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化粧品OEM業界の動向・M&A事例・売却メリット2023
監修者:伏江 亜矢(株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長 )
製造業(化粧品・化学・バイオ・食品・素材など)担当

ブランド化粧品等の製造を請け負う化粧品OEM業界はコロナ禍を受けて需要が縮小傾向(特にメイク品関連)に転じましたが、一部で回復の兆しが見えてきています。本記事では、化粧品OEMの業界動向、M&A事例、売却メリット、流れ、売却相場、工場売却の基礎知識などを解説します。

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化粧品OEM業界の概要・動向

化粧品OEM・ODMとは

OEMとはOriginal Equipment Manufacturerの略です。化粧品OEM会社は、化粧品メーカーや製薬メーカー等のブランド化粧品の受託製造を行っています。また、化粧品OEM会社の中には、製品の開発段階から受託するODM(Original Design Manufacturing)も可能な企業も多く存在します。

化粧品業界の市場規模とコロナ禍の影響

世界の化粧品市場規模は約4,263億USドル(2019年、約46.5兆円)、日本の化粧品市場は約350億USドル(同年、約3.8兆円)であり、米国(同年、約777億USドル(約8.5兆円))、中国(2019年、約572億USドル(約6.2兆円))に次いで世界第3位の化粧品大国となっています。

日本製の化粧品は、外国人観光客によるインバウンド需要が増大し、出荷額は2019年度に1.7兆円を超え、過去最高を記録しましたが、 新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行により、外国人観光客によるインバウンド需要は瞬く間に消失、外出自粛により国内需要は2年連続で減少し、出荷額は2021年度に1兆3,529億円となっています。

化粧品OEM会社の主な製造委託元は化粧品メーカーであり、化粧品OEM会社のなかでも特にメイクアップ系を中心に受託生産していた化粧品OEM会社は大きな打撃を受けました。

参考:化粧品産業ビジョン/令和3年4月経済産業省・日本化粧品工業連合会

日本の化粧品産業の展望/ファイナンス 2023 Feb

異業種からの化粧品ビジネスへの参入と化粧品OEM会社との協業

化粧品OEM会社は、もともと化粧品メーカーの多品種少量生産を補完する役割を担っていましたが、現在は化粧品製造設備を持たない異業種企業からプライベートブランド等の化粧品製造を委託するケースが多く見られます。

2022年3月、家電メーカーのシャープが同社初の化粧品事業に参入し、マスク着用の日常化に伴う肌の悩みに応える医薬部外品のスキンケアアイテムを販売することが話題に上がりました。この製品は化粧品のOEM事業を手掛けるコスモビューティーと協業で開発しています。

このように化粧品ビジネスのノウハウや設備を持たない異業種企業の新規参入を化粧品のOEM会社が支えています。そのため、化粧品OEM会社の製造委託元は、化粧品メーカーのほか、医薬品メーカー、食品・飲料メーカー、アパレルメーカー、ドラッグストア、コンビニエンスストアなど多岐にわたっています。

関連記事:美容室サロンの相場や高く売るコツとは|流れ・成功事例等の解説

関連記事:ドラッグストア売却の価格相場・交渉術・手続き・最新M&A事例|2023年最新

参考:日本経済新聞「シャープ、化粧品に参入 保湿クリームや化粧水」

化粧品OEMにおける主なプレーヤー

コスモビューティー/非上場

売上高530億392万円(2023年3月実績)、従業員1,173名(2023年3月実績)※グループ全体

化粧品や医薬部外品などのOEM事業、業務用化成品のナショナルブランド事業を行う。

参考:コスモビューティー公式サイト

日本コルマー/非上場

売上高493億2700万円(2022年3月期)、従業員2,199名(2022年6月現在)

化粧品OEM/ODM事業を行う。生産拠点は国内にとどまらず、中国、ベトナムや韓国にも工場を有しています。多くの海外有名ブランドメーカーの化粧品を生産してきたノウハウを持ち、国際的に展開している化粧品企業のニーズにも充分対応できます。

参考:日本コルマー公式サイト

東洋ビューティー/非上場

従業員数930名

化粧品OEM/ODM事業を行う。スキンケアおよびトイレタリー製品を主力。主要取引先は以下の通り。

ユニリーバ・ジャパン、扶洋、コーセー、コーセーコスメポート、ハウス オブ ローゼ、シャルレ、全薬工業、大正製薬、ポーラ、凸版印刷、吉野工業所、レンゴー、岩瀬コスファ、日光ケミカルズ、他有名化粧品企業など

参考:東洋ビューティー公式サイト

AFC-HDアムスライフサイエンス/東証スタンダード上場

売上高229億9,700万円(2022年8月期)

従業員数451名 / 連結 1,634名 ※パート含む(2022年8月末日現在) 

健康食品の受託製造が主。後発品薬、漢方等も対応。自社製品を店舗等で販売している。

日本色材工業研究所/東証スタンダード上場

売上高117.6億円(2023年2期)、従業員数678名(2022年2月末)※グループ全体

化粧品OEM/ODM事業を行い、日本とフランスに工場を持つ。メイクアップ系に強みを持ち、製薬など異業種からの受託も多いのが特徴。

参考:日本色材工業研究所公式サイト

化粧品OEMのM&A・売却動向

化粧品OEM業界のM&Aについて、買い手側としては、化粧品メーカーや異業種による内製化(プライベートブランド商品の開発力強化や生産体制の拡充・内製化)を目的として一定の買収ニーズがあります。一方、売り手側としては、経営安定化や選択と集中、事業承継などの目的として売却ニーズがあります。そのため、今後も同業界においては一定数のM&Aの実施が見込まれます。

化粧品OEM会社のM&Aメリット(売り手・買い手)

化粧品OEM会社の売却メリット

売り手側としては、各社の状況に応じて以下のような様々なメリットが期待できます。

◆大手グループへの傘下入りによる経営安定化、中長期的な事業成長の実現

◆売却益を獲得し、引退後の生活資金や新たな起業の資金として活用

◆買い手の信用力により経営者保証を解除

◆後継者不在でも事業承継が可能

◆廃業を回避し、従業員の雇用を維持できる

◆採算性の低い部門・工場などの売却を通して事業構造改革を推進できる(事業の選択と集中)

◆経営難に陥っていてもスポンサー企業のもとで事業再生が可能

◆倒産時に優良事業(買い手がつく事業)を切り離して売却することでダメージ軽減や雇用維持が可能

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化粧品OEM会社の買収メリット

買い手としては、既存事業拡大や新事業立ち上げにかかる時間を大幅に短縮できる(成長を加速できる)ことが、M&Aの基本的なメリットです。

具体的には以下のようなメリットが期待できます。

◆製品ラインナップや技術の補完・拡充による売上拡大、開発力強化

◆経営資源(拠点・設備・システム・人材など)の統廃合・合理化によるコスト削減

◆製造過程の内製化、生産体制拡充

◆化粧品ビジネスへの進出

関連記事:食品メーカーのM&A動向・売却事例・相場を解説|2023年最新

化粧品OEMのM&A事例  

2022年から2023年初頭にかけて行われた化粧品OEMの売却事例を紹介します。

アイメイトのメイクアップ化粧品OEM事業をちふれHDに譲渡【化粧品OEM×化粧品メーカー】

譲渡企業の概要

株式会社アイメイトは、1938年に色鉛筆芯、1946年に日本で初めてアイブロウペンシルの製造を手掛け、化粧ペンシル、その他メイクアップ化粧品の製造を得意とするメーカーです。[1]

譲受企業の概要

ちふれホールディングス株式会社は、2022年9月に75周年を迎える総合化粧品メーカーです。現在はちふれグループとして、5つの化粧品ブランドと1つの化粧道具ブランドを展開しています。[1]

M&Aの目的・背景

株式会社アイメイトが長年に亘って追求してきた守り継いでいくべき技術力と生産力の保持と、当社グループの生産・技術力を強化し、この先も高品質・適正価格の商品を安定的にお客様にお届けすることを目的としています。[1]

M&Aの手法・価格

2022年8月1日付で、ちふれホールティングスの子会社である株式会社アイメイト分割準備会社が株式会社アイメイトのメイクアップ化粧品OEM・受託製造事業(アイメイトの商号、事業、従業員)を事業譲渡の手法により譲り受けた。取得価格は非公開。[1]

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ユイット・ラボラトリーズをアクシージアが買収【化粧品OEM×化粧品メーカー】

譲渡企業の概要

ユイット・ラボラトリーズはカタログ通販・ECを展開する千趣会の子会社で、自社ブランド化粧品・医薬部外品の製造・販売事業やOEM事業を展開しています。[2]

譲受企業の概要

アクシージアは、エイジングケア・目元ケアなどのニッチ分野の化粧品・美容機器やサロン向けスキンケア商品を展開するメーカーです。[3]

M&Aの目的・背景

ユイット・ラボラトリーズとしては、両社の長所を融合して事業のさらなる成長・発展を図ることが目的です。[4]

アクシージアとしては以下を目的としています。

M&Aの手法・価格

2022年4月、アクシージアがユイット・ラボラトリーズの全株式を取得しました。取得価格は8億6,000万円です。

関連記事:WEBサービス売却の相場・交渉術・M&A事例2023

[1] 株式会社アイメイトとの事業譲渡契約締結及びグループ会社役員変更のお知らせ

[2] ユイット・ラボラトリーズの子会社k(アクシージア)

[3] ブランド(同上)

[4] アクシージア・グループ参画(ユイット・ラボラトリーズ)

高く売れる化粧品OEM会社の条件は?

買い手から見て買収する価値が高く、多くの買い手が集まる会社ほど高く売れます。買い手によって求めるポイントは異なるため、自社の価値を高く評価してくれる買い手を探し出すことも重要です。

安定した収益力や将来性がある

業績が安定しており、今後も継続して高い収益が望める会社や、成長期にあり、今後も収益拡大が期待できる会社であれば、買い手が買収後の事業展開を描きやすいため、高値での売却が期待できます。

効率化・合理化による改善の余地が大きい

売り手企業単独では業務改善が難しい状況であっても、買い手の資金力やノウハウを投入すれば大幅な効率化・合理化が達成でき、収益力の向上が望める会社であれば、買い手にとって投資対効果が高いため、高額売却が期待できます。

貴重な経営資源を有しており、買い手への統合が容易

代替が効かない独自の技術・ノウハウ、新規獲得が困難な(獲得に時間がかかる)取引先ネットワークなど、希少性のある経営資源を有していれば、買い手が集まりやすく、高額売却につながります。

ただし、そうした経営資源を買い手がうまく引き継いで活用していくことが可能であることが大切です。

例えば、その経営資源が特定の人物(経営者、担当幹部社員など)にしか扱えない状態(属人化している状態)にあり、その人物がM&Aを機に会社から離れてしまうようなケースでは、買い手とって価値が小さいものとなってしまいます。

そうしたケースでは、売却交渉前にノウハウなどを社内で共有し業務を仕組み化しておくか、売却後もその人物がしばらく会社に残って引き継ぎに協力することを契約に定めることで、価値低下を防ぐ必要があります。

買いニーズの多い業種・分野に属する

一般的に、以下の①~③のような分野は買収ニーズが高く、買い手が多く集まりやすい傾向があり、高値での売却が期待できます。

高く売れやすい分野の特徴該当する製造業/売却先の例
①成長期にあり、市場からの投資・期待が集まっている バイオ関連/同業大手、ファンド、総合商社
②成熟期にあり、業界再編が進行している工作機械、半導体関連(製造装置・素材など)、食品/同業中堅・大手、専門商社
③異業種との協業によるシナジーが見込める 食品/食品小売・卸売、飲食サービス

成長期にあり、今後も大きな需要拡大・市場成長が見込める分野(①)では、大企業やファンドなどによる出資の動きも盛んで、買い手の間で競争状態になるため、売却価格の相場が上がります。

成熟期に入り、需要拡大が鈍化して、競争と淘汰が激しくなった分野(②)においては、さらなる成長や生き残りをかけた業界再編の動きが起こり、同業・関連業種間のM&Aが活発化します。単独では事業の成長・継続が難しい会社でも、有用な経営資源を保有していれば、買い手が集まり、高値での売却につながります。

隣接する業種が多く、異業種間協業による多様なシナジーが見込める分野(③)においては、M&Aの相手となる企業の範囲が広く、買い手が得られやすいため、売却価格相場が高くなる傾向があります。

関連記事:フィットネス・スポーツジムの動向・M&A事例・売却メリット・相場を解説2023

関連記事:ラーメン店売却の基礎知識・手法・相場・費用・税金

買い手との相性がよい

M&Aは結婚にたとえられることがあるように、売り手と買い手の相性が重要です。

経営理念や経営者の考え方といったレベルの相性だけでなく、具体的な経営資源(製品、技術、ノウハウ、人材、販路、取引先など)の相性(互いに補完し合い、高め合えるような関係にあるかどうか)が、M&Aの成功率やシナジーの大きさを左右します。

自社の真価を理解し、活かしてくれるような買い手を探すとともに、交渉相手に対して自社の経営資源の有用性をアピールしていくことが重要です。

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化粧品OEM会社の売却価格相場

M&Aの売却価格は売り手・買い手の交渉で決定されますが、価格交渉のための合理的な目安として株式価値評価(企業価値評価)が利用されます。

企業価値評価には3つのアプローチがあります。

①コストアプローチ(純資産をもとに評価)

②インカムアプローチ(収益性をもとに評価)

③マーケットアプローチ(株価などの市場評価をもとに評価)

中小企業の売却では①に属する年買法(年倍法)が簡易な評価手法として参考、ベンチャー・中堅・大企業の売却や買い手が上場企業の場合には②のDCF法や③の市場株価法・類似会社比較法(マルチプル法)が主に用いられます。

年買法による中小メーカーの株式価値評価・売却価格相場

年買法(年倍法、時価純資産プラス営業権法)では以下の式で株式価値を評価します。

株式価値=時価純資産+営業利益の2~5年分

時価純資産は、貸借対照表上の資産・負債を時価評価して差し引きしたものです(時価資産-時価負債)。すべての資産・負債を時価評価するのは現実的でないため、不動産や有価証券など、価格が変動しやすいものに絞って時価評価を行い、その他は簿価のままとするのが通例です。

純資産はこれまでの事業活動の結果を示す指標であり、ノウハウや人材力など、収益力を構成する無形の価値(超過収益力)に対する評価は含まれていません。

そこで、年買法では現在の利益の数年分として大雑把に超過収益力を見積もり、時価純資産に加えます。「営業利益の2~5年分」の部分は買い手側の会計において「のれん(営業権)」として計上されるものに当たります。

例えば、時価純資産が7,000万円、営業利益が3,000万円で、営業利益の3年分を超過収益力と見る場合、株式価値(売却価格相場)は1億6,000万円となります。

「2~5年分」という数字はとくに理論的な根拠があるわけではなく、M&A取引の慣行として広まっているものです。

前章で述べた「高く売れる会社の条件」に当てはまるほど、営業利益にかける年数は大きくなり、売却価格の相場が上がります。

DCF法による株式価値評価

DCF法は、事業活動で生み出されるキャッシュフローをもとに株式価値(株主にとっての価値)を評価します。評価の根拠を具体的に説明できるのが利点ですが、予測をベースとし、主観が入る余地が大きいため、マーケットアプローチと併用されるのが通例です。

DCF法では以下の3つのステップで評価が行われます。

1.フリーキャッシュフロー予測

2.事業価値算出

3.株式価値算出

1.フリーキャッシュフロー予測

具体的な事業計画(5年分~10年分程度)をもとに、フリーキャッシュフローを予測します。

フリーキャッシュフローとは、その年に生み出された利益のうち、納税や事業活動への投資に回した金額を除いたものを指し、以下の式で計算されます。

 フリーキャッシュフロー
=税引き後の営業利益+減価償却費-設備投資額-運転資本増額分(+運転資本減額分)

企業が事業活動を継続する上で、まずは納税と設備投資・運転資本にお金を回す必要があり、その後に「使われずに残った」お金が債務返済や株主配当などに当てられます(フリーキャッシュフローの「フリー」は「自由に使える」という意味ではなく、「まだ使われていない」といった意味です)。

つまり、フリーキャッシュフローは企業への投資者(株主や債権者)に帰属する価値と言えます。

5年分の事業計画をもとにする場合、5年目までのフリーキャッシュフローは事業計画から算出し、6年目以降のフリーキャッシュフローは、5年目の金額をもとにして、一定の成長率で増大する(または成長率ゼロで一定の金額が維持される)と見なします。

2.事業価値算出

1で予測したフリーキャッシュフローを「現在価値」に直して合計し、「事業価値」とします。

株式価値評価で考えるのは、「その企業に今いくら投資する価値があるか」です。例えば、M&Aという投資により1年後に1億円がその会社から得られると予測される場合、「その1億円を得るために今いくら投資するのが妥当なのか」と考え、現在投資すべき金額(現在価値)を割り出す必要があります。

つまり、「この投資商品(企業買収)の利回りはどの程度なのか」を考えて、予測されたフリーキャッシュフローから「利回り」に従って逆算して現在投資すべき金額を割り出し、現在価値とするのです。

「利回り」を算出するにはファイナンス理論を駆使する必要があるため、ここでは詳細を省きます。

フリーキャッシュフローの現在価値の合計額は、投資者(株主と債権者)がその会社の事業に期待できる価値(事業価値)です。

3.株式価値算出

フリーキャッシュフローの現在価値合計額(事業価値)に事業外資産(遊休不動産、余剰現預金など)を加えると、投資者から見た企業全体の価値(企業価値)が得られます。

企業価値から、債権者に帰属する価値(借入金・社債などの有利子負債や、未払い残業代、退職給付債務、係争事件で発生する恐れがある損害賠償などの負債類似項目)を引くと、株主にとっての価値(株式価値)となります。

まとめると以下のようになります。

 DCF法による株式価値
=フリーキャッシュフローの現在価値合計額+事業外資産-有利子負債-負債類似項目

市場株価法による株式価値評価

上場企業の場合、株式時価総額をベースに株式価値が算出できます。株価の変動を考慮して一定期間の平均株価を採用したり、支配権プレミアムとして株式時価総額の2割程度を上乗せしたりするのが通例です。

株式取引市場の株価は少数株の取引をもとにした価格ですが、M&Aでは大量の株式を取得して会社の支配権獲得を目指すため、既存株主に売却を促すインセンティブとしてプレミアムを設定するのが一般的で、これを支配権プレミアムと呼びます。

類似会社比較法による株式価値評価

非上場企業の場合、株価などの市場評価を直接用いることはできませんが、事業の内容・規模・成熟度などが類似した上場企業と比較することで、市場評価を利用できます。

例えば、EV/EBITDA倍率を利用して、非上場企業の株式価値を以下のように算出することができます。

1.類似上場企業(少なくとも3~5社程度)を選出
2.類似上場企業のEV(企業価値=株式価値+債権者価値)について市場株価法などを用いて算出
3.類似上場企業のEBITDA(=経常利益+支払利息+減価償却費)を計算
4.譲渡企業のEBITDAを計算
5.「譲渡企業のEBITDA」に「類似上場企業のEV/EBITDAの平均値または中央値」をかけて、譲渡企業のEVを算出
6.譲渡企業のEVから有利子負債などを引いて株式価値を算出

適切な類似上場企業が見つからないことも少なくなく、類似会社比較法が利用できるケースは限られます。

工場(不動産)を売却する際に知っておきたい知識

製造業においては、工場移転や事業ポートフォリオ転換、廃業コスト削減などのために、工場を不動産として売却することも少なくありません。

ここでは、工場を不動産として売却する方法の概要と売却時の会計手続きを解説します。

 工場を不動産として売却する方法

工場は更地にして土地のみを売却する場合と、土地・建物をセットにして売却する場合があります。借地の上に立てた工場を売却する場合、貸主との交渉が必要になります。

工場をリース会社に売り、賃借りして操業を続ける方法(セール&リースバック)もあります。

更地にして土地のみを売却

建物が残ったままだと用途が限られるため、一般的には更地にして売却したほうが買い手はつきやすく、短期間での売却が可能です。ただし、解体費用がかかるため、その分だけ売却益は下がります。

また、工場で特定の有害化学物質を使用していた場合には土壌汚染対策法に基づき土壌調査が必要になります(建物とセットで売る場合も原則として同様です)。[7]

法的義務がないケースでも、工場跡地の売却では自主的に土壌調査を行うことが少なくありません。十分な土壌調査をせずに売却し、後になって土壌汚染が発覚した場合、買主から損害賠償を求められる恐れがあるためです。

以下のような条件に当てはまる土地であれば、より買い手がつきやすく、高値での売却が期待できます。

◆幹線道路・高速道路などへの接続がよい

◆敷地に接する道路に十分な幅がある

◆駐車スペースが十分にある

◆工場地帯に位置している(買い手が工場を建てる場合、規制などの関係で工場地帯の方が容易)

◆土壌汚染の恐れがない

建物と土地をまとめて売却

買い手は限られますが、土地と建物をセットにして売却できれば、より高額の売却益が期待できます。

売却先としては、同分野の製品を製造している製造業者のほか、建物を倉庫や商業施設として再利用したいと考える他分野の事業者などが挙げられます。

以下のような条件に当てはまる建物は買い手がつきやすい傾向があります。

◆建物の構造が標準的(様々な用途に転用しやすい)

◆間仕切りが少なく、スペースを活かしやすい(同上)

◆建築関係法令に適合している

借地権の譲渡

借地の上に建てられた工場の建物を売却する場合には、敷地の借地権も譲渡する必要があります。更地にした上で借地権のみを譲渡するケースもあります。

借地権の譲渡額は当事者間の交渉で決定しますが、相続税計算時の借地権評価額が目安として用いられます。国税庁が公表している路線価や公示価格をもとに土地の時価をもとめ、それに借地権割合(30%~90%)をかけたものが借地権評価額です。[8]

借地権を譲渡するには原則として地主から承諾を得る必要があり(民法612条[9])、借地権譲渡額の1割程度を承諾料として地主に支払うのが慣例です。

セール&リースバック

リース会社などに不動産を売却した上で、買主と賃貸借契約を結び、賃借料を支払いながらその不動産を利用し続けることを、セール&リースバックと言います。

工場のセール&リースバックには以下のようなメリットとデメリットがあります。

メリットデメリット         
○売却によりまとまった額の資金を調達しつつ、工場の操業を継続できる
○工場を閉鎖するケースにおいて、予め一定の売却益は確保しつつ、操業停止のタイミングを柔軟に決めることが可能(取引・雇用関係の調整が済むまで操業を続けるなど)
○不動産運用の自由度が低下する
○将来的に賃料が経営を圧迫するようになる可能性もある
○賃貸借契約が更新できるとは限らない  

工場を不動産として売却する場合の会計手続き

工場の土地・建物を売却した際には、特別損益として固定資産売却損益を計上し、仲介会社に仲介手数料を支払った場合には経費(支払手数料)として計上します。

建物については、売却金額が「取得時の価額から売却時までの減価償却累計額を引いた額」を上回れば固定資産売却益、下回れば固定資産売却損となります。

消費税の納税義務者の場合、建物の売却に際して消費税の計上が必要です(土地の売買は非課税)。[10]

例えば、取得価額1億円、減価償却累計額2,000万円の建物を9,000万円(消費税900万円)で売却し、

仲介手数料が300万円だった場合、以下のような仕訳になります。

借方借方
預金  9,600万円建物1億円
減価償却累計額2,000万円固定資産売却益 1,000万円
支払手数料300万円仮受消費税900万円

土地の場合は減価償却がなく、消費税も非課税です。取得価額1億円の土地を1億2,000万円で売却し、仲介手数料が400万円だった場合、以下のような仕訳になります。

借方貸方
預金  1億1,600万円土地1億円
支払手数料400万円固定資産売却益2,000万円

[7] 土壌汚染対策法の概要(日本環境協会)

[8] 借地権の評価(国税庁)

[9] 民法第612条(e-Gov法令検索)

[10] 消費税のしくみ(国税庁)

製造業の売却を成功させるためのポイント

多くの業種に共通する一般的なポイントと、とくに製造業で問題になりやすいポイントがあります。

一般的なポイント

売却を成功させる上で、一般的に以下のようなポイントが重要になります。

◆早期に検討を開始する(経営者引退や倒産が差し迫ってから行動を開始すると、好条件での売却や、納得のいく事業承継・雇用引継ぎは難しい)

◆余裕があれば、事前に自社に対するデューデリジェンス(プレデューデリジェンス)を行い、問題点と改善策を明確化し、数年程度かけて企業価値を高めてから売却する

◆相性のよい買い手企業を選ぶ

◆労務関係のコンプライアンスの確認・改善

◆従業員のモチベーション低下・人材流出の防止

◆会計処理の透明化、資産所有・資金移動におけるオーナー個人と会社の明確な分離

◆過度な競業避止義務(売却した事業と競合する事業を営むことを禁止する規定)を課されないように慎重に協議する

製造業で問題となりやすいポイント

製造業の売却では、使用技術の権利関係や化学物質規制関連のチェックがしばしば重要なポイントとなります。

製品に使用している技術の権利関係のチェック

他社の保有技術のライセンスを受けて製品に使用している場合、ライセンス契約にチェンジオブコントロール条項が含まれていないかどうかチェックする必要があります。

チェンジオブコントロール条項とは、契約の相手方が他社の子会社となったり、他社に合併されたりした場合に、契約を一方的に解除できるとする条項です。

ライセンスを受けている企業(ライセンシー)がライセンスを与えている企業(ライセンサー)の競合企業に買収された場合、ライセンサーの技術が競合企業グループに利用されることになり、技術情報の流出が起こる恐れもあります。

そのため、ライセンス契約にはチェンジオブコントロール条項が含まれていることが多く、その場合、売却にあたりライセンサーとの協議が必要になることがあります。

自社の保有技術についても、第三者の知的財産権に対する侵害が懸念されるようなものについては、事前にチェックしておくことが必要です。

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化学物質規制に関するチェック

日本国内だけでなく製品輸出先各国における化学物質規制への適合性が問題となります。

普段はあいまいにやり過ごしていた問題がM&Aを機に顕在化し、売却価格の切り下げやM&A取引の中止、売却後の損害賠償問題などに発展するケースも少なくありません。

化学物質の使用・管理状況を法令に沿って再確認し、可能な限り状況を是正しておくことが必要です。

関連記事:化学業界のM&A動向・事例・売却相場|2023年最新

関連記事:バイオ関連企業のM&A・売却事例11選と業界動向|2023年最新

まとめ

本記事では、化粧品OEMの業界動向、M&A事例、売却メリット、流れ、売却相場、工場売却の基礎知識などを解説しました。

化粧品OEM業界のM&Aについては、買い手側としては、化粧品メーカーや異業種による内製化(プライベートブランド商品の開発力強化や生産体制の拡充・内製化)を目的として一定の買収ニーズがあります。一方、売り手側としては、経営安定化や選択と集中、事業承継などの目的として売却ニーズがあります。そのため、今後も同業界においては一定数のM&Aの実施が見込まれます。

関連記事:製造業のM&A動向・事例15選・売却相場を解説|2023年最新

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伏江亜矢
監修者:伏江亜矢
株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長
金融機関で法人営業を担当後、2012年にコーポレート・アドバイザーズ入社。M&Aの事前準備から、候補先のソーシング、企業価値評価、条件交渉、クロージングまで一気通貫した支援を行っている。 ヘルスケア・ライフサイエンス(医療・介護・メーカー・卸商社)、IT・ソフトウエア(Webサービス、システム開発)、人材サービス(派遣、警備、ビルメンテナンス)などのM&A支援経験が豊富。 M&A成功のために必要な情報をわかりやすく解説するコラムサイト「よくわかるM&A」の運営責任者。
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株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A
株式会社えびすサポート
株式会社結い財産サポート
日本クレアス行政書士法人

■事業内容
会計・税務
M&A(仲介・コンサルティング)
FAS(株価算定/財務調査/企業再編)
人事労務 / 給与計算
相続・事業承継
企業法務・法律顧問
IFRS(国際財務報告基準)・決算開示(ディスクローズ)支援
内部統制(J-SOX)・内部監査
海外現地法人サポート
非上場株式売却コンサルティング(非上場株式サポートセンター

■社員数
417名(グループ全体 / 2023年10月現在)
税理士(試験合格者含む)56名
公認会計士(試験合格者含む)15名
特定社会保険労務士2名
社会保険労務士(試験合格者含む)12名
弁護士 2名
相続診断士41名
中小企業診断士1名
行政書士4名

■関与先
法人 3,240社(うち上場企業85社)
社会福祉法人 133件
クリニック・医療法人・介護福祉等 593件
個人 4,015名
合計 7,981件

M&A売却・事業承継案件一覧|CREASマッチング

コーポレート・アドバイザーズM&Aが運営する「CREASマッチング」では、譲渡・売却を希望する案件一覧を掲載しています。

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