶴」復活へ 福島県の磐栄運送が事業継承(信州・市民新聞グループ)
[12] 日本酒ブームの影で増加する酒蔵の廃業――「買収」という「ポジティブな手法」が蔵元を救う(毎日新聞)
[13] ドリームリンク、後継者不在の酒蔵を子会社化(日本経済新聞)
[14] 孫会社株式の譲渡に伴う特別利益並びに業績見通しに関するお知らせ(ジャパン・フード&リカー・アライアンス)
[15] 会社概要(神戸物産)
[16] 子会社の異動を伴う株式取得(子会社化)に関するお知らせ(神戸物産)
[17] 当社連結子会社(曾孫会社)の株式取得に関するお知らせ(神戸物産)
[19] 地方の小さな蔵元の味、JFLA傘下で再生(asahi.com)
[20] 会社概要(エルアイイーエイチ)
[21] 老松酒造株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ(東理ホールディングス)
酒蔵で増えている第三者への売却・M&Aという選択肢
酒蔵の事業承継の選択肢として、M&A(第三者への承継)は一般的になりつつあります。親族承継では該当者がいない、社内承継ではNo2はいるもののオーナー社長と年齢が近く、かつ販売・開発・技術などすべてを担ってきたオーナー社長の後を継ぐのは難しい、そのようなケースが多いためです。
これまで「消去法」で最後の選択肢として考えられがちであったM&Aですが、成功させるためには数年単位の準備期間が必要であるため、親族承継、社内承継、M&Aという順に検討するのではなく、3つ同時に、もしくは「M&Aこそ一番初めに検討すべき」と言えます。
酒蔵のM&A・売却のメリットとデメリット
酒蔵のM&A・売却のメリットを売り手、買い手別に解説します。
売り手のメリット(廃業との比較)
酒蔵を売却する主なメリットは以下の5つです。
・大手資本獲得による経営基盤・ブランド力の強化
・従業員の雇用維持
・後継者問題の解決
・売却による資金の獲得
・借入金の個人保証の解除
大手資本獲得による経営基盤・ブランド力の強化
例えば、M&A・会社売却によって他の酒蔵会社や異業種企業の子会社となることで、相手先が保有する経営資源を有効活用した売上増加・コスト削減が可能です。
また、大手資本を獲得することにより、ブランド力が上がり、その相手先が持つ営業力、資金力、採用力が自社に取り入れられます
従業員の雇用維持
酒蔵のM&A・売却によるメリットに、従業員の雇用維持が挙げられます。全国各地の酒蔵では、人手の確保、国内市場縮小による利益の圧迫、IT化・DX化の遅れなど、厳しい経営環境を強いられているケースが多いです。一方で経営状況が良好でも、経営者が高齢化しているものの後継者がいない会社もあります。
そういった企業が倒産や廃業をしてしまうことにより、従業員は、雇用を失ってしまいます。M&A・会社売却を行うことで従業員の雇用は守られます。従業員の雇用維持は、中小企業にとって大きなメリットとなります。
後継者問題の解決
近年は、経営者の高齢化や人材不足による後継者問題が影響して、事業承継がうまくいかず廃業してしまう会社が増えており、M&A・会社売却によって、同業種または異業種の大手・中堅企業に引き継いでもらうことにより、後継者問題の解決ができる点も大きなメリットとなります。
>>廃業とM&A(会社売却)の比較について、以下の記事で詳しく解説しています。
売却による資金の獲得
中小会社の経営者は、多額の資金を獲得できるメリットもあります。
売却により得た資金は、新事業の立ち上げや引退後の生活費などいろいろな使途があります。
借入金の個人保証の解除
借入金の個人保証の解除も中小企業の経営者にとって大きなメリットとなります。
売却後、買い手となる企業が自社の借入金を一括返済するケースもあれば、借入自体は継続して、連帯保証を解除する手続きを行うケースもあります。いずれの場合でも中小会社の経営者の精神的負担となっていた、借入金の個人保証は解除される取り決めを行うことが通常です。
事業の選択と集中/ファンドのエグジット
大手企業グループでは選択と集中の一環として、グループ内の酒蔵を売却して切り離す動きも見られます。最新事例でご紹介している、
買い手のメリット
酒蔵を譲り受ける主なメリットは以下の2つです。
・事業規模の拡大によりスケールメリットを享受する
・酒蔵業界への新規参入
事業規模の拡大によりスケールメリットを享受する
M&Aによって同業他社を譲受けできれば、従業員・取引先・拠点や設備等を獲得し、スピーディーに事業拡大ができるメリットがあります。また同時に事業規模拡大に伴うスケールメリット(仕入コストの圧縮など)も享受できます。
酒蔵業界への新規投資
日本酒の製造は国内の需給バランスなどに配慮し、これまで新たな製造免許の交付が制限されていましたが、「日本酒」の輸出拡大に向けた取組等を後押しする観点から、令和2年度税制改正により、輸出用清酒製造免許制度が新たに設けられ、令和3年4月から、当該免許の申請が可能となりました。しかし、依然として国内向けの清酒製造免許の新規取得は困難であることから、酒蔵業界へ進出するためには、既存の酒蔵の譲受けが有効の選択肢となっています。
また、酒蔵は、国内市場の縮小及び海外市場の拡大により、急激に経営環境が激化している業界です。また、IT化やDX化の遅れていることから、経営改善の余地がある業界とされています。また、ブランディングにより海外市場への展開も可能であるため、このような点から経営改善が可能である企業やファンドなどからの投資先として注目されています。
酒蔵の売却・M&Aを成功させるポイント
酒蔵の売却を成功させる上で、一般的に以下のようなポイントが重要になります。
◆早期に検討を開始する(経営者引退や倒産が差し迫ってから行動を開始すると、好条件での売却や、納得のいく事業承継・雇用引継ぎは難しい)
◆時間的余裕があれば、事前に自社に対するデューデリジェンス(プレデューデリジェンス)を行い、問題点と改善策を明確化し、数年程度かけて企業価値を高めてから売却する
◆酒蔵業界の伝統や特殊性をよく理解してくれる相手を選ぶ
◆労務関係のコンプライアンスの確認・改善
◆従業員のモチベーション低下・人材流出の防止
◆会計処理の透明化、資産所有・資金移動におけるオーナー個人と会社の明確な分離
◆過度な競業避止義務(売却した事業と競合する事業を営むことを禁止する規定)を課されないように慎重に協議する
酒蔵の売却手順/流れ
事前準備
自社・競合・市場の分析などを行い、売却の目的や条件などを整理し、売却準備を行います。
▼以下の記事では、会社売却の事前準備について、詳しく解説しています。
②M&A専門会社との契約
通例、買い手候補を探し始める段階(または事前検討の段階)でM&A専門会社(仲介会社など)と契約し、買い手とのマッチングや交渉手続きに関する支援を依頼します。
自社で交渉相手を探すことも可能ではありますが、選定範囲がかなり限定されてしまい、売却の目的・条件を達成できる相手を探し出すことは困難です。また、交渉手続きには幅広い専門知識が求められます。そのため、M&A専門機関の支援のもとで売却を進めるのが一般的です。
▼以下の記事では、M&Aアドバイザーの詳細について解説しています。
③買い手候補とのマッチング
M&A専門機関に買い手候補の探索・紹介を依頼したり、インターネット上で提供されるマッチングシステムを利用して買い手候補を募集したりすることで、有望な交渉相手を探します。
売却を検討している事実が外部に漏れると、事業やM&Aの遂行に支障をきたす恐れがあるため、この段階では社名などは伏せ、会社が特定できないような情報だけを相手方に提示します。
④初期交渉・トップ面談
有望な交渉相手が現れたら秘密保持契約を締結し、社名を含むより詳細な情報を交換して、相手企業に対する分析や予備的な交渉を行います。M&Aに関する意向を確認しあうため、経営トップ同士の面談も行われます。
⑤基本合意
M&A取引の見通しが立ち、M&A契約締結に向けた本格的な協議に入ることが決まったら、基本合意を取り交わします。
基本合意に盛り込まれる主な事項は、大きく分けて以下の2つです。
◆M&Aのスキームや条件についての暫定的な合意内容の確認(法的拘束力はなく、以後の交渉次第で変更もありうる事項)
◆以後における交渉の進め方に関する義務(独占交渉権の付与、デューデリジェンスへの協力など、法的拘束力のある事項)
▼以下の記事では、基本合意書の重要条項や確認ポイントなどについて解説しています。
⑥デューデリジェンス
買い手側はデューデリジェンスを行い、売り手企業が抱えるリスク・問題点を精査します。売り手側は資料提供などによりデューデリジェンスに協力します。
▼以下の記事では、財務デューデリジェンスについて解説しています。
⑦最終交渉~M&A契約締結
デューデリジェンスの結果を受けて最終的な条件交渉が行われ、交渉がまとまればM&A取引契約(株式譲渡契約など)が締結されます。
売却でかかる税金(廃業との比較)
第三者へに売却する際に発生する税金について、廃業の場合と比較して解説します。
M&Aでかかる税金
酒蔵の売却においては許認可の関係で株式譲渡のスキームが一般的です。株式譲渡のスキームでは、売り手となった経営者に株式の譲渡所得に対する税金が発生します。株式の譲渡所得の計算式は次のとおりです。
譲渡所得の金額=売買価格(譲渡価格)-必要経費(取得費、委託手数料など) 税金の総額=譲渡所得の金額×20.315% |
税金の20.315%の内訳は、消費税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%です。
廃業でかかる税金
廃業の手続きで解散登記を済ませると、期首から解散登記日までの確定申告が必要となり、法人税、消費税、地方税などが発生します。
さらに、清算完了時にも、当該年度の確定申告が必要で、同じく法人税、消費税、地方税などが発生します。
まとめ
国内市場の縮小に伴い酒蔵の廃業が増加するなか、酒蔵の売却・引継ぎ事例が増えています。本記事では、酒蔵における売却事例や手続き・メリット・留意点などを解説しました。酒蔵の引継ぎや売却検討時の参考にしていただけますと幸いです。
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■グループ企業一覧
日本クレアス税理士法人
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株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティング
株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A
株式会社えびすサポート
株式会社結い財産サポート
日本クレアス行政書士法人
■事業内容
会計・税務
M&A(仲介・コンサルティング)
FAS(株価算定/財務調査/企業再編)
人事労務 / 給与計算
相続・事業承継
企業法務・法律顧問
IFRS(国際財務報告基準)・決算開示(ディスクローズ)支援
内部統制(J-SOX)・内部監査
海外現地法人サポート
非上場株式売却コンサルティング(非上場株式サポートセンター)
■社員数
417名(グループ全体 / 2023年10月現在)
税理士(試験合格者含む)56名
公認会計士(試験合格者含む)15名
特定社会保険労務士2名
社会保険労務士(試験合格者含む)12名
弁護士 2名
相続診断士41名
中小企業診断士1名
行政書士4名
■関与先
法人 3,240社(うち上場企業85社)
社会福祉法人 133件
クリニック・医療法人・介護福祉等 593件
個人 4,015名
合計 7,981件
M&A売却・事業承継案件一覧|CREASマッチング
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