監修者:伏江 亜矢(株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A 企業提携第三部 部長) フィットネス・スポーツジム、整骨院、美容室、飲食店などの店舗事業担当 |
フィットネス・スポーツジム業界はコロナ禍を経て大きく業界図や各社の戦略が変化しています。本記事では同業界の動向、各社の戦略、M&A事例などについて解説します。
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フィットネス・スポーツジムの業界動向
総務省「経済構造実態調査」によると、フィットネス・スポーツジムの市場規模は5,343億円(2021年)となっています。2020年以降、コロナ禍の環境変化により、フィットネス・スポーツジム各社は一時休業や不採算店舗の閉鎖を余儀なくされ、大手各社は資本増強や同業との連携、デジタル化の強化等のそれぞれの施策を講じました。[1]
例えば、大手のコナミスポーツは不採算店舗を閉鎖する一方、シニア向けスクール「OyZ(オイズ)」や10~30代向けの利用プラン「U-39」などのプログラムやプランを導入しました。
一方、ルネサンスは、資本政策としていち早く資本の増強(SOMPOホールディングス、住友生命保険)に取り組み、今後の新たな成長資金の確保(アドバンテッジアドバイザーズ)を行いました。事業面ではフィットネスのスクール化やデジタル接点の強化、さらには、2042年まで人口増加が想定されている高齢者の健康課題に対し、介護保険の領域において、ニーズが高まるリハビリ特化型デイサービス「元氣ジム」の出店を加速させ、介護及び介護・医療周辺事業領域の拡大を進めています。[2]
フィットネス・スポーツジム業界の主要企業一覧
〇コナミスポーツ(コナミグループ)/直営153か所、受託207か所(2023年3月)
〇セントラルスポーツ/直営183か所、受託60か所、会員数34.2万人(2023年3月)
〇ルネサンス/直営107か所、受託23か所(2023年3月)、会員数37.8万人(2023年6月)
〇RIZAPグループ/chocoZAP 880店舗、会員数80万人(2023年8月)
参考:各社IR資料等より
関連記事:店舗売却の基礎知識|飲食店などを売る方法・相場・費用・税金
フィットネス・スポーツジムのM&A最新事例(2020~2024年)
【損保×フィットネス】SOMPOホールディングスとRIZAPグループが 資本業務提携
SOMPOホールディングス株式会社とRIZAP グループ株式会社は、両社が掲げる「誰もがウェルビーイングを実感できる社会の実現」に向け、2024年6月7日に資本業務提携契約を締結しました。
■目的及び理由
本資本業務提携は、保険・介護事業等を通じて培った強固な顧客基盤・販売網を有し、安心・安全・健康に資する保険商品やサービスをグループで提供するSOMPOホールディングスと、フィットネスや医療連携サービスを通じて健康を増進させるソリューションに強みを有する RIZAP グループが業務提携し、双方の顧客が他方のサービスにアクセスしやすい環境を構築するとともに、長期的には双方が有するデータの利活用等を通じ、双方の強みを活かした新商品及び新サービスを提供することで、健康寿命を延伸し、年を重ねることをポジティブにとらえられる社会の実現を目指すとともに、業務を拡大することを目的とするものです。[24]
【スポーツクラブ】ルネサンス、東急スポーツオアシス株式追加取得(2024年3月予定)
譲渡企業の概要
東急スポーツオアシス:企業ミッションとして「Well-being First!」を掲げ、フィットネスクラブの運営(31店舗 ※2023年7月末時点)に留まらないウェルビーイング総合カンパニーを目指す。
フィットネス関連商品の開発及び販売、アプリ等のデジタルツールを通じたエクササイズ機会の提供等を行う。
健康に関心のあるあらゆる方々を対象とした幅広い事業を展開。
譲受企業の概要
ルネサンス:企業理念「生きがい創造企業としてお客様に健康で快適なライフスタイルを提案する」のもと、健康分野におけるサービスを展開。
- 〇全国でスポーツクラブや介護リハビリ施設などの運営
- 〇企業・健康保険組合の健康づくり支援
- 〇全国の地方自治体の介護予防事業、地方創生事業を受託 等
M&Aの目的・背景
両者の企業理念より、目指す方向性は近く、相互補完関係にある事業を有する両社の連携を強めることを意図。
両社合算で、国内直営スポーツクラブ約140店舗規模の、フィットネス業界最大規模の企業グループとなることによる双方のスケールメリットを期待。
M&Aの手法・価格
ルネサンスの持分法適用関連会社である株式会社東急スポーツオアシス(以下、「東急スポーツオアシス」)について、東急不動産株式会社(以下、「東急不動産」)が保有する東急スポーツオアシスの株式を追加取得することに合意し、当該株式の全てを、2024年3月31日(予定)に当社が譲り受けることを決議。[1]
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【スポーツクラブ】ルネサンス、BEACH TOWNの過半数以上の株式取得
譲渡企業の概要
BEACH TOWN:全国で24か所のアウトドアフィットネス施設を運営・運営受託で展開。
譲受企業の概要
ルネサンス:企業理念「生きがい創造企業としてお客様に健康で快適なライフスタイルを提案する」のもと、健康分野におけるサービスを展開。
- 〇全国でスポーツクラブや介護リハビリ施設などの運営
- 〇企業・健康保険組合の健康づくり支援
- 〇全国の地方自治体の介護予防事業、地方創生事業を受託 等
M&Aの目的・背景
ルネサンス:アウトドアでのフィットネスサービスは将来性があり、アウトドア関連事業の強化・地域創生事業の促進のため。
M&Aの手法・価格
株式会社ルネサンスは、株式会社BEACH TOWNの株式の過半数を取得することについて、基本合意書を締結しました。[2][3]
【保険・リース・総合型ジム】テーオー総合サービス、オカモトへスポーツクラブ事業譲渡
譲渡企業の概要
テーオー総合サービス:保険代理業、総合施設型スポーツクラブの運営事業などを行う[4]
譲受企業の概要
オカモト: 以下事業を行う[5]
- 〇「ジョイフィット」ブランドによるスポーツクラブ(24時間営業ジム・ヨガスタジオなど)
- 〇ガソリンスタンド
- 〇自動車整備
- 〇介護デイサービス
- 〇リユースショップ
- 〇外食店 等
M&Aの目的・背景
テーオー総合サービス:人口減少・競争激化・コロナ禍の影響といった外部環境によるスポーツクラブ事業の成長性悪化
オカモト:「ジョイフィット」事業の拡大
M&Aの手法・価格
2022年1月にオカモトがテーオー総合サービスからスポーツクラブ事業を譲受し、「JOYFIT24 LITE 函館海岸町」として運営開始しました。金額は不明です。[6][7]
関連記事:保険代理店の売却・M&A動向2023|メリット・相場・注意点
関連記事:M&A戦略とは|最近の傾向とM&A成功のポイントを解説
【トレーニング・ジム】ジョイフル本田は、子会社株式(スポーツクラブ)をTHINKフィットネスへ譲渡
譲渡企業の概要
ジョイフルアスレティッククラブ(現MTJフィットネス[23]):ジョイフル本田の100%子会社。総合施設型スポーツクラブの運営、スポーツ関連用品販売事業などおこなう。[8][9]
ジョイフル本田:ホームセンターの運営。大規模商業施設(多数のテナントショップ)の展開[10]
譲受企業の概要
THINKフィットネス:「ゴールドジム」(フィットネス施設)事業や、フィットネス機器の輸出入事業、サプリメント販売事業などをおこなう。[11]
M&Aの目的・背景
ジョイフルアスレティッククラブの事業を共同運営し、経営の効率化を図る。また、ホームセンター事業のスポーツ・健康関連商品の販売の拡充・強化を図る。
M&Aの手法・価格
2021年3月にて、ジョイフル本田がジョイフルアスレティッククラブ株式の67%をTHINKフィットネスへ株式譲渡を行う。金額は非公開。[12]
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【整骨院】エステケイズグループは、RIPPLEと資本業務提携
譲渡企業の概要
RIPPLE:実店舗・オンラインにて運営するパーソナルトレーニングジム事業
譲受企業の概要
ケイズグループ:以下の事業を行う。[13]
- 〇全国130店舗の鍼灸整骨院・エステサロンの運営
- 〇療養費請求代行
- 〇人材紹介コンサルティング 等
M&Aの目的・背景
ケイズグループは、本件M&Aを通して以下のスタイルへの転換を図る
個人顧客 ⇒ 法人顧客
治療目的 ⇒ 予防目的
実店舗運営 ⇒ オンライン運営
M&Aの手法・価格
2022年1月にてケイズグループはRIPPLE一部株式を取得し、資本業務提携を結ぶ。オンライントレーニング部門のの事業を譲受(事業譲渡)。金額は非公開です。[14]
関連記事:資本提携とは|業務提携・M&Aとの違いや、メリット・デメリットを解説
【元プロスポーツ選手(個人が譲り受け)】エイムが伊藤俊亮氏にフィットネスクラブ譲渡
譲渡企業の概要
エイム:以下事業をおこなう。
- 〇総合施設型フィットネスクラブの運営事業
- 〇スポーツ用品販売
- 〇スポーツ指導員育成・派遣
- 〇体育施設運営企画・業務受託事業 等
譲受側(個人)の概要
伊藤俊亮氏(譲受側):Bリーグ千葉ジェッツふなばし元選手。
引退後、同法人内にて法人営業部長として活動。
退職後、不動産賃貸、Bリーグ新人研修、ミニバス向け出張授業講師等行う
M&Aの目的・背景
〈 スエイムの有するフィットネスクラブ運営ノウハウ×プロスポーツ選手としての実績やプロチームスタッフとしての経験 〉の相乗効果によって、地域に根ざしたフィットネスサービスの展開を図る。
M&Aの手法・価格
2021年4月にて、エイムがフィットネスクラブ「エイムブルゲート店(横浜市)」の事業を新設分割により新設会社ビスタに移転。ビスタの全株式を伊藤俊亮氏の経営する法人が取得。取引金額は非公開としている。[15]
関連記事:整骨院・整体サロンの動向と売却のメリット・事例・価格を解説|2023年最新
【整骨院支援】One Third Residence、アトラグループの子会社化へ
譲渡企業の概要
One Third Residence:24時間フィットネスジム6店舗・オンライントレーニングサービス事業を運営。
オンライントレーニングは、ミラー型デバイス「Fitness Mirror」を用いる。[16]
譲受企業の概要
アトラグループ:以下事業を行う。[17]
- 〇情報サービス(柔道整復師・鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師向け)
- 〇療養費請求代行サービス
- 〇整骨院・鍼灸院フランチャイズ
M&Aの目的・背景
One Third Residenceの有する事業(フィットネスクラブと「Fittnes Mirror」事業)を、アトラグループの持つノウハウを利用し、共同で運営していく。
M&Aの手法・価格
2021年7月にて、アトラグループはOne Third Residenceの全株式取得。金額は非公開。[18]
【24時間ジム】ファミリーマートのフィットネス事業をフィットイージーへ譲渡
譲渡企業の概要
ファミリーマート:コンビニフランチャイズ展開。コンビニに併設している24時間営業のジム「Fit&GO」も運営。[19]
譲受企業の概要
フィットイージー:東海を中心に、24時間営業ジム「FIT-EASY」66店舗を展開
M&Aの目的・背景
フィットイージーは全国展開のため、ファミリーマートの運営していたフィットネス事業を譲受
M&Aの手法・価格
2021年2月にて、ファミリーマートが「Fit&GO」の事業をフィットイージーに譲渡。金額は非公開。[20]
【パーソナルジム最大手】RIZAPによるビーアンドディーの買収
譲渡企業の概要
ビーアンドディー:ヒラヤマの子会社。首都圏でスポーツ用品専門店を展開
譲受企業の概要
RIZAP:パーソナルジム業界最大手
M&Aの目的・背景
RIZAPは、自社の健康関連事業とシナジー効果を見込んでおり、スポーツ用品の開発を進めていくとしています。
M&Aの手法・価格
2017年、パーソナルジム業界最大手のRIZAP株式会社は、株式会社ビーアンドディーを取得しました。[21]
関連記事:クリニック・病院の承継・売却相場・方法・税金・事例2023
【ファンド】SOELUが第三者割当増資を実施|引受先:DG Daiwa Ventures等の10社
譲渡企業の概要
SOELU:オンラインフィットネスサービス「SOELU」を運営。
「SOELU」サービスは、ヨガやトレーニングのレッスンをインストラクターとの双方向コミュニケーションで受けられる。コロナ禍により会員数が7倍。
譲受企業の概要
DG Daiwa Ventures:スタートアップ企業を対象に投資・事業育成支援[22]
M&Aの目的・背景
- 〇資金調達
- 〇ブランドの認知度拡大
- 〇インタラクティブなフィットネス体験という付加価値の向上
- 〇マーケティングや採用の強化
M&Aの手法・価格
2021年8月にて、SOELUがリードインベスターのDG Daiwa Ventures初め合計10社を引受先として第三者割当増資を実施。増資額は合計6.5億円。[23]
関連記事:中小企業が上場するには?IPOの条件・メリット・デメリット
[1] 株式会社東急スポーツオアシスの株式追加取得(連結子会社化)に関する補足資料 より抜粋
[2] Fitness Business:ルネサンス、アウトドアフィットネスを展開する株式会社BEACH TOWNの株式取得について基本合意書を締結
[3] Fitness Business:ルネサンス、BEACHTOWN社を買収、アウトドア関連サービス事業を拡充
[7] テーオーホールディングス:連結子会社の一部事業の譲渡に関するお知らせ
[8] ジョイフル本田:事業内容
[9] ジョイフル本田:沿革
[10] ジョイフル本田:グループ事業
[11] ゴールドジムとは
[12] ジョイフル本田:非連結子会社の株式の一部譲渡に関するお知らせ
[13] ケイズグループ:事業内容
[14] ケイズグループ:RIPPLEと資本業務提携及び一部事業譲受のお知らせ
[15] ビスタ:Bリーグ元プロバスケ選手伊藤俊亮 フィットネスクラブをM&Aにて取得のお知らせ
[17] アトラグループ:事業内容
[18] アトラグループ:One Third Residence の買収に関するお知らせ
[20] フィットイージー:ファミリーマートのフィットネス事業譲受のお知らせ
[21] RIZAPグループ:子会社(RIZAP 株式会社)による株式会社ビーアンドディーの株式取得及び
それに伴う子会社の異動に関するお知らせ
[22] DG Daiwa Ventures COMPANY(DG Daiwa Ventures)
フィットネス・スポーツジムオーナーの悩み
フィットネス・スポーツジムはコロナ禍以後、厳しい競争にさらされており、オーナーには以下のような様々な悩み・経営課題が存在します。
悩み・経営課題の例 | |
事業戦略 | ○どのような顧客層・年齢層をターゲットとし、差別化を図っていくか ○新サービスやデジタルマーケティングを強化したいが、資金やノウハウが不足している ○店舗を増やしたいが、同業・競合が飽和状態にあるため難しい ○店舗移転を検討しているが、移転費用(現店舗の原状回復費用など)がネックになっている |
経営不振・退店 | ○競争激化・コロナ禍などで業績が落ち、資金繰りが悪化している ○経営不振で廃業を検討しているが、従業員や患者・利用者のことを考えると踏み切れない ○退店・廃業の費用をどうまかなうか、どうすれば抑えられるか ○今すぐにでも閉店したいが、賃貸契約の解約予告期間が障害になっている |
引退・事業承継 | ○引退を考えており、誰かに引き継いで欲しいが、身内・身近に後継者がいない ○後継者がおらず廃業を検討しているが、できれば従業員の雇用は守りたい ○引退・承継にあたり、経営者保証を解除したい ○現在の店舗を誰かに引き継いでもらい、別の事業に乗り出したい |
売却の活用メリット
売却には以下の2つの方法があります。
①フィットネス・スポーツジムの事業そのものを譲渡し、他社と一体化する(事業譲渡、会社分割など)
②株式の譲渡などにより、他社の子会社となる(株式譲渡、株式交換など)
フィットネス・スポーツジムの場合、1~数店舗程度を売却する場合には①の事業譲渡、十数店舗を展開する企業が全店舗を売却するような場合には②が用いられるのが一般的です。
いずれの方法にも、以下のようなメリットがあります。
◆経営安定化・事業拡大
◆資金獲得
◆退店コスト削減
◆後継者不在問題解消
◆従業員・利用者の引継ぎ
大きな企業グループに入ることで経営安定化・事業拡大ができる
豊富な経営基盤を有する企業グループに入り、グループの信用力・認知度・ノウハウなどを活用することで、財務基盤安定化、集客力強化、新しいサービスの開拓などが可能になります。
特定のブランド名で多店舗を展開する同業者グループに事業を譲渡し、同ブランドの店舗としてリニューアルして運営を継続したり、株式を譲渡して子会社となり、現在のブランドを維持しながらグループの一員として事業展開を図ったりする例がよく見られます。
事業資金・生活資金が獲得できる
経営が十分に成り立っていて、今後も安定的な収益が期待できるフィットネス・スポーツジムの場合、売却によりまとまった額の売却益を得ることができ、新事業を起こすための資金や引退後の生活資金などとして活用できます。
経営がうまくいっていない場合でも、買い手によっては立地、認知度、設備・内装、人材などの経営資源を評価し、相応の買収価格を提示するケースもあります。
複数店舗のうちの一部店舗のみを売却し、注力事業に売却益を投資して事業構造改革・事業拡大を図るという活用方法もあります(いわゆる「選択と集中」)。
退店コスト削減ができる
賃貸物件で営業している店舗を閉める場合、通常は借りたときの状態(原状)に戻してから明け渡す必要があり、内装などを解体するための費用(原状回復費用)がかかります。不要な設備などは処分(売却)することになりますが、大した売値はつかないことが多く、原状回復費用と差し引きして大幅なマイナスになるのが普通です。
通例、賃貸契約では退去日の一定期間前(通常は3~6ヶ月前)に家主に対して解約予告を出すことが義務づけられており、営業してもしなくても解約日までの家賃がかかります。十分に採算がとれている場合は解約まで営業を続ければよいわけですが、そうでない場合は解約日までの家賃が一種の退店コストとなります。
倒産後であっても、事業のなかに採算が見込める部分があればその部分だけ買い手がつくこともあり、売却により負債を減らすことができます。
後継者不在でも事業承継ができる
後継者不在問題を抱えている中小企業・個人事業主は少なくありませんが、売却による第三者への承継を選択肢に入れれば、事業承継の可能性は大きく広がります。
近年では売却(M&A)などによる第三者への承継が増加傾向にあり、事業承継において売却という選択肢が一般的なものになってきています。
従業員や患者・利用者を引き継げる
廃業・倒産は従業員や患者・利用者への影響が大きく、地域の雇用やサービスを失わせる結果となります。
雇用契約やサービスの契約、患者・利用者のデータなどを買い手に引き継ぐことで、雇用を守り、サービス提供者としての責任を果たすことが可能になります。
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フィットネス・スポーツジム店舗の売却価格の決め方
M&Aの売却価格は、企業価値評価をもとにして当事者間の協議により決定します。
企業価値評価には様々な手法がありますが、中小企業の売却のような比較的小規模なM&Aでは、年買法(年倍法)という簡易的な手法がしばしば用いられます。
▼以下の記事では、M&Aの価格の決め方について解説しています。
年買法(年倍法)による企業価値評価
年買法では以下の式で企業価値を評価します。
企業価値=時価純資産+直近年度の利益(または数年分の平均値)の2~5倍程度 |
純資産(=資産総額-負債総額)は過去から現在にいたる事業活動の結果を金額で表したものです。帳簿上の資産・負債の額は現在の価値と乖離している場合があるため、資産・負債を時価で評価し直した上で差し引きして時価純資産を求めます。
経営破綻状態で、今後利益が発生することが見込めない(収益力がゼロの)ケースでは、純資産額が企業価値と見なされます。
売り手企業に収益力があり、将来的に利益が発生すると見込まれる場合には、その分の価値を見積もって純資産額に加える必要があります。
将来の収益力を合理的に評価するためには、詳細な事業計画をもとに利益の値を具体的に予測した上で、リスクを加味して現在の価値に引き直す、という複雑な計算手続きが必要です。規模の大きいM&Aや上場企業が買い手となるM&Aではそうした計算を用いた手法(DCF法)で企業価値評価が行われます。
これは一般的な中小企業には難しいことなので、年買法では「現状の利益の数年分」として将来の収益力を簡易的に見積もります。
利益にかける年数は一般的には「2~5」が相場とされますが、業種や地域などにより相場は異なります。
実際の年数は以下のような様々な要因を総合的に考慮して決定され、相場を超えることもあれば下回ることもあります。
○利益や財務の状況
○利用者の数
○立地
○設備や内装の状態
○引き継げる人材の価値
○店舗賃料(地域相場より安いとプラス評価)
○解約予告の有無(すでに解約予告を出している場合、解約日までに譲渡を実行しなければならないことなどから、売り手側にとって不利になりやすい)
○事業の引継ぎやすさ
事業の引継ぎやすさは、インストラクターが1人で切り盛りしているフィットネス・スポーツジムを売却して引退する場合などに問題となりやすいポイントです。
現体制のもとでは将来的に十分な利益が見込める店舗であっても、売却後にインストラクターが抜けることで客離れが起き、集客力が大幅に低下してしまうようであれば、事業の価値を満足に引き継ぐことができないということになり、買い手から見た企業価値が下がります。
こういったケースでは、利益にかける年数が大きく下がり、1以下になることもありえます。現インストラクターが売却後も一定期間在籍して事業引継ぎに協力するといった取り決めを契約に含めることで、企業価値の下落を防ぐことが可能です。
企業価値評価をもとにした売却価格の決定
譲渡企業が売却を行わずこのまま単独で存続すると仮定した場合の企業価値(単独価値)と、譲り受け企業に売却してその子会社や一部門となったと仮定した場合の企業価値は、異なるのが通例です。
譲り受け企業との統合により相乗効果(シナジー)が生まれ、収益力が増すのであれば、企業価値はシナジーの分だけ単独価値よりも大きくなります。
シナジーはM&A後に達成される価値で、失敗のリスクもあるため、買い手としてはシナジー評価額の全額を含む企業価値を売却価格とするのは割に合いません。買い手側はシナジー全額を含む企業価値を上限として、それよりもなるべく低い金額を求めて交渉することになります。
一方、売り手としては、単独価値を下回る金額では明らかに損をすることになりますし、経営権を譲り渡す以上は単独価値にある程度の額を上乗せした(プレミアムを含んだ)価格を求めるのが当然です。
結局、シナジー全額を下回る範囲で、どれだけの額のプレミアムを引き出すかが、売り手にとっての価格交渉のポイントとなります。
期待されるシナジーが大きいほど、より高額の売却価格が期待できます。それだけでなく、売却後の事業や雇用の見通しも明るくなります。M&Aにおいては売り手と買い手の相性が非常に重要です。
売却までの手続きの流れ
売り手側からみたM&Aの流れは、一般的に次の通りになります。
1. M&Aの検討・情報収集
あらゆる可能性を検討(顧問税理士やM&A専門家への相談)
M&Aを検討するきっかけや目的を改めて整理し、ほかの手法とのメリット・デメリットなどの比較したうえで、M&Aを進めるべきかを検討していきます。
ご自身で調べるだけではなく、信頼できる顧問先の会計事務所やM&A仲介会社など、事業承継・経営戦略に関する専門家の無料相談やセミナーなどを活用しながら、検討材料をしっかりと収集することが後悔しない選択をするためのポイントになります。
2.M&Aの準備(自社分析・プレDD)/アドバイザーの選任
M&Aを成功させるためには、相性が良くシナジー効果を発揮できる相手先を探し、双方が相場感を把握したうえで、納得のいく価格で合意することが重要です。
そのためには、まず、双方が自社の強み・経営課題を整理することが大切です。必要な経営資源が浮かび上がり、相手先の条件が見えてきます。その過程においては、M&Aアドバイザー(仲介会社など)を活用することが一般的です。
自社分析(企業価値の把握・強み・課題・M&Aリスクなど)
売り手にとって、価値を上げるための事前準備は、2~5年程度の中期視点の話です。一方、相手先探しや条件交渉などは、半年~2年程度の短期視点の話です。
中期視点(2年~5年)で価値を上げるためのポイントとしては、まず自社の財務内容と収益性、成長性と業界構造を確認します。加えて現時点での企業価値評価を行い、現在の想定売却価格の把握と希望価格(目標金額)を設定します。
関連記事:プレDDとは|企業価値を高めて会社売却をするための事前準備
3. 相手先探し
相手探しの流れ
一般的には、以下の流れで相手探しを実施します(順番が前後することもあります)
1.ロングリスト(数十社程度の候補企業が記載された資料)の作成 2.ショートリスト(さらに数社程度まで候補企業を絞り込んだ資料)の作成 3.ショートリストをもとにした買い手候補の選定 4.ノンネームシート(匿名の売り手の情報が記載されている資料)の作成 5.買い手に対するノンネームシートの開示、買い手による検討 6.買い手との秘密保持契約書の締結 7.企業概要書(具体的に売り手の情報が記載された資料)の開示、買い手による検討 |
企業概要書の検討により、買い手が売り手の買収を前向きに考えたいとの結論に至った場合、これ以降は本格的な交渉に移ります。
なお、売り手側から買い手候補に打診する方法のほか、仲介会社等のプラットフォームにノンネーム情報(匿名情報)を掲載しオファーを待つ、という方法もあります。
関連記事:ドラッグストア売却の価格相場・交渉術・手続き・最新M&A事例|2023年最新
4. トップ面談・意向表明
トップ面談は互いに相性やM&A後の相乗効果・相手方に対するメリット(自社が相手として適している、ということ)をアピールする絶好のチャンスです。第一印象で決まるといっても過言ではないため、アドバイザーに相談のうえ、入念に準備を行うことをお勧めします。
意向表明書は買い手から売り手に一方的に差し入れられる書類であり、その内容に法的拘束力がないことが通常です。しかし、意向表明書では、買い手が想定する取引希望条件や買い手としてのアピールポイント、PMI方針(M&A後の統合プロセス)などが明記されることが多く、売り手にとっては、その買い手と次のステップであるデューデリジェンスへ進めるかどうかを判断する重要な材料になることから、M&A手続きにおいて重要なマイルストーンとして位置づけられています。
関連記事:意向表明書(LOI)とは?書き方、サンプル書式、基本合意書との違いを解説
5. M&Aの条件調整・基本合意書の締結
売り手・買い手の間でM&Aの成立に向けた基本的な条件(スキーム、価格、実行日、従業員の雇用条件など)について合意します。
両社の意向が一致する部分(事業の成長性を図るなど)は相互に確認をお行い、意向が異なる部分(例えば価格など)については、アドバイザーが調整を行います。
基本合意が成立した場合には、通常は売り手が買い手に対し、一定期間の独占交渉権を付与します。
関連記事:基本合意書(MOU)とは?意向表明書との違いや、重要条項、確認ポイントを解説
6. 買収監査(デューデリジェンス)の実行
買い手が実施するデューデリジェンス(買収監査)がスムーズに行われるように、売り手は必要となる資料の準備を行います。また、買い手は売り手の現地調査(マネジメントインタビューなど)も実施します。
関連記事:財務デューデリジェンスとは|PMIを見据えた活用ポイントを解説
関連記事:人事労務デューデリジェンスとは|労務リスクと人事マネジメント上の課題抽出
7. 最終条件調整
デューデリジェンスの結果を踏まえ、売り手・買い手の双方は、最終的な条件合意に向けて調整を行います。また対象企業(売り手企業)の従業員や取引先(借入先、仕入先など)の承諾が必要となる場合には、個別に承諾を取得していきます。
8. 最終契約締結・クロージング(M&Aの実行)
売り手・買い手の双方は、クロージング(M&Aの実行)に必要なタスクの履行を確認し、買い手から売り手に対し譲渡対価の授受が行われます。
◆株式譲渡契約書の主な構成例
・株式譲渡の合意 ・売買代金 ・表明保証 ・誓約事項 ・損害賠償、解除に関する事項 ・秘密保持 ・競業避止義務 |
関連記事:M&Aの表明保証とは?契約時の重要項目、判例、表明保証保険を解説
9. 関係者への開示(ディスクロージャー)
M&Aの実行後には、売り手・買い手の双方は、関係者への説明や、実行後に必要となる諸手続きを進めていきます。
情報開示のタイミングはM&Aを実行した直後が一般的です。しかし、必要に応じて重要取引先や幹部社員、M&A手続き上、開示が必要な従業員(経理担当者等)に対しては、M&Aの実行前に開示することがあります。
また、重要取引先や幹部社員への事前開示や賛同がクロージング条件(売却代金の決済条件)となることもあります。
◆情報開示先の例
・売り手の役員・従業員 ・売り手の取引先企業 ・金融機関(メインバンクなど) ・証券取引所 ※上場企業の場合 |
発表前の情報漏洩に注意するのはもちろんのこと、発表のタイミングや伝え方、幹部社員への事前の根回しなど入念なシナリオが成功につながる重要なポイントとなります。実績・経験豊富なM&A仲介会社のアドバイスを聞いて慎重に進めることをお勧めします。
10. PMI
PMI(=Post Merger Integration)とは、M&A成立後の「経営統合プロセス」を指します。PMIはM&A交渉以上に重要であり、M&A実施後の事業の行方を左右します。PMIの進め方に決まりはなく、自由に実施できますが、「シナジー効果が出るまでやる」ことが基本です。
またPMIは、M&A交渉のトップ面談のときから始まっており、買収調査で必要な事項を検討しておく必要があります。
最も重要なことは売り手・買い手双方での方向性の共有であり、それによって文化の統合を実施します。文化の統合が達成されれば、買い手と売り手の間に本当の信頼関係が生まれます。
関連記事:中小PMIガイドラインとは?基本事項やポイントを紹介
以上が、一般的なM&Aの手続きの流れです。ただし、目的や相手企業の業種によって手続きの流れが異なる場合があります。そのため、M&A仲介会社等の専門家のアドバイスや支援を受けることで、スムーズな手続きを進めることができます。
M&Aにおけるソーシング(買い手側)
買い手にとってM&Aにおけるソーシングは、M&Aの相手先を見つけて交渉を進めるまでの重要プロセスです。買い手がM&Aの相手先(売り手/ターゲット)を見つける(ソーシング)方法は主に2つあります。
◆売却希望案件を紹介してもらう(紹介型M&A) ◆潜在的な売り手に能動的アプローチをする(仕掛け型M&A) |
それぞれの方法、メリット・デメリット(注意点)、押さえておくべきキーワードについて解説していきます。
売却希望案件を紹介してもらう(紹介型M&A)
方法 | M&A仲介会社や金融機関に売却希望案件を紹介してもらう |
メリット | 売却意思が固まっている相手と、希望条件が整理された状態で 交渉を開始できるため、検討を進めやすい。 ⇒M&Aの「成立」確率が高い |
デメリット・注意点 | ・M&Aの成立自体を目的化しやすい。 ・人気業種の案件では、多数の競合のなかで選ばれる必要がある。 |
紹介型M&Aは、M&A仲介会社や金融機関が業務受託した売り手(売却希望案件)の情報を基に検討する方法です。
買い手は、まず売り手の社名が伏せられた「ノンネームシート」を基に検討します。買収の可能性があれば、M&A仲介会社と秘密保持契約書(NDA)を締結し、「企業概要書(インフォメーション・メモランダム/IM)」で詳細情報を把握し検討を行います。
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潜在的な売り手に能動的アプローチをする(仕掛け型M&A)
方法 | M&A戦略に合った潜在的な売り手に対し、能動的にアプローチする |
メリット | ・M&A戦略にマッチする相手と他社に先駆けて交渉できる。 ・取り組みを通じてM&A戦略もブラッシュアップできる。 ⇒M&Aの「成立」のみならず「成功」確率が高い |
デメリット/注意点 | ・売却意思を引き出すところから交渉を始める必要がある。 ・仕掛け型のアプローチに精通した担当者やアドバイザーを起用する必要がある。 |
買収を希望する企業が、自社のM&A戦略に基づいて、シナジー(相乗効果)が見込めるM&A潜在層(潜在的な売り手/ターゲット)のリスト(ロングリスト/ショートリスト)を作成し、能動的にアプローチをする方法です。
ファインディングや仕掛け型アプローチともいわれています。
関連記事:M&Aにおけるソーシングとは | 種類・メリット・デメリット・事例を解説
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まとめ
フィットネス・スポーツジムの経営環境は、コロナ禍の影響や競争激化により厳しさを増しています。
M&Aはこうした状況を乗り越え事業成長を図るための手段として有用であり、売り手側にとっても積極的な活用メリットがあります。
売却先としては、同業大手、介護などの隣接分野の企業グループ、多店舗展開企業が代表的です。売却を成功させるためには、期待されるシナジーが大きい買い手企業を選ぶことが重要です。
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■社員数
417名(グループ全体 / 2023年10月現在)
税理士(試験合格者含む)56名
公認会計士(試験合格者含む)15名
特定社会保険労務士2名
社会保険労務士(試験合格者含む)12名
弁護士 2名
相続診断士41名
中小企業診断士1名
行政書士4名
■関与先
法人 3,240社(うち上場企業85社)
社会福祉法人 133件
クリニック・医療法人・介護福祉等 593件
個人 4,015名
合計 7,981件
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