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セミナーレポート(2017年11月29日開催)
第3部「M&Aにおける留意すべき税務トピックス」
M&Aでは手法によって、株式・事業に関する資産や負債などが移転します。それに伴いさまざまな税金が発生します。想定内であれば影響はないものの、想定外の税金が発生すると、資金計画に差し障りがでることもあるでしょう。そのため、税務については事前に詳細に検討し、資金計画に織り込んでおくことが必要となります。今回は、特に留意が必要なケースについてご紹介しました。
■M&Aで留意すべき個別の税務論点
(1)役員退職金
買収会社は対象会社を買収するときに、対象会社の代表者に役員退職金を支払うことが一般的です。その際、役員退職金の計算式としては、一般的に下記の式が用いられています。平成29年度改正において、法人税基本通達で「役員退職金」については定義されましたが、「功績倍率」そのものについては明確に規定されていません。一般的に功績倍率は、代表取締役の退職金であれば「3~3.5」と言われています。
買収後は、対象会社は、買収会社の子会社になることが一般的です。買収後の税務調査では、買収前に支払った「退職金」が論点になるケースがあります。代表者だから功績倍率が「3」であることが、適切でないケースもあります。それは、最終報酬月額を直前に上げたということも考えられるためです。
代表者は会社を譲渡してしまうことから、少しでも多くの役員退職金を手にしたいと思うのが本音でしょう。全体の調整が必要になるケースもありますので、ご留意ください。
(2)少数株主がいる場合の株価(買収会社、旧株主)
株式譲渡のM&Aの場合、対象会社を買収する際に、対象会社の株式を譲り受けます。対象会社の社長が100%の株式を保有していれば簡単ですが、少数株主がいる場合は話が複雑になります。社長が95%、少数株主5名がそれぞれ1%ずつ保有しているケースを考えてみましょう。
少数株主(役員や家族)が保有している株式5%分を買い取る手法は、下記のように大別できるでしょう。
①と②の場合は相続税評価額(純資産簿価)で、③の場合は時価で譲渡されることが一般的です。社長が買い取る価格と、買収側(買い手)が提示・買い取る価格は、価格差があることが多くなります。価格差があると、寄附金、贈与等の論点が発生する原因となります。案件ごとに状況が異なるため一概には言えないものの、株式を動かす場合には、株価についてどのようなリスクがあるかを事前に検討することが大切です。
(3)買収費用
買収費用については、税務上、明確な規定がありません。買収費用を有価証券の取得原価で行うなど保守的に進めるケースもありますし、損金で扱いたいと考える会社もあります。
一般論としては、買収の意思決定(取締役会)までに発生した費用は「損金」として扱い、意思決定後に発生した費用は「取得価額」に含まれることが多いようです。デューデリジェンス費用は意思決定の前に行うのが通常ですので、損金扱いとなることが多いでしょう。しかし、調査官によっては、「損金ではなく取得価額」と指摘をされたケースもありました。実務上問題点となることも多いため、留意が必要となります。
また、上場会社の場合、企業会計基準ですと、取得関連費用は単体決算では「取得価額」として処理しなくてはなりません。一方、連結決算では「費用」扱いとなります。上場会社が直接、単体で払いますと「取得価額」となり、税務上は損金で処理することはできませんのでご留意ください。
一方、買収目的会社SPC(Special Purpose Company)を作り、SPCに買収をさせる場合は、子会社としては単体で開示する対象ではないので損金経理は可能です。
また、SPCに欠損金がある場合、合併による欠損金の引継ぎ制限があるかどうかの検討も必要になります。
(4)中小企業税制
SPCに買収をさせて、その後、合併する場合を考えてみましょう。SPCが事業年度期末をまたいで対象会社と合併するときは、SPCの期末事業年度における資本金の額に注意が必要です。SPCの資本金が1億円超の場合、外形標準課税の対象となります。
企業経営者は、資産の有効活用や業務効率の向上を常に標榜していると思われます。そうしたなかで、企業買収や合併というのも一つの施策として、念頭に置いているでしょう。事業拡大や働き手の確保を目的としたM&Aも増加傾向にあります。
ただし、実際には、成功するM&Aもあれば、失敗するM&Aもあります。失敗に至った場合、買収した会社に欠損金があるから、それを利用すればよいという安易な考え方が以前まで見受けられましたが、現在ではそうした手法は基本的に難しくなっています。また、買収後に合併するケースにおいても、買収年度に発生した一定の損金も利用制限の対象となるように改正がなされました(平成29年度税制改正)。繰越欠損金や損金の利用は、制限対象・期間が拡大しましたので、留意が必要です。
■これまでの組織再編における制限措置
15年ほど前までは、繰越欠損金を有する休眠会社を購入して事業を行うことにより、そこから生じる利益と繰越欠損金の相殺をねらった節税策もみられました。繰越欠損金を相殺することで、納税額を少なくする手法です。しかし、平成18年度税制改正において、制限措置が実施されました。種類と概要は下記の通りです。
制限の種類 | 内容 | |
① | 青色欠損金の引継ぎ制限 | グループの支配関係が5年以内の組織再編成については、支配関係発生事業年度前に生じた欠損金について一定の「引継制限」を設けている |
② | 含み損の「損金算入」制限 | 特定資産にかかる譲渡等損失額の損金不算入制度
欠損金の引継制限を回避するため、含み損を抱えた特定資産を引継、組織再編後に含み損を実現させる場合には、一定の損金算入制限を設けている |
③ | 青色欠損金に含まれる
「含み損」の引継制限・利用制 |
含み損からなる青色欠損金の繰越控除制度
支配関係発生後に発生した欠損金であっても、グループ化以前から保有していた特定資産の譲渡等損失額からなる部分の金額については、一定の引継制限を設けている |
◇一定の要件
特定支配日以後5年経過した日の前日までに下記の事由に該当する場合
・買収前の事業を廃止し、買収前の売上の5倍超の出資または借入をした場合
・買収前の役員全員が退任し、従業員の20%以上が買収前事業に非従事かつ、売上の5倍超の出資または借入をした場合。
・その他、買収前休眠、買収会社に対する債権を有していた場合、買収後の合併で一定の場合等。
■対象期間の見直し(平成29年度 税制改正)
平成18年税制改正で一定の制限が課されたものの、資産を処分するタイミングによっては取扱いが異なっており、支配関係の発生を予定して、その直前に含み損を実現させるといったことが可能でした。そこで、平成29年度税制改正において取扱いが統一されるよう改正がなされました。改正で、譲渡等損失額における欠損金の引継ぎ等に関し、「支配関係発生日前から有していた」「支配関係発生日前から有していた」から「支配関係発生日に属する事業年度開始の日の前から有していた」に期間が見直されました。
譲渡等損失額の発生の期間 | 欠損金の引継ぎ等 | |||
(a) | 支配関係発生事業年度前 | 制限あり | ||
(b) | 支配関係発生日の属する事業年度開始の日から支配関係発生の前日までの間 | 改正前
改正後 |
制限なし
制限あり |
|
(c) |
(=支配関係発生日には特定資産を有する) |
制限あり |
【特定資産とは】
組織再編では、多額の含み損を有する一定の資産を「特定資産」と呼び、譲渡等における損失計上に制限を加えています。特定資産とは、支配関係発生日前から保有している財産のうち、下記の資産以外の資産の譲渡、貸し倒れ、除却等により発生した損失の額をいいます。
◇資産
・棚卸資産(土地等を除く) ・短期売買商品 ・売買目的有価証券
・帳簿価格が1,000万円に満たない資産
・時価が帳簿価格を下回っていない資産
ただし、支配関係が5年超の場合には、原則として欠損金の利用制限はありませんので、今回の改正による影響はないでしょう。M&Aにおける税務は、上記以外にも買収してきた会社を解散する場合や、全役員が退任する場合なども想定されます。それぞれ対応が異なりますので、専門家である私どもにご相談いただきたいです。お早目に相談いただくことで早期の見直しにも着手できます。
■M&Aのスキーム
M&Aのスキームにはいくつかの種類があります。規模拡大を目指す場合は「合併」や「経営統合」があり、他の会社と緩やかな協力関係を形成したい場合には「資本・業務提携」などがあります。「経営統合」のなかでM&Aの代表的なスキームとして良く用いられる「事業譲渡」と「株式譲渡」を取り上げ、税務の論点についてご紹介します。
事業譲渡 ~事業の全部または一部を他の会社へ譲渡する~
◇買収側:取引上「のれん※」が発生する場合には、適正な金額であれば税務上償却が認められ節税効果が見込めます。下記のように、簿価200の会社を、事業譲渡価格(時価)500で買った場合には、その差額の300が「のれん」にあたります。「のれん」は5年で償却が可能ですので、節税効果が見込めます。※のれんとは、資産又は負債の時価評価額と簿価との差をいいますただし、事業譲渡を行った場合、譲渡資産のうちで棚卸資産、固定資産があれば原則として消費税が課税されますので注意が必要です。
⇒ 「のれん」の償却ができ、買い手(買収側)にとって有利
◇売却側:事業譲渡益の法人税課税は実効税率が約30%です。
株式譲渡 ~株式の取得~
◇買収側:株式譲渡の場合、買い手側は「のれん」が発生しません。事業譲渡の場合と比較すると、「のれん」がない分、節税効果は少なくなる傾向があります。
◇売却側:株式譲渡で会社を売却した個人の方は、特にメリットがあるでしょう。それは、個人株主の場合、株式譲渡益課税は20.315%の課税であり、法人税課税の実効税率(約30%)と比較すると抑えられているためです。
⇒ 個人株主の場合、納税額が抑えられるため、株式譲渡での売却は有利
第1部 シナジー効果とは
第2部 譲渡案件の発掘方法
第3部 M&Aにおける税務トピックス
第4部 財務デューデリジェンスの留意点
第5部 労務デューデリジェンスの着眼点
第6部 株価検討とリスク対応の留意点
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